天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

リアクション公開中!

ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

リアクション

「飲食店?」

「そう、レストラン……と、まではいかないけど料理は得意だし、飲食店をやりたいなって思ってるの!」

 次の依頼者、白波 理沙(しらなみ・りさ)との待ち合わせは、街の小さなカフェであった。

 そこでセルシウスは、理沙を筆頭に、彼女のパートナーの白波 舞(しらなみ・まい)ノア・リヴァル(のあ・りう゛ぁる)マユラ・白波(まゆら・しらなみ)達が、一緒に飲食店をやりたいという希望を聞いていた。

「飲食店、いいですね〜」

 ノアがおっとりとした声を出す。

「私はお菓子作る方が得意なのでデザートの担当をさせてもらえれば嬉しいわ」

「ふむ。調理器具にオーブンやらが必要となりそうだな。厨房は大きい方がよかろう」

 セルシウスが言うと理沙が少し考えた後、

「でもね、最初はお客さんもそんなに来ないだろうし、初めは小さいお店からやっていこうと思うの。席は10〜12人分ってとこかな。ノアのデザートの他にも、メニューにカレーライスとかカツ丼とか一般向けでお値段も良いモノを安く提供って感じで」

「では……」

 セルシウスの言葉を遮ってノアが言う。

「あら、お店を小さくするのなら外にもテーブルを置けるようにしませんか? お客様が増えても対応できますし……ああ! あと、お花も飾って、お店を綺麗にしないといけませんね」

「……花か。では、森の……」

 今度は舞がセルシウスの言葉を遮って言う。

「えっと、イメージとしては森の中の小さな隠れ家的なお家って感じが良いわね。だからノアさんの意見に賛成。お花で外を華やかにしてみたいわ。花は……季節感のあるお花がいいかしらね?」

「そうね! 店の中も温かみのある雰囲気にしましょ!」

「あ、いいわねー。皆の意見もなかなか良いので採用するわ♪」

「……」

 黙って話を聞いていたマユラがポツンと言う。

「料理……マユラは得意じゃないんだよねー」

 理沙がマユラを見て笑う。

「お店をするんだから、料理以外の事もしないといけないわ……ウェイターやお会計とか?」

「あ、そうか。マユラも料理を運んだりレジ打ったりする事ならできるから、料理ができなくても役には立てるよね? ね?」

「うん! やることは一杯あるわね」

「勿論、私も調理や接客の手伝いをするわよ♪」

 舞が手を挙げる。

「私も作るデザートのメニューを考えなければいけませんね」

「ノア。メニュー表はマユラが描こうか?」

「あ、いいですね! 折角ですから、大きな葉や木板にメニューを描いても面白いかもしれませんね!」

「じゃあ、役割分担をまとめちゃうわね? 調理のデザート関係はノア、一般メニューは私。接客とお会計をマユラ。舞は状況に応じて色々手伝ってくれるスーパーサブ……て感じでいいわね!」

「「賛成ー!!」」

 目の前で店の構想をアレコレ話す乙女達に気圧されているセルシウスは静かにお茶を飲み、空を見上げる。

「良い天気だ……」

「セルシウスさん!? 何をのんびりしてらっしゃるんデスカ!? 発注の具体的なお話ガ……」

「ディンス殿。若者達の夢というのは無限大で、なんと微笑ましいことであろう……私はその夢の手伝いを出来るだけで設計士としては充分に幸福なのだよ。店の具体的な話等、彼女達が語らい終えた後でも遅くはない」

「……」

 ディンスは溜息をついて、セルシウスと同じようにお茶を飲む。

「(待てよ? 私の造る店は、敢えて完成形でなくても良いのかもしれん……これは涅槃の間にも生かせることができないだろうか?)

 穏やかな昼下がりの午後。セルシウスは理沙達を見ながらボンヤリとそんな事を思うのであった。





「仕事場は別にあるので、ここをニルヴァーナでの生活拠点にしたいんです」

 そう六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)に発注を受けていたセルシウスは、未だ建築中で仮組みが終わったばかりの家の見学に、再度宮殿近くに戻っていた。

「セルシウスさん! こっちです!」

 手を振るポニーテール少女の優希が見え、彼女の隣には銀の短髪のアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が仮組みの終わった家を見上げていた。

