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はっぴーめりーくりすます。

リアクション公開中!

はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



17.ある広場での出来事。


 組んだ腕から、相手の体温が伝わる。
 七尾 正光(ななお・まさみつ)は、アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)に微笑みかけた。
「寒くないか?」
「大丈夫。おにーちゃんが隣に居るから、あったかいよ!」
 そんな、いつも通りの会話をしながらきらびやかなヴァイシャリーの街を歩く。
 クリスマスイブのデート。
 このデートを機に、もっとアリアに対して積極的になれたら、と正光は思っている。
 アリアとは婚約までした仲なのに、今一つ進展がないのだ。
「ねぇねぇおにーちゃん。あのベンチ、座ろ?」
 アリアが指差したのは、広場のベンチ。丁度良く二人掛けが空いていた。アリアに導かれる形でベンチに座ると、アリアがにこりと笑う。
「あのねあのね。ケーキ作ってきたんだよ!」
 そして、膝の上で箱を広げた。
 ブッシュ・ド・ノエルが丸々一本。砂糖菓子のサンタや、ホワイトチョコのプレートで飾り付けされていて本格的である。プレートには、『メリークリスマス』と拙いながらも可愛らしい字で書かれていて、
「ぜーんぶ手作り!」
 アリアは誇らしげに胸を張る。
 いつもながら美味しそうだと感心していると、
「おにーちゃん、あーん♪」
 ケーキをさしたフォークが向けられた。
「あー」
 それに素直に応え、ケーキを食む。
 チョコレート味のクリーム。ふわふわのスポンジ。広がる甘い香り。
「アリアの作ったケーキは美味しいな」
「本当?」
「嘘なんて言う訳ないだろ?」
「えへへ〜。嬉しくて」
 はにかむアリアを見て、こっちまで微笑ましくなってしまう。つられて正光は笑んだ。
「次は俺が食べさせてやるよ」
 フォークを受け取って、一口分すくい、
「ほら、あーん」
「あーん」
 ぱくり。
 小さな唇に、フォークが吸い込まれる。
「じゃ、次は私〜」
 そのままかわりばんこで食べさせ合って。
 大きいと思っていたケーキは、あっという間になくなった。
「ご馳走様でした」
 手を合わせてそう言って。
 ふと、気付いた。
「アリア」
「?」
「クリームついてる」
 口の端についたチョコレートクリームに。
 顔を寄せてそれを舐め取ると、
「……、おにーちゃん、珍しい」
 アリアが驚いたように、言った。
「え、」
「だって、いつもあまり積極的じゃないから」
 ああ、やはり。
 そう感じとられていたのか。
 途端に今の行動を意識してしまい、急激に冷静になった。現実に引き戻され、頬が熱くなる。
「今日を、その。きっかけにできればと……思って、な?」
 言い訳じみたことを言って、わたわた。
 その手をアリアに掴まれた。
 手は、くいっと引かれ。
「なっ、」
 アリアの発展途上の胸元に寄せられた。
 ふにゃり、マシュマロのように柔らかな感触に戸惑う。
「もっと、積極的になってほしいなー?」
 上目遣いで、見つめられた。
「ど……努力します」
 ――まずは、緊張してしまうのをどうにかしないとな。
 どきどき、どきどき。
 心臓がうるさい。
 顔も、熱い。
 だけど、外の冷気のお陰だろうか。少しずつ頭は冷めてくる。
 深呼吸一つ。
「……メリークリスマス」
 今日を祝福する言葉と。
「アリア、愛している」
 愛する人へ贈る言葉を口にして。
 再び顔を近づけて、その唇にキスをした。
 舌を絡める深いキスの後。
 アリアは顔を赤くしていて、だけど嬉しそうに笑っていて。
「えへへ。おにーちゃん、大好きっ」
 抱き締められた。
「愛してるよ♪」
 耳元で、楽しそうに、愛しそうに囁かれ。
「愛してる」
 同じように、囁き返した。


