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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

リアクション

 
 ■

 ここで、準備の様子をのぞいてみよう。
 
 まずは、玄関先――。
 竹ぼうきを持った 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とマレーナが、真新しいエプロンをつけて掃き清めていた。
「ヒヨコ柄だね!」
 美羽は2人のエプロンを指さす。
 ふふっとマレーナは笑った。
「皆さん使うところですもの。
 まずはここから、ですわね? 美羽さん」
 
 そして、廊下。
 掃除を終えて戻ると、共同台所には、すでに手伝い要員の者達が集まっていた。
 親睦会に備えて、皆この日とばかりに腕をふるっている。
 彼女に気づいた者達が、次々とにこやかに声をかけてきた。
 
「マレーナさん、初めまして」
 彼等の1人。
 志方 綾乃(しかた・あやの)は駆け寄ると、エプロンを外して一礼した。
「あら、あなたは初顔ですわね? 手続きもまだでしたような……」
「ええ、直接ここへ。
 まだ私は、ここに住む権利はありませんから」
「それは、どういう意味ですの?」
 マレーナはやや困惑した様子で、小首を傾げる。
「下宿生になるのは、きちんと謝ってから。
 マレーナさんの傍に置いて頂く。
 そう決めているんです! 私」
 だって、タイトルからして「マレーナさんと僕(しもべ)」ですもの♪
 そうして彼女はフマナでの出来事を話した。
「では、あなたはあの時、戦いを止めるために反対されたのですね?」
 マレーナは真摯に彼女の話に耳を傾ける。
「許されないことくらい承知しています!
 成り行きとはいえ、あなたの御主人さまを見殺しにしたことに……っ!!」
「いいえ、とても立派な心がけですわ。
 ドージェ様も、そのことをお望みでありましたことでしょうし……」
 ふと、遠い目を向ける。
 だがゆっくりと頭を振ると、淡く微笑をして。
「私に、わだかまりはありません。過去は水に流すもの……。
 それより綾乃さんの気のすむまで、私の傍で下宿生達のお世話をお願い出来れば、嬉しいですわ」
「あ、ありがとうございます!」
 綾乃は慌てて頭を下げる。
「あ、あの、マレーナさん!
 もうひとつだけ!!」
 足を止めて、マレーナが振り返る。
「あの時、ドージェさんとあなたは……、
 何を望んでユグドラシルを目指していたのです?」
「あれは、新婚旅行……というところでしたわ。
 叶いませんでしたけれど」
 寂しく微笑んで、会釈しつつ去って行く。
 火にかけたヤカンが、音を立てる。
 呆けていた綾乃は我に返ると、エプロンを付けてリボン結びをきつく結ぶのだった。
「さ! これからが本番!
 張り切って頑張らなくっちゃです!」

「久しぶりだな、マレーナ」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は軽く会釈した。
 手に割れた皿――修繕をしているようだ。
 マレーナは、思わぬ知己の出現に軽く目を見張ったが。
「フマナでの件はお礼の述べようもございませんわ」
 両眼を細めた。
「あなたがあの時、飛空艇を差し向けなければ、私はここで管理人としての幸せを得ることも無かったでしょうし……」
「マレーナ……」
 グレンは当時を思い返したのか、視線を落とす。
「あなた達も、来て下さったのですね? 嬉しいですわ」
「マレーナさん!」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)リ ナタは慌てて一礼する。
「ここへは受験で?」
「いいえ、その、出来れば『お手伝い』で……」
 マレーナの顔をおずおずとしてソニアは見上げた。
 愛するグレンのために、花嫁修業をしたい! そう言いたかったのだが。
 第1に、マレーナが了承してくれるとは限らなかったし。
 第2に、当のグレンが傍にいては、言い出しにくいことこの上ない。
 ナタは、頭をかくと。
「ええーとな、マレーナ。
 ソニアはマレーナの傍で、花嫁修業がしたいんだって!」
 ぼそっと口添えした。
「何たって、『憧れのマレーナさん』だしな!!」
「まあ! ナタクってば!」
 ソニアは顔を真っ赤にして、だが否定はしない。
「そういった次第で、まずは『料理』から習いたいんだと」
「ご迷惑でしょうか?」
 ソニアは両手を組んで、心配そうにマレーナを見上げる。
 マレーナは淡く微笑むと、けれどと付け足して。
「私は、残念ながら『料理』はそれほど得意ではないのですわ。
 ドージェ様との日々の中、荒野をさすらう日々においては『家事』などは瑣末なこと。
 ですから、一緒に覚えていきましょう」
「マレーナさん!」
 ソニアは感激のあまり涙ぐむ。
 マレーナに幾度も頭を下げるのであった。
 ナタはソニアの背をポンッとたたく。
「よかったなぁ、ソニア。
 じゃ、俺は皿洗いでも手伝うか。
 ソニアにこれ以上皿を壊されちゃ、たまったもんじゃねぇしな!」

 フィリア・グレモリー(ふぃりあ・ぐれもりー)はたどたどしい手つきで、包丁を持っていた。
 下ごしらえをしたいらしいが、病のうえに、目が見えない。
「フィリアさんには、無理だと思うが……」
 にわか料理長の邦彦が付き添うが、巧く行かない。
 そこへマレーナがやってきた。
「大丈夫、力を抜いて。
 頑張りましょう! フィリアさん」
 背後から、マレーナがスッとフィリアの手を握る。
 そうして道具を扱い、一緒に料理を作るつもりらしい。
「それで、これの先どうしたらよろしくて?
 邦彦さん」
「はぁ、まずは材料を切るところから、だな」
 しかし、その手つきは非常に危なっかしい。
 邦彦が叫んで、フィリアの手を切り損ねたことが、幾度もあったとか。
 しかし当のフィリアは目が見えないために、邦彦の余興と勘違いしたようだ。
「マレーナ様にも、苦手なものがあったのですね?」
 うふふ、とフィリアが笑った。
「でも『筋はいい』みたいですし。
 これからも一緒に料理修業励みましょうね!! ヒャッハァー♪」
 邦彦が顔を青くしたことは言うまでもない……。

 フィリアとの料理修業は続く――。