天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

リアクション公開中!

【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

リアクション


chapter.33 熾天使の遺言 


「いかん、この気配はイレイザーだ!」
熾天使は、巨大な怪物の気配を感じ取って鋭く叫んだ。
「早く止めなくちゃ!」
たいむちゃんと契約者たちは、
熾天使とともに、「イレイザー」と呼ばれた怪物の元へと向かった。

「マジかよ……」
イレイザーを見上げた
葛葉 翔(くずのは・しょう)がつぶやく。
「アリア」
「何、翔クン」
アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が答える。
「たいむちゃんとの約束、覚えてるよな」
「もちろんだよ!」
「サンキュ」
翔は、にっと笑って見せ、グレートソードをかまえた。

「青白磁ちゃん、お願い!」
「おう!」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、
魔鎧の清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)を纏う。
「大丈夫。
強い想いを持っている限り、
詩穂たちは決して負けないよ!」
詩穂が、たいむちゃんに笑いかける。

グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

イレイザーの咆哮が衝撃波となり、契約者たちを吹き飛ばす。
畳み掛けるように、無数の触手の先端にある口から火球が放たれる。

「たいむちゃんが帰れるように、そのために頑張ってきたんだ!
邪魔させないよ!」
セルマ・アリス(せるま・ありす)が、
衝撃波から身をかばいながら叫ぶ。
そして、セルマは、なお、前進しようとする。

「怪我をした方!
下がってください!」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が呼びかける。
「治癒の力を使える方、協力してください、お願いします!」
ローズの呼びかけで、回復魔法が使える者たちが集まる。
しかし、イレイザーの攻撃はとても激しく、
回復は追いつかなかった。

「あと一歩というところで、退くわけにいかないんだ!」
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)も、
鳳凰の拳をイレイザーに叩きつける。
わずかに、金属片のような鱗がはじけ飛んだ。

契約者たちは、苦戦しつつも、
たいむちゃんのために、心を一つにして戦った。
それでも、戦艦を相手に生身で戦うのと同じようなものだ。
少しずつ、動けなくなるものが増え、
じりじりと、契約者たちは追い詰められていった。

このままではやられると思った時。

「やはりイレイザーか! 昇現せよ我がシルエット!!」
熾天使が、その身体に纏うオーラを解き放った。
それは人間大の大きさから、
一気にイコン程度の大きさとなり、
その中心にいる熾天使は、そのままイレイザーに突撃した。

「私達も続きましょう!
あの怪物を倒すのよ!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、
パートナーの
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とともに、
イレイザーに全力攻撃する。

契約者たちと熾天使は共闘して、
イレイザーを追い詰めていった。

皆が、後少しだ、と思った時だった。

「ああっ! ぁあっぁああっ!!」

イレイザーを見たたいむちゃんがその場にへたり込み、
端から見ても尋常にない恐がり方をしていた。
顔をしきりに左右に振って悪夢から逃れるように後退る。
それはまるで本能的にイレイザーから逃れようとしている、
そんな姿だった。

しかし、恐慌を来しており、
実際に後退ったのはたったの数十センチ程度。
しかも、イレイザーは今の今まで戦っていた熾天使や契約者達は見向きもせず、
新たに現れたたいむちゃんをこの世から跡形もなく消すべく、
巨大な顎門を開け、全触手の口を一斉にたいむちゃんに向けた。

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

「くふぅ! 狙いはやはりニルヴァーナ人であったか!
我が同胞だけでは飽き足らず、ニルヴァーナ人の味を覚えた末路がこれか!!」

イレイザーの一斉攻撃から、たいむちゃんを、熾天使はその身で庇った。

「我がシルエットよ、イレイザーの動きを封じよ!」

熾天使はオーラを解き放ち、イレイザーを押さえ込んだ。
契約者たちは、同時に、自分たちの可能な限りの攻撃を行った。

グガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

断末魔の叫びをあげ、イレイザーは地に伏し、動かなくなった。

それと同時に、熾天使も、墜落する。

「熾天使殿!」
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)たち、熾天使を説得していた者たちが駆け寄る。

「しっかりしてください!」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、熾天使の手を取って言う。

熾天使は、穏やかな表情で、契約者たちを見た。
「時代は移ろい、時は満ちたのやもしれぬ。そなたたちなら信じられる」
ゆっくりと、熾天使は言葉をつづけた。
「最後の頼みを、聞いてくれないか」
「待ってくれ、
何を言って……」
牙竜を遮り、熾天使は力強く言った。

「ここではない、もうひとつの月……。
地球の月にいる、私の娘を頼む」

それは、その場にいる全員にはっきりと聞き取れた。

そして、熾天使は静かに目を閉じ……二度と目覚めることはなかった。
「待てよ、大切な人が……娘がいるんだろ!
それに、俺はまだあんたの名前だって聞いてないんだぜ!」
牙竜が、動かない熾天使の肩を抱いて慟哭する。



「長曽禰さん、あなたに借りを作ってしまったようですね。この借りは必ず返します」

その後、
騒ぎの最中に、ブラッディ・ディバイン側の契約者たちは撤退していたことがわかった。