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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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12,ブラッディ・ディバイン



 一機が自爆し、一機は奪われた。この場に残されたプラヴァーはあと一機。
 漆黒のパワードスーツのうち二体は、それにも取り付こうと向かうが、当然護衛も最後の一機を守るためにそちらに戦力が注力する。
 自然と、最後のプラヴァーを囲うようになっていく。敵が奪い取ったプラヴァーは、さすがに一人乗りではイコンと戦うのは危険と判断したのか、撤退するつもりらしい。
 最後のプラヴァーのパイロット、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とルカルカ・ルーにとっては、この状況はあまり歓迎できる状況ではなかった。敵と味方が、足元近くまで入り乱れ、身動きが取れないのだ。
 さすがに戦力比で上回っているだけに、護衛側が押している。縦に広がっていた戦線が集約しているのだから、そうなるのはむしろ必然だ。
 この一機は守りきれる。それは間違いないが、奪われたプラヴァーを追うことができない。
「取り戻せないなら、壊すしかないよね」
 既に一機が自爆して失われている今、これ以上損害を出すのは正直避けたい。しかし、奪われない為にこの場から取りうる手段は、ここから攻撃を仕掛けて破壊することぐらいだ。
「外したらどうなるか、わかっているな?」
 ダリルの言葉に、ルカルカは頷く。こちらは、身動きが取れないのだ。撃ち損じたら、反撃の一撃を甘んじて受ける必要がある。足元にいる、敵味方問わずを轢くなりバーニアで焼くなりすればプラヴァーは守れるが、どちらを守るべきかと言えば問われるまでもない。
「誤差は俺が修正する。お前は思うがままに撃て」
 狙いをつける時間はさほどない。こちらが動けば、あちらも気付く。最後の一機だ、どうやったって全員の目がこちらに向いている。腕の稼動範囲から、ターゲットに向ける銃口の微調整、それらを全て頭の中でこなして、実際の動きは淀みなく一手で終える必要がある。
「落ちなさい!」
 淀みなく、完璧に。
「直撃コースだ」
 標的を捉えた。

「そろそろ、観念してもらおうか」
 氷室 カイ(ひむろ・かい)が告げる。
 地道な戦いだった。漆黒のパワードスーツは、防御に関しては間違いなく一級品だ。中身も、それを扱うにふさわしい人間なのだろう。だからこそ、正直ここまで時間をかけさせられるとは思わなかった。
 そのため、徹底的に防戦に拘った。戦って倒す必要など最初からなく、プラヴァーを護衛できればいいと割り切るのなら、相手を倒すことはそこまで重要じゃない。むしろ、長期戦は相手の望まぬところのはずだ。
「武器を失ったあたなに勝ち目はありません」
 リラ・プープルロート(りら・ぷーぷるろーと)は既に次の魔法の準備を整えている。彼女の援護があればこそ、こうして相手を釘付けにしていられている。
 対処は単純だ。
 とにかく、相手に抜かれることを防ぐこと。リラの魔法の援護があれば、途中の不意の動きにもけん制がきく。そして、相手の攻撃を誘うことだ。高性能に奢った動きをしない相手を動かすには、苛立ちを誘うことだ。無理に誘わなくても、時間が経過するだけて相手には焦りが産まれる。
 まず狙ったのは、レーザーバルカンだ。外装であるこの場所は決して固くない。けん制にも攻撃にも使ってくるこれを排除すれば、大幅に敵の選択を削れる。次に狙ったレーザーブレードはさすがにこちらの意図に気付いたのか、中々手放させることはできなかった。だが、時間が経てばたつほど動きに繊細さは減少していき、つい先ほどそれも弾き飛ばした。
「無手で勝負するなら、受けてたつ」
「……」
 息を呑むような間があった。
 ほんの一秒もないような思考の時間で、カイの相手が選んだ行動は想定していたそのどれでもなかった。
「なっ」
「逃げる気ですか! ……え?」
 突然飛び上がった漆黒のパワードスーツは、空中で爆発した。
 それはあたかも自爆したかのように見えた。情報を渡さぬために、自らの命を絶った。
 だがすぐにそれは違うと、状況が示した。二人の上空を、強烈なエネルギーが通り過ぎていく。ビームアサルトライフルだ、プラヴァーの。
「まさか、自分の身を盾にしたのか」
「……全く、無茶をするものですね」
「誰ですか」
 声のしたほうに振り向くと、そこには漆黒のパワードスーツの姿があった。先ほどカイが戦っていた相手ではなく、武装を全て所持している別の個体だ。その胸に、恐らくはパワードスーツを着ていた人間なのだろう、見知らぬ男性が体を預けていた。
 見るだけでそれが既に息をしている状態ではないのがわかる。
「そろそろ、潮時でしょうね」
 パワードスーツは、仲間の亡骸を抱きかかえると、二人に一度顔を向けた。小さく頭を下げると、その場から離れる。
「追いますか?」
「深追いはしない。追撃部隊はもう用意されてるはずだ。任せよう」

