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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.5 対美女陰陽師軍団(4) 


 主戦場。
 トイレでの戦いにひとまずの決着が着いたとはいえ、あまりにもトイレに駆け込んだり、腹痛のせいで満足に戦えない者が多いということで、苦戦が続いていた。
 長引けば長引くほど不利になる。
 そう感じていた生徒たちは、戦略を練って挑むことにした。その戦略とは、先程小次郎や壮太が試してある程度有効であることを示した「呪法集中作戦」である。
 つまり、特定の人物に呪法を集中させ、その隙に他の者が陰陽師を打ち倒すというものだ。

 そして、その作戦にうってつけの人物が数名、ここにいた。
「あんたらの責めはその程度かい? そんなんじゃ俺は屈服しないぜ!」
 威勢の良い声でそう啖呵を切ったのは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)。陽一は陰陽師たちを挑発しているのかと思いきや、なんとあろうことか、おねだりをしていた。
「もっとだ! もっと責めてくれ!」
「……は?」
 陰陽師たちの手が一瞬止まった。何を言っているんだこの人は。彼女らはその真意を測りかねていたが、答えは至極単純なものであった。
 陽一は、今にも下痢のようなものが溢れそうなこの状態を、心地良い刺激として受け止めていたのだ。つまり一言で言うとドMである。
 そのマゾっぷりは、晴明が札を渡そうとした際、「気遣いはありがたいが、そんなもんつけたらスリルが味わえない」という理由で断ったことからもよく分かる。よく分かるが分り難い世界である。
 そしてさらに、その特殊な性癖を持っている者はいた。
「この腹痛……普通ならば大きな障害となるでしょう。しかし」
 何やら粛々とした様子で、風をまとって空から降りてきたその男はクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)だ。パンツしかはいていないクドだ。つまり漏らした瞬間即アウトというデンジャラスな男だ。
「え、ちょっ……」
 これには陰陽師たちも度肝を抜かれたのか、ぽかんと口をだらしなく開けている。クドはそんな彼女たちに諭すように言う。
「しかし、お兄さん的に見れば、美しい乙女たちから頂くその苦痛は、至上のご褒美です。故に、甘受しましょう。身を震わせ、噛み締めるように痛みを味わいましょう」
 聖書にでも出てきそうな一節を唱えながら、クドは両手を広げた。陰陽師たちは思った。
 また変なのが出てきた、と。
 ところが、陽一とクドだけではないのだ。変人は。
「待つのだ! 呪法だか何だか知らんが、パラミタ一有名人であるわしがそれを一手に引き受けてやろうではないか!」
 陽一とクドの間に割って入るように、南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)が出てきた。ヒラニィはふんぞり返って偉そうな姿勢でスタスタと歩み寄ると、陰陽師たちに告げた。
「ふっ、わしは地祇として目覚めてから数千年、腹を下したことがない! 何を食おうとも! どんなプレッシャーに晒されようともだ!」
「……へえ」
 プライドを刺激されたのか、陰陽師たちの眉が動く。ヒラニィはさらに、とどめの一撃を放った。
「それはともかく、蘆屋系美女陰陽師軍団とやら……お主らは本当に『美女』か? ニューハーフではないのか?」
 その言葉に激しく反応したのは、陰陽師の中のひとり、サヤカだった。そう見えることを気にしていたのか、尋常ではない怒りを発していた。
「そんなに苦しみたいなら、思う存分やってあげようじゃないの」
 その言葉を合図に、陰陽師たちは呪法に力を込めた。途端に、ヒラニィが苦しみだす。
「いた、いたたた……タ、タイム、タイムだ……!」
 さっきの腹壊さない自慢はなんだったのか、ヒラニィは数秒でギブアップした。それを見てほくそ笑む陰陽師たちだったが、陽一とクドの反応はヒラニィと少し違っていた。
「ヒギィ! もっと責めて! 呪いだけじゃなく、なじって!」
「お兄さんにも、もっとご褒美をください! あなたたちはこんなものではないでしょう? もっといけるはずですよ!」
「……ええっ?」
 よもや、ふたりがここまで突き抜けていたとは。陰陽師たちは自分たちの理解を超えた生物がいることを、この時初めて知った。
 陽一とクドはそのまま潤んだ瞳で、懇願し続ける。もっとも、厳密に言えばふたりのスタンスは若干違っている。
