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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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 夜になったニルヴァーナの創世学園都市。

 繁華街の片隅にある阿羅耶神社。祀られているご祭神は「一言の願いであれば何でも聞き届ける神とされる」一言主である。昼間、街をふらつくレイスが菊に1Gを与えたのは、あながちこの神社に菊の願いが聞き入れられたから……かもしれない。

 その社務所に入って新拠点に腰を落ち着ける人物がいた。高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)である。

「セルシウス……ちゃんと仕事も出来たんですね……」

 社務所を見回す玄秀はちょっと感心するように呟く。彼はニルヴァーナでの活動の拠点が欲しいので、セルシウスに「涅槃の間の研究の一環にどうです?」とか適当な事を言ってこの神社を作って貰っていた。尚、神社に羅刹女を置いたのも、玄秀が表に出る訳にはいかない理由があるからなのだ。

「さて……とりあえずニルヴァーナでの拠点は確保したが……どうしたものかな。晴明が出て来ないなら、無理をしてBD(ブラッディデバイン)に協力し続ける理由もないが……」

「元々、ただの陣借りでございましょう。お好きになさればよろしい」

 玄秀の問いに静かに答えたのは、玄秀の使役する式神式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)である。

 彼は契約の印を左手の甲に持つ玄秀の命令には絶対服従であり、主に表沙汰に出来ないような仕事に使役されていた。

「そうだな……」

 玄秀は立ち上がると社務所を出て行こうとする。玄秀が動くと同時に彼の後ろの人影も後を付ける。

「それより、そろそろあれをなんとかしては如何ですか、玄秀様?」

 広目天王は、玄秀に目配せすると、社殿の屋根の上へと飛び上がっていく。

「……」

 立ち止まる玄秀。すると後ろの影もすぐに立ち止まる。

「……いつまでそうやって付いて回るんだ」

 冷たく言い放つ玄秀の声に、彼の背後の人物が月光に照らされるように姿を見せる。ティアン・メイ(てぃあん・めい)だ。優しく正義感にあふれたティアンの顔には、不気味なほど生気が感じられない。

「……わたし……」

 ティアンの言葉を遮るように、吠える玄秀。

「僕は自分を裏切る奴は許さない。周りにいられても迷惑だ! いい加減にしてくれないか!」

 体を震わせるティアン。騎士の家に育った彼女は、訓練の中で身体的な痛みなら幾度となく経験してきた。しかし、今の玄秀の言葉にこもる刃の痛みはそれらとは比べ物にならない。

「わ……私は……! 貴方の役に立ちたいの! 今の私にはそれしかないのに……! どうして!」

「煩い! 裏切り者が!!」

 実親に捨てられた後、養父に手駒にされたという過去を持つ玄秀は、自分を裏切る者は許せないのだ。例え、それが誰かに操られて裏切った事だとしても……。

「ひっ……」

 絶望に頭を抱えるティアン。彼女には玄秀が全てだった。それまでの価値観を捨てて玄秀が全てだったのだ。その依存は、彼に誰かを殺せと言われば喜んで剣を振るっただろうくらいに。

 それが彼女の全て。それを拒否されると存在意義がなくなる。いっそのこと「今すぐここで喉を割いて自決しろ」と言われる方がマシかもしれない。

「酷い……酷いよ! 私をこんなにしたのは貴方なのに!」

 原因と結果。ティアンは彼女を拒絶する玄秀の態度。すなわち『結果』を改善しようとしていた。しかし、玄秀が許せないのはティアン自身がした『原因』なのだ。

 その事が、まだ人生経験が浅いティアンにはわからず、自分の想いだけをぶつける。玄秀はその事にも怒りを覚える。

「……だから? 僕にどうしろというんだ? 裏切り者を愛せと言うのか? 僕は……そんなおまえが許せないんだ!」

 自分を守る為に裏切った相手を徹底的に拒絶する玄秀と、ティアンの間には、既に心の壁ができてしまっている。

「あ……あぁ……」

 嗚咽を漏らしつつ後退するティアン。

 玄秀からの激しい拒絶の言葉を受けて、とても受け入れられない絶望を感じた彼女は、泣きながら走り去る。

「よろしいのですか? 行かせても?」

 社殿の屋根の上から広目天王が玄秀へ尋ねる。

「……他人を信じなければ裏切られる事もない。他人はすべて自分の為の駒だ」

 玄秀は上空の月を見上げ、そっと瞼を閉じる。

「それで……間違いではないはずだ……」





 夜になり、体力の限界を感じたセルシウスは、彼や匠達に貸し与えられている宿泊先の自室にいた。

「うお……お……」

 ベッドにバスンッと倒れこんだセルシウス。

「流石に……体力も限界か……ラルク殿のように少しは鍛えるべきかもしれん……」

 ベッドから顔を上げると。自室の机の上に置かれた『涅槃の間』のために本国から取り寄せた山積みの資料が見える。

「……あれらを読まねば……」

 セルシウスがモゾモゾとベッド上をほふく前進するが、ふと隣の部屋から何か声が聞こえる。

「うおおおー! まさか我らが天使、未散ちゅわぁぁんが拙者達の部屋に居るとは、これ、天国でゴザルな!!」

「ジョニー。鼻血出すんじゃねぇぞ? それにしても未散が迷子になってたアディティラーヤに感謝だぜ」

「フッフッフ。既にカメラのカードメモリーを使い果たしておいて良く言う。シン、ジョニー、貴様らもまだまだ若いな。秋の夜は長いのだ」

「……何だ?」

 セルシウスが壁に耳をつけて様子を伺う。