「自分の体を盾にするなんて」
「考えるな、来るぞ」
 敵のプラヴァーの反撃が来る。
 いくらパワードスーツの性能がよくても、対イコン用の兵器であるプラヴァーの銃剣付きビームアサルトライフルに耐えられるわけがない。そんな無茶苦茶が通るのなら、そもそも彼らはイコンなど必要とするわけがないのだ。
 その身を挺した無謀な行動によって、ルカルカの一撃は相手に届かなかった。当然、向こうからの反撃が来る。こちらも当然反撃をするが、固定砲台でしかも体を捻るのがせいぜいと、フィールドを自由に駆け回れる相手では性能差などというのは引き合いにできない。
 一発目の敵の攻撃を、肩で受ける。腕部が破損、左腕の応答が消える。
 大きくバランスが崩れたところに、二発目が届く。恐らくボディを狙って破壊しようとしたのだが、崩れたバランスを立て直すために膝をつかない程度に曲げた結果、頭部が吹き飛ばされる形になった。
「メインカメラが」
「モニターを予備のカメラに切り替える」

「その程度にしておきましょう。そろそろ撤退を始めないと、切り離した一台が合流してしまいます。信号弾を」
 敵プラヴァーのパイロットに、通信が入る。
 それからすぐに、通信を聞いた誰かが信号弾を打ち上げた。撤退の合図だ。少しあとの話しになるが、この作戦中に傍受できた通信はこれが最初で最後である。
 通信を受けたパイロットのもとに、もう一機の漆黒のパワードスーツがやってくる。
「外部スピーカーは……生きてますね。では少々お借りします」
 パイロット用のヘッドセットを受け取ると、漆黒のパワードスーツはフェイスガードを取り外した。そうしなければ、ヘッドセットを装着できない。
 くせっけのある赤い髪を、鬱陶しそうに一度かきあげてからヘッドセットを取り付ける。
「皆様、お初にお目にかかります。鏖殺寺院ブラッディ・ディバインのリーダー、アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインと申します。以後、お見知りおきを」
 最大音量で流された、リーダーの言葉に戦場が停滞する。
「もしかすると、既に我々の名前を耳にした人もいるかもしれません。さる反シャンバラ派の貴族の伝手による資金提供を受け、鏖殺寺院などの反シャンバラ勢力用の兵器開発を請け負っておりました。今は活動を停止した彼らに代わり、その技術を含めてこうして表に出てきたというわけです。我々の目的を成し遂げるために。まず、お礼を。このような素晴らしい技術の結晶を提供して頂けた事に、真に感謝しております。皆様のおかげで、我々より高く飛ぶことができるでしょう。そして―――」
 アルベリッヒは言葉を止め、そこから周囲を見渡した。まだ敵と接触している部分は戦闘になっているところもあるが、撤退の動きは確実に進んでいる。
 聞いた通り、今回の作戦は自分達、ブラッディ・ディバインの尻尾を掴むというのが目的だったようだ。面白いぐらいに自分に視線が集まっている。あの教導団の内通者は、今のところ信用できる情報をよこしてくれているようだ。
「危険を理解してなお共に戦ってくれた仲間に感謝を。命を賭した我が友に最大の賛辞を送りたいと思います。彼の犠牲なくして、我々はこの贈り物を手にすることはできませんした。それでは皆様、またお会いできる日が来ることを楽しみにしております。そうそう、長曽禰広明少佐によろしくお伝え下さい。近い将来、僕の技術があなたを上回ると、ね」
 
「なーんか気に食わないわね」
 逃走していくブラッディ・ディバインを追撃部隊が追いかけていくのを伏見 明子(ふしみ・めいこ)は見送った。漆黒のパワードスーツと少し手合わせをしたが、すぐに逃げられた。臆病者と見るか、冷静と見るか―――いつからかわからないが、荒野を根城にしているのなら、明子の事を知っていた可能性は十分にある。
「ま、あとは教導に任せましょ」
 イコンに乗った相手を、生身で追いかける。そうとうレートの高いギャンブルになるだろう。個人的には、それをやっても全く持って構わないのだが、むしろ掛け金全部かっさらうぐらいの気持ちはあるが、自分の呼びかけに応えて集まった連中を置いていくわけにもいかない。
 教導団の応募に従ったのではなく、名目上は自警団として自主的にここに居る連中は、残念ながら支援を受けられるような立場ではない。鬼ではないはずだから、けが人の治療などはしてくれるだろうとは思うが、発言力のある立場がこの場からいなくなったらそれも不安だ。
 振り返ってみると、こちらも中々の損害だ。
 トレーラー二台に、プラヴァーの二機が半壊。人的被害については、契約者を中心とした戦闘員で構成されていたこともあって、致命的な損害は出ていないようだ。
「響くなぁ、これ」
 でっかい事をやれば、その行為の善悪を問わず箔がつく。箔に限った話しをすれば、悪名も名声も等価だ。ブラッディ・ディバインは、見事にでっかい事をやってのけてしまっている。追撃隊が頑張って、敵を壊滅でもさせない限りは覆らないだろう。
 パートナー達の調査で、彼らはごくごく狭い人間に絞って声をかけているとの報告は受けている。国軍にうらみやねたみの感情を持っている人間はまだまだ居るだろう、それらに対していい広告になってしまった。
 直接軍門に下らなくても、語りや成りきりでまた騒がしくなりそうな予感がする。
「ちょっとした一過性のブームで終わってくんないかなあ」
 そうなるかどうかは、今はまだ予想がつかない。