 呪法集中作戦に忠実に、味方の活路を開くために自分に注意を集めようという意識が少なからず陽一にはあったが、クドは心の底から欲しがっていた。とはいえ、厳かに嗜虐を求めるクドとは対照的に情熱的に求めている陽一を見れば、その区別が一見つかないのも事実であった。
 それを後押しするように、陽一のパートナー、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)がすっと陽一の隣に現れ何かを手渡した。何が入っているかよく分からないペットボトルだ。
「よーし! 私もお手伝いしちゃうぞ〜い! 今のお兄ちゃんには、呪いだけじゃ全然足りないのね! そこでこれ! ほら、下剤よ!」
 入っていたのは、下剤ジュースだった。陽一は「上等だ!」と意気込み、それをぐいっと喉へ通す。横で見ていたクドもなぜか、「お兄さんもいただきましょう」と分け前をもらう。
「いい調子ね! でも飲みっぷりが甘いんじゃない? ほーら、一気! 一気!」
 美由子が手拍子をしながら、美女軍団に近づく。彼女はそのまま美女軍団に手で合図し、「さあ一緒に」というジェスチャーを送った。戸惑う彼女らをよそに、美由子は次なるアイテムを取り出していた。
「まだまだ玩具はあるわよ〜! これでこってり可愛がってやりましょ!」
 言って、出てきたのは鞭やロウソク、縄といった定番アイテムであった。当然、それを見た陽一とクドの目は輝き出す。特にクドの意識は、ピークに達していた。
「ああ、ここはきっとエデンの園……お兄さんにとってのアルカディア! なんて素晴らしい! さあ、皆さん、遠慮せずやっちゃってください!」
 やっちゃってください、と言われても、陰陽師たちはクドのテンションに明らかについていけていない。置いてけぼりだ。
「どうしたのですか? お兄さんは痛みを喜びへと昇華でき、乙女たちはそれを見て喜びを得る。きちんとした相互扶助が、ここにはあるはずですよ?」
 そんなことはお構いなしに、クドのボルテージは限界を突破した。心なしか、股間もテンションが上がっているように見える。それはきっと龍鱗化を彼が使っているからだろう。そう思いたい。負けじと、陽一も熱さを増した。
「女王様! お願いですもっと! 踏んで! 踏んづけて! 靴の裏も舐めるし、全裸で三回回ってワンもやります! だからもっと!」
 もはや作戦なのかどうかも怪しくなってきたところで、陰陽師たちは溜め息を吐きながら呪法を強めた。
「はあ……もう付き合ってらんないし、一気に片をつけるよ」
 手をかざそうとしたその時。
 陰陽師たちの近くにいた美由子が、「いけいけ〜!」と煽るふりをしてその手を大きく振った。その時彼女の手に握られていたのは、陽一から預かっていたしびれ粉であった。
「……!?」
 間近でその粉を吸引してしまった陰陽師たちは、自分たちの腕が思うように動かなくなったことに驚きを隠しきれない様子だ。美由子は満足気に笑うと、陰陽師たちから離れつつ言い放った。
「あはは、こんなことさすがに本気でやらないわよ。お兄ちゃんと私の作戦にまんまと引っかかったようね! さあお兄ちゃん、あとはとどめを……」
 振り返り、陽一を見る美由子。そこには、忠犬のように舌を出しハァハァ言いながらお仕置きを待つ陽一の姿があった。どこから見ても、変態である。
「……お、お兄ちゃん?」
 ダメだ、お兄ちゃんなんか危ないスイッチ入ってる。
 咄嗟に判断した美由子は、陽一とクド以外の生徒たちに合図を送った。今が好機だ、と。
「ほら、ヒラニィ、苦しんでないで、反撃ですよ?」
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)がお腹を押さえているヒラニィに話しかけるが、ヒラニィはそれどころではないようだ。腹痛が起きているのはセラフィーナも同じだったが、肉体の強化によりギリギリ平気を装っていた彼女はそのまま陰陽師たちの攻撃に移る。
「パイロキネシス!」
 セラフィーナが唱えると同時、炎が広く、薄く陰陽師たちの眼前に繰り出される。
 視界を封じることに成功したセラフィーナは、他の生徒たちと共に攻勢へと打って出る……つもりだったが、服の裾をくいと引っ張られ、その動きは一瞬止まった。
「……?」
 彼女の服を引っ張ったのは、ヒラニィだった。
 腹痛が限界? 自分も攻撃に参加したい? そばにいてほしい?
 ヒラニィが何を訴えようとしているのか分からないまま視線を向けるセラフィーナに対して、ヒラニィは息も絶え絶えにゆっくりと告げた。
「……んを……え」
「はい?」
「股間を……ねら……え」
 それだけを言い残して、ヒラニィは倒れた。セラフィーナは思う。
 晴明からもらった札を、こっそりヒラニィの下着に貼っておいて良かったなあ、と。
「動きも鈍らせたし、視界も封じた……皆さん、ここで一気に決めましょう!」
 セラフィーナが気を引き締め直し言うと、生徒たちが一斉に攻めへと転じた。