*...***...*


 ベンチでいちゃつくカップルを見ていたら、次第にもやもやが溜まってきた。
「うぅー…………」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、思わず低く唸る。
 ――最近、周りにリア充が増えてるよぅ……。
 彼氏持ち。
 彼女持ち。
 そんな人たちが、見せつけてくる。
 いちゃいちゃしてる。
「あーーーもうっ!」
 頭を抱えて、声を上げた。何人かが、そんな氷雨の挙動に目を丸くしている。
 周囲の視線など意に介さず、氷雨は思いのたけをぶちまけようとした。
「リア充なんて爆発し」
 ――ちゃえ!!
 という言葉を、最後まで言うことは適わなかった。
「……もご」
 後ろから、ユズキ・ゼレフ(ゆずき・ぜれふ)に抑えつけられ口を塞がれ、
「おいコラ。なに物騒なこと言ってるんだ」
「痛っ」
 さらにはパコンと、軽く握った拳で頭を叩かれた。
「ユズキー。だってだってリア充がーリア充がー! ボクに見せつけてくるんだよー!」
「別に見せつけてるわけじゃねーだろ。まあ確かに場所を厭わずベタベタしてんなーとは思うけどよ……つーかお前はどこまで買い出しに行ってんだ」
「買い出し……?」
 きょとん、と氷雨は目を丸くする。
 買い出し、買い出し。何だったっけ?
「あまりのリア充度の高さに記憶容量がオーバーヒートしてるんだ」
「んだとこら……俺に無理矢理菓子作らせといて、いい度胸じゃねーか」
 べしべし、今度は平手で頭を叩かれる。ドリブルされてる最中のバスケットボールはこんな気分なのだろうか、と思考がズレていった。
 と、そんなユズキから氷雨を引きはがし。
「氷雨を叩かないでください」
 ツンとした声が響く。
 振り返ると、
「メノウ」
「やあ、迎えに来たよ」
「フランも」
 メノウ・ブルーローズ(めのう・ぶるーろーず)と、フラン・ミッシング(ふらん・みっしんぐ)が立っていた。
 険しい顔をしたメノウがユズキを睨みつけながら氷雨との間に立つ。まるで氷雨を庇うように。
「おい似非天使、そこを退け。若年性アルツハイマーの疑いがあるひーにたっぷり躾をしてやる」
 パキパキ、指を鳴らしながらユズキが言った。
 その言葉を聞き流せなかったメノウが、
「似非天使、ですって? 失礼な……。教会の中でタバコを吸ったり、懺悔室にお酒を持ち込み、その上それを飲みながら人の懺悔を聞いたふりしてラジオで競馬を聞いている……そんなどこかの神父様に比べればマシです」
 つらつらと、ユズキに毒を吐く。
 もちろんその『どこぞの神父様』はユズキのことなのだが、
「へえ、どこの誰だろーなぁそれは」
 すっとぼけている。
「さあ、どこのどなたでしょうね? 確か銀髪で不良っぽい顔立ちの、私よりも小さなお方だったと記憶しておりますが」
「あ? 誰が小さいって?」
「誰でしょうね? 人のことを似非天使と仰る非人道的な神父様だったと記憶しておりますが?」
 ばちばち、二人の間に火花が散った。
「小さいだぁなんだって……人の身体的特徴をあげつらいやがって、この似非天使!
 つーか何で懺悔室のことまで知ってんだよ! 普通外からはわかんねーもんだろ!」
 口喧嘩での限界が先に訪れたのはユズキだった。
「さあ、なぜでしょう? 貴方には関係のないことですね」
 せせら笑うように、メノウは言う。
「覗きか。覗きだな? 天使の癖にいい趣味じゃねーか。やっぱり似非だな!
 なぁフランもそう思うだろ? 親友の俺の味方するよな?」
 そして唐突にフランへと話は振られ。
「ちょっ、なに言ってるんですか! フランは私の親友で味方です!」
「うるせぇ、お前の場合は親友の後ろに『(一方的)』ってついてるような間柄だろ! 俺らの関係には及ばねぇよ!」
「どういう意味ですか! 一方的だなんて聞き捨てなりませんよ! 私達はちゃんと親友です、そうですよねフラン!?」
 ユズキとメノウのフラン争奪戦。
 氷雨はじっとフランを見る。
 ――もしかして、フランもリア充……?
 爆発させたい、とうずうずわきわき、指を動かす。回答次第では爆発させるしかない。
 しかしフランの回答は、
「や、僕はお金をくれる方の親友だから」
 地獄の沙汰も金次第、とばかりににっこり。
「1万から受け付けてるよ、どうする?」
「……はぁ……そうだったな、フラン、お前はそういう奴だった」
「……はぁ……もういいです……」
 いろいろと殺がれてしまったらしいユズキとメノウが、同時にがっくりと肩を落とす。
「ところで氷雨君、本当に忘れているの?」
 そして今度は、フランが氷雨に話を振った。
「今日は、氷雨君がクリスマスパーティをしたいって言っていたんだよ?」
 …………。
 ――ああ!
 言われてようやく思い至った。
「そうだ! ボク、今日使うキャンドル買いに来たんだった!
 あ、違うんだよ? ちゃんと覚えてたよ? でもね世の中のリア充がいちゃいちゃしてるからね、あのね!?」
 怖い目で見てくるユズキから逃げるように言い訳の列挙。
「ボク悪くないー!」
「いやいや、今回は氷雨君が悪いかなー?」
 フランから、ぽす、と優しく頭を撫でられ諭されたら、それ以上言えないじゃないか。
 ぷう、と頬を膨らましてそっぽを向いた。
 そっぽを向いた先には、やっぱりリア充が居た。
 また少し、イラッ。
 しかしそこで、氷雨はある一つのことに思い至る。
 ――いけない、いけない。
 ――イライラしてたら、
「サンタさんがプレゼントくれなくなっちゃう」
「は?」
「え?」
「……氷雨君?」
 ユズキが、メノウが、フランが、素っ頓狂な声を出した。
 何かに驚いているらしい。何にだろう?
「ひー、お前。サンタ……信じてるのか?」
「え? 信じるもなにも……サンタさんは良い子にプレゼントくれるおじいさんでしょ?」
「氷雨君、本気?」
「本気だよ? どうしてー?」
「ひー。お前いくつだ?」
「もうすぐ大人って言われる年齢」
「氷雨。もしかしてそのサンタさんは、数年前から氷雨の許に来ているんじゃないですか?」
「うん、それくらいからボクのところに来てくれるようになったんだー♪」
 問答が続き。
 氷雨以外の三人が、顔を見合わせた。
「あいつら甘やかし過ぎだろ……」
「甘やかしてますね……」
「アハハ、まぁいいんじゃない? 氷雨君楽しそうだし、クリスマスだしね」
 そして、何やらよくわからないことを言っている。
 みんな、サンタさんのことを知っているのだろうか。
 ――だったら、いつもありがとう! ってお礼を伝えてもらいたいなー。
 いつだって、幸せにしてくれるから。
「だからね、ボク良い子にしてるの! イライラしてちゃダメだよね、サンタさん悲しんじゃうもん!」
 率先して先を歩き、帰途に着く。
 ――あ、だけど。
 氷雨はくるりと振り返り。
「でもね、でもね。リア充は爆発すればいイイと思う!」
 笑顔で、言い切った。
 結局爆発させたいのかよ、とユズキがあからさまにため息を吐いたが、言うことを言って満足できたので、氷雨の足取りは軽かった。