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パーティー前に

 百合園女学院に、クリスマスパーティーに招かれた人々が訪れている。
 校門近くに設けられた受付けでは、職員として働いている桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)と、パートナーのミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)ライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)が、招待客を迎え、会場のホールへ案内をしていた。
「ミルミちゃん、久しぶり」
 綺麗な女性が近づいてきて、恥ずかしげな笑みを浮かべた。
「ミクルちゃん……! 今でもその格好似合うね」
 ミルミが明るい笑い声をあげる。
「そうかな……うーん」
 赤くなり、ちょっと困った顔をしているその女性は、ミクル・フレイバディ(みくる・ふれいばでぃ)
 かつて女装をして百合園女学院に通っていた男の子だ。
 ミルミから『男性も大丈夫なパーティーだけど、ミクルちゃんは女の子の姿ならパーティーに来てくれてもいいよ。来てくれないと怒るからね』とメールが届いたため、しぶしぶ鬘をつけて女装して訪れたのだ。
「じゃ、ミクルちゃんもミルミと同じ可愛いサンタの姿になろう!」
「え!?」
 いつでも女装を解けるよう、パンツ姿できたミクルだが、ミルミに引っ張られて更衣室に連れて行かれてしまうのだった。
「いらっしゃ〜いっ。駐車場はこちらですー」
 ライナが空を飛び、両手を振る。
 神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が飛空艇で訪れたのだ。
「ごきげんよう、優子様、アレナさん」
「お久しぶりです、神楽崎先輩!」
 2人に気付いた百合園の生徒や、招待客が近づいてきた。
 優子とアレナは鈴子たちに会釈と目配せで感謝をすると、皆と共にホールへ向かって歩き出す。
「優子さん、アレナ!」
 2人を見つけて、匿名 某(とくな・なにがし)結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が駆け寄ってきた。
「康之に、招待状ありがとう。今日は楽しませてもらうよ」
「いつも康之さんがお世話になっております」
 某と綾耶が、優子とアレナに挨拶をして、2人へのプレゼントを取り出す。
「こちらこそ、大谷地にはとても世話になっている。今日は来てくれてありがとう」
「ありがとうございます」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、某のパートナーで、アレナの婚約者だ。
 優子は渡されたプレゼントを早速開けてみた。
 中に入っていたのはクリスマスリース……に見せかけた、お菓子セットだった。
 リースについている花や木の実が、包みにくるまれた飴やチョコなどのお菓子なのだ。
「飾ってよし、食べてよしという二重の用途がある。ただし飾る時はお菓子の賞味期限には要注意だ」
 某はそう説明をして、箱の裏側に表示されている賞味期限を指差した。
「それじゃ、クリスマス終わるまで飾っておいて、終わったらお菓子は外してリースはしまっておきましょう」
 アレナがそう優子に提案し、優子が微笑んで頷いた。
「ありがとう、アレナと一緒にいただくよ」
「ありがとうございます。……ところで、康之さんは一緒じゃないんですね」
 アレナは軽く周囲を見回すが、康之の姿はなかった。
「康之はまだ来ていない。奴は……あそこかな?」
 某が空を見上げて、指を指した。
 リンリンと心地の良いベルの音が響き、トナカイに引かれたソリが近づく。
 ある程度、近づいたところで。
「メリークリスマス!」
 サンタが飛び降りた。
 サンタ服にサンタの帽子をかぶったその人物こそ、アレナの婚約者の康之だった。
「メリークリスマスです、康之さん」
 アレナの顔にぱっと笑みが広がった。
 康之はアレナの前に着地する。
「サンタからの今年のプレゼントは、これだ」
 そしてアレナに、リボンを巻いた小熊のぬいぐるみを差し出した。
「『コグマー』だ!」
「わあっ、クマーちゃんの家族です。ありがとうございますっ」
 受け取ったぬいぐるみを、アレナは大切に抱きしめた。
「優子さんにもプレゼントだ!」
 優子には『霊獣のストール』をプレゼント。
 アレナは優子の娘になることを望んでいた。だから康之は優子のことを義理の母になる人と考えていた。
「ありがとう。綺麗な色合いのストールだ」
「今日も寒いけど、身体冷やしたりしないでくれよ。アレナのためにも、いつまでも元気でいてほしいし……っていうの、何か変だよな! あんまり年かわんないのに」
「ああそうか、康之とアレナが結婚したら、優子さんがアレナの親代わりだから、康之のお義母さんになるのか。世間一般の視点から考えたら結構とんでもねえよな……。ま、大抵の事は『契約者だから』で済むのがパラミタクオリティーだから問題ないかな?」
 某が康之たちを見ながら綾耶に言った。
「そうですね。パラミタ的にはそこまでおかしなことではないですが……」
 綾耶は優子の顔を眺めて首をかしげる。
「……ところで、優子さんって何歳……」
 綾耶が疑問に思っていたことを、某が口に出した。
「男性が女性に歳を聞くものじゃないです」
「アッハイ」
 綾耶と某は優子とアレナ、2人と家族になると思われる康之の姿を見ながら考えていた。
(優子さん、大人っぽく見えるけど、少し前まで確か学生だったし……5歳は違わない?)
(康之さんは若く見えますから、6歳くらいは差があるように見えますけれど、とても親子には……)
 ちなみに、優子は康之より6上だ。
 ……6歳ではなく、6日だけど。
「優子さん、お帰り……っていうのはちょっと変だけどな」
 苦笑気味な笑みを浮かべながら、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が近づいてきた。
 シリウスは百合園で教師として働いているが、パラ実極西分校の校長でもあった。
「ただいま。百合園を教師として支えてくれていて、ありがとう」
「そんな大したことは出来てねぇけどな。あ、これ、パラ実の奴らから」
 シリウスはサンタの袋のような白くて大きな袋を優子に渡した。
 中には、ガラクタのようなものが沢山入っていた。白い粉が入った袋も。
「白い粉は小麦粉だから! ひとつひとつ確かめたから間違いないぜ」
 それはB級四天王である優子を気遣って、パラ実生が入れた見舞いの品や、プレゼントだった。
 優子はちょっと反応に困った後。
「……嬉しいよ。では、この粉で作ったお菓子を、キミか若葉分校を通して、皆に届けられればと思う」
「さんきゅ、皆喜ぶと思うぜ!
 それじゃオレは準備の手伝いに戻るな。知っての通り会場はホールだ。更衣室には色々なクリスマス衣装用意されてるらしいぜ」
「はい、ゼスタさんが用意してくれたそうなので、私着替えます」
「それじゃ、またあとで」
 シリウスは準備の為に調理室へと向かい、アレナは更衣室へ。
 優子は客達とともに、ホールへと向った。