「すげぇ、本当にニルヴァーナで新居が買ったんだな……なんか、家を持つってのは……感動と共に責任感も出てくるな」

「そうね、アレク。自分の家を持つというのは人生の転機にもなりますし……今までの関係を変えるチャンスでもあると思うのです。ね?」

「……どうして私を見るのよ」

 優希の横に立つテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)が言う。

「いえいえ、独り言ですよ?」

 優希は自身が所属する『六本木通信社』特有の捜索能力で、街を見学中のテティスを見つけ、見学に誘っていた。

「……私、まだ家を持つ気にはならないのよね。何しろ石像に封印される前の記憶すらおぼろげなんだし……」

「それを探すためにも、生活の拠点て必要だと思いますよ?」

「……」

 テティスは、ふと視線を彼女の傍で家を見上げる彼方にやる。

「おお、すげぇぜ! こういう家だったら、俺のラノベ専用本棚ルームが作れるな。何せ今の四畳半じゃ本棚買うのも難しいしな」

「ハナブサ……たかが本の部屋くらいで家を建てるなんて勿体無いよ思うぜ?」

 アレクセイが彼方に笑いかける。

「ん? そうか?」

「そうさ。図書館を建てるわけじゃないんだ。家だぜ? 家! 高い買い物でもあるし、やっぱり俺様達みたいに誰かと住んだりした方がいいって! 絶対」

「うーん……」

 悩む彼方を見たテティスが、肘で優希を小突く。

「……優希さん?」

「何?」

「ま・さ・かとは思うけど、すっごく余計なお節介焼こうとしてないかしら?」

「全然! 嫌だなぁ、お節介なんて……あはは……」

 優希はテティスのジト目から顔を背ける。

「(ちょっと、失敗したかもしれないですね)」

 テティスにバレぬよう、アレクセイにアイコンタクトを送る優希にアレクセイが無言で頷く。



 家を見にやってくる少し前、優希は街をテティスと歩いていた。

 暫く雑談をした後、優希が核心へと斬りこむ。

「ところで……テティスさんはどんな家を探しに来たんですか?」

「え? 別に探してないわよ。ただ、どんな街なのかしらって思って見に来ただけよ」

「……ひょっとしたら皇さんの方は家を探しに来たのかもしれませんね」

「あり得ないわ。今もエリュシオンのセルシウスさんとかと言う人と一緒に宮殿造りで走り回ってる頃でしょ?」

「……あの。これはあくまで私の案なのですけれど」

「ええ、何?」

「皇さんと別々の家になる様なんでしたら、多少無理をしてでも同居してみてはいかがでしょう?」

 優希の言葉に足を止めるテティス。

「……は?」

「いえ、ですから、皇さんと同居してみては、と……」

「あり得ないわよ!!! ど、どうして、私が彼方と! まだ早……いえ、早いとか遅いじゃなくて、まだそこに至る必要手順をこなし……ああぁぁぁぁーッ!!」

 紅潮した顔を両手で押さえて悶絶するテティス。

「あの……そんなに脳内で一気に人生を進めなくてもいいと思うんですけど……」

 ぷしゅーと頭から湯気を昇らせるテティスに優希が苦笑する。

「ほら、私達の様にパートナーとの同居生活は珍しくないですし……それに皇さんが読まれるラノベにも同居生活モノは良くありますから、結構簡単に了承してくれると思いますよ?」

「……」

「それに『同居生活をしている』という既成事実を作る機会は……今回を逃せば、恐らく次は無いと思いますよ?」

「……」

「これは仲を深める絶好のチャンスだと思いますよ?」

「……仲ね……別に今のままでもいいと思ってるんだけど」

「ほら、皇さんてああいうちょっと奥手なタイプじゃないですか? こういう時こそ、女性の方が積極的に行かないと駄目だと思うんですよ」

 眼鏡の奥の瞳を真っ直ぐテティスに向ける優希。

 かく言う優希も、名家の出身で政略結婚させられそうな時にアレクセイと出会い、飛び出す形(所謂駆け落ち)で家を出ていたが、後にアレクセイとの仲を認められ両親と和解した過去があった。そんな優希だからこそ、二人を見ていると何だか昔の自分を見ている様で、放って置けない気になったのだ。

「……でも、でも、もし彼方が嫌がったら、私、どうしたらいいか……」

 不安げなテティスに、優希が笑いかける。

「わかりました! とりあえず、私達の家を一緒に見に行きましょう。ね?」

「うん……」

 テティスと再び歩き出した優希が小さく呟く。

「(あとは……アレクの言ってた『策』次第ですね」

 ×  ×  ×

「話は終わったか?」

 セルシウスは優希達に声をかける。

「え? ええ……まぁ、そこそこは」

 テティスに詰め寄られていた優希は、セルシウスに頷く。

「では、少し家の中を見に行くぞ。まだ、仮組み中だがな……間取りくらいは出来ている」

 そう言うと、セルシウスは家へと向かって行き、それに優希達が続く。

「貴公が言った通り、アディティラーヤの宮殿近くに景観を合わせた木造の和洋折衷2階建ての家だ。1階は洋風のリビング、キッチン、バス等は大人数でも大丈夫な様に広めにしておいたが……」

