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リアクション
洞窟の奥で
聖なる山に最近掘られた、迷宮のような洞窟の最奥部。そこに変わり果てたリファニーがいた。現在はリファニーの意識は表面にまったくなく、”滅びを望むもの”そのものがすべてを支配している。その姿はリファニーの面影の片鱗すらなく、ダエーヴァの指令のものだろう、漆黒の体毛に覆われた全身を異形の装甲に包み、黒い鳥のような翼にドラゴンのような尾、牙のぎっしり生えたヤギのような頭部を持っている。さながら悪魔のようだ。源 鉄心(みなもと・てっしん)はティー・ティー(てぃー・てぃー)とともに立ち、首を振った。
「指揮官級を取り込んだとは聞いていたが……」
ルシアがぎゅっと両手を握り締める。その瞳には痛みがあった。
「……リファニー」
「連れ帰るんだろ、リファニーを。そのために俺らは来たんじゃないのか?」
鉄心がルシアの肩を軽く小突く。ティーが呟いた。
「私だって、世界がただ清浄なものであると……そんな幼子のように見ている訳ではありません……けど。
例え生命が他の生命の犠牲の上にしか成り立たないものだとしても……今回のことはそれとはまた別の次元の問題のような気がしています。
できれば、”滅びを望むもの”も、救われることになれば良いな……と……」
それは祈りにも似た言葉だった。
『そもそも、世界の終焉は、滅びと創世のサイクルが止まったために、次のサイクルのための命のエネルギーが溜まり、淀み、歪みきるために起こるもの……』
カケラが言う。
「その、たまったエネルギーと言うのが……?」
ルシアが震え声で尋ねる。カケラの答えは簡潔であった。
『そう、それがあの、”滅びを望むもの”です』
甲斐 英虎(かい・ひでとら)がカケラに問う。
「“滅びを望むもの”……それは『本来、産まれるはずだった、新しい大陸の命たち』、そう言ってたよな?
……その、世界産み自体に、リファニーさんへの危険はないのかな?
封じる為に取り込んだ“滅びを望むもの”を、リファニーから分離するだけなら良いのだけど、そういう感じでもないんでしょ?」
カケラは苦悶する表情を浮かべた。長い沈黙の末、静かに口を開く。
『危険は……あります。
「滅びと創世のサイクル」における創世と「世界産み」は違うもの……。
光条世界が望む創世は、今の大陸を滅ぼし、ナラカに留まる命のエネルギーで新たな時代のサイクルを産みだすこと。
「世界産み」は、ナラカに留まる命のエネルギーの暴発による終焉を避けるため、そのエネルギーを用いて全く新たな世界を産みだすもの。
……出産時に、母体にも危険がありますよね?
母体が世界そのものであるとして、彼女は子宮のようなものと例えられます。
そして、子宮の中の生命の塊は歪んでしまっている。
世界産みは、彼女にとっても、この世界にとっても、とても危険な賭けとなります』
「……!」
英虎は息を呑んだ。そのとき、契約者たちを認め、リファニーが問答無用で襲い掛かってきた。