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リアクション
都内某所。
狩々博士、とあだ名されている老人が倉庫に戻ってきた。
薄暗く、機械油と鉄の入り交じった匂いがする。
本人はここを『研究室』と呼んでいた。
だとすればあまりに簡素なラボラトリーではないか。かつて日本軍の兵器研究施設だったという話だが、戦争の形勢悪化にともない予算は削減の一方だったのだろう。機材のようなものは少なく、あったとしてもそれは、老人が自分でガラクタから組んだものばかりだった。雨漏りもひどい、あちこちに置かれた洗面器に、水の雫がぽちゃぽちゃと落ちていた。
実際、この場所は軍の記録ではとうに閉鎖されている。成果なし、というのが公式に残されている唯一の言葉だ。
しかし博士は咳き込みながら、一心不乱に事故の研究に打ち込んでいた。
「二十一回、失敗した。しかしこの二十二号には成功の望みがある……」
博士が作っているのは人形だった。いや、人形というのは間違いで、正しくは人間型兵器というべきものだ。身長は三メートル、カメラのようなものが頭部に付き、床に足がめり込んでいた。
鋼鉄で組み上げたこのマシンを、博士はと呼んでいた。すなわち軍隊の夢、傷つく生身を持たず、士気の阻喪や疲れもないロボット兵士だ。
鋼鉄で組み上げたこのマシンを、博士は鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)と呼んでいた。すなわち軍隊の夢、傷つく生身を持たず、士気の阻喪や疲れもないロボット兵士だ。その製法には多くの謎があるが。
それにしても博士は、一体なんのために研究を続けているのか。
とうに軍からの依頼はキャンセルになっている。それにそもそも、戦争は終わってしまったのだ。このことを看過するほどに博士は浮世離れしてはいない。
ただ、研究者の意地として、このロボット兵器の完成に心血を注いでいるのだった。
このとき博士は、背後に物音を聞いた。
白く長い髪をふわりと浮かせて振り返る。そこには、博士に孫がいたらこれくらいでは……といった年齢の少女が立っていた。
「ここに……あったのでありますね!」
少女は軍人風の口調で、興奮気味に顔を上気させていた。さっと敬礼する。
「失礼しました! 自分は葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)と言う者であります! 鋼鉄二十二号の力が必要となる危機的状況が近づいている故、借り受けに参りました!」
「まさか……まさか……」
狩々老人は、ハラハラと落涙した。彼だってわかっている。そんなはずはないと。しかしそんな考えは吹き飛んでいた。
「お待ちしておりました……鋼鉄二十二号、今よりこの封印を解きましょう!」
だから博士は、こう絶叫して敬礼を返したのである。