 家の中を説明をするセルシウスが振り返る。

「貴公らは二人暮らしではないのか?」

「今の下宿先のお爺様やお婆様もいつか呼びたいので、そのためです。うわぁ、でも本当に広いですね……」

 優希がまだ未完成の家の中を見渡しつつ言う。

「ふむ……まぁいい。そちらの空いたスペースには書斎兼作業場と、希望のあった娯楽室を作るつもりだ。まだ着工していないがな」

 セルシウスは窓枠に手をかけ、小さな坪庭を覗きこむ。

「ここは、貴公の言ってた枯山水の出来る坪庭になる予定だ」

「へぇ! 凄いな!! 本当に家みたいだ」

 彼方がセルシウスの横から坪庭を覗きこむ。

「家だって言ってるじゃない……」

 テティスが呆れた声を出す。

「でも、家を建てるっていいわね……少し憧れるわ」

「テティスも、こんな家に住みたいのか?」

 彼方の言葉に、テティスが瞬時に叫ぶ。

「はっ!? 別に彼方と住むわけじゃないでしょ!!」

「あ、そうか。そうだな」

 彼方が笑い、それを見た優希とアレクセイが残念そうに顔を見合わせる。

「……それでは、2階へと行くか」

 セルシウスが、階段を上がっていく。

「セルシウスさん、そこはロフトデス!」

 同行していたテティスがすかさず突っ込む。

「む……」

 2階へと上がった一行に、セルシウスがまた説明を始める。

「2階には、優希殿が言ったパートナーそれぞれの個室と、その向かいにゲストルームを配置した。1階と違ってこちらは和室でまとめるつもりだ」

 部屋を見た彼方が興奮した声を出す。

「これだけ部屋があれば、俺の本棚、いくつ入るんだ!?」

「だから、何で本棚換算してるのよ!」

「うるさいな……じゃあ空いたスペースにテティスが住めばいいだろ!?」

「……え」

 キョトンとするテティスを尻目に、彼方はセルシウスに「家って幾らするんだ?」と尋ね出す。



「水瓶座……」

 2階の端からアレクセイがテティスを手招きする。

 かつて、テティスがとある事件で襲われた際に彼方が怒る様を見ていたアレクセイも「あの二人、いい加減次のステップに進めねーのか?」と考えていた。そこで、テティスに一枚の紙を見せるアレクセイ。

「これは、家の申請書?」

「そうだ。いいか? 今から俺様が考えた『策』を授けてやろう……まずこの申請書の入居者の連名に水瓶座の名前を入れとけ」

「私の?」

「そして、セルシウスと家の間取りを決める時に、水瓶座の部屋の隣をハナブサの部屋にする。入居者の署名を貰う時にハナブサの部屋だけ見せて「彼方は忙しそうだし、こんな感じの広さで良ければ私が出しておくわよ?」って感じで聞いてみろ。かなりの確率でハナブサならOK出すから、後はそれを提出すれば大丈夫だ」

「……」

 申請書を見つめて押し黙るテティスに優希が言う。

「アレクの案で良ければ、私達も一緒に行かせて下さい。皇さんに署名を貰う時は忙しそうな時が注意が逸れて上手く行くと思いますし……」

「……」

「アドバイスやフォローは私達に任せて下さいっ!」

 意を決した顔でテティスが頷く。

「ありがとう……でも私、彼方には、もっと自分から、行かなきゃいけないと思うの」

 テティスは、そう言うと、申請書を自分の服のポケットに押しこむ。

「確かに、優希さんの言うとおり、既成事実を作ることも大切かもしれないわ。けど……」

 テティスは、セルシウスと話す彼方を遠目からチラリと見る。

「なぁ、この家いつ出来るんだ?」

「慌てるな、彼方。家というものは慌てて作ってはいけないのだ。まず測量、次に土台造り、次に骨格、その次に……」

「意外と面倒だな」

「我がエリュシオンには、こういう言い伝えがある。流れる河に慌てて建てた家は直ぐに潰れるが、じっくり石を積み土台を作った家はそれだけ長持ちする、とな」

 テティスはフッと笑みをこぼす。

「優希さんやアレクセイさんのようなしっかりした土台を作ってから……それからでも彼方と暮らすのは遅くはないのよね」

「……」

「いいんですか? それで?」

「ええ!」

 彼方がテティスのところにやって来る。

「なぁ、テティス。俺も家建てようかな……」

 彼方の言葉を遮って、テティスがでこピンをする。

「イテッ……何だよ?」

「しっかりした土台を作ってからよ? それにまだ優希さんの家を見せて貰っただけでしょ? 他の家とかも見てから決めなさいよ」

 そう言うと、テティスは優希達に軽く会釈して2階から降りていく。

「おい、どこに行くんだよ?」

「まだ宮殿での仕事に戻るまで時間あるんでしょ? ほら、他の家々も見学に行くわよ」

「え……待てよ、待てったら!!」

 テティスを追いかけ、慌てて降りていく彼方。

「……まぁ」

 アレクセイが優希を見る。

「いいのか、アレで?」

 少し微笑んだ優希は、二人を見たまま頷く。

「もう土台なんてしっかりしてると思いますけど……二人とも鈍いところが似ているというか、何というか……」

「……そうだな」

「……で?」

 セルシウスは優希とアレクセイに声をかける。

「私の説明は以上で良かったのか?」