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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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リアクション


第8章 どっちが玩具となるか

「いろいろあるみたいですけど、独りだとやっぱり寂しいですね・・・。ん、あれは・・・アーデルハイトさん?」
 花京院 秋羽(かきょういん・あきは)が園内でぽつんと独りぼっちでいると、ショップで買い食いしているアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を見つけた。
「こんにちは、アーデルハイトさん。よかったら俺と一緒に遊びませんか」
「ふむ、腹もいっぱいになってきた頃じゃ。散歩がてら行くとしよう!」
 彼の人格を知らない彼女は、愚かにものこのことついて行ってしまう。
「う〜む。さすがに混んでおるのぅ」
「まぁこればかりは仕方ないですからね」
「ふぅ、やっと乗れるようじゃな。よし、漕ぎ手の傍に行くのじゃっ」
 待つこと1時間ちょっと、乗る順番がきたとたんにアーデルハイトは我先にと乗り込む。
「これが安全装置なのかのぅ?ゆっくり進んでおるから大丈夫な気もするが」
 念のためにと小柄な彼女は自分の腰に巻きつける。
「何じゃ、急に流れるスピードが速くなっておる!?」
 それはただのゴンドラでなく、なんと謎のアドベンチャーの方のようだ。
 可愛らしく風に揺れていた植物突然、肉食植物へと変貌する。
 チョコを背負っている鴨をバクバクと食べ、ボタタッと口から鮮血を滴らせる。
「植物が肉食化して、周りの生き物を食べていますね。しかもこっちに気づいて向かってきます」
 驚く様子もなく秋羽は冷静に言いそれを指差す。
「何じゃと!」
 どっちもソリットビジョンで危険はないのだけどアーデルハイトの方はそれを知らない。
「これはかなり危険な植物みたいですよ。追いつかれたらまる飲みにされて、胃の中でドロドロに溶かされてしまうかもしれません」
 ガイドブックを読んで知っている秋羽は余裕の態度で、奇声を上げて迫る植物を眺める。
「あ、追いつかれそうです。ここはアーデルハイトさんが餌食になってください」
「何をするっ!?」
 安全装置の縄を解こうとする秋羽の手を振り払おうと必死に抵抗する。
「ほら、アレですよ。“そんなこともあろうかと”シリーズがあるじゃないですか」
「よさないか、やめるのじゃっ!」
「お客さん。それ以上危険なことして暴れるなら、降りてもらいますが・・・」
「いやですね。アーデルハイトさんが餌になってください」
「私の縄を返すのじゃ!!」
 安全装置の縄を解かれた彼女がぎゃぁぎゃぁと騒ぐ。
「あれ・・・予定のルートと違うような気がするんですけど」
 流れがゆっくりな方にゴンドラが進んでいき終着点へついてしまい、秋羽は拍子抜けしたような顔をする。
「あんなに暴れられてしまうと、ゴンドラがひっくり返る危険がありましたので、戻らせていただきました」
 注意を聞かずドタバタと騒いでいたため、漕ぎ手の2人は緊急脱出ルートに入り戻ってしまったのだ。
 乗客が怪我をしてしまったり、川に落ちて溺れてしまうと判断したのだろう。
 漫才もほどほどに・・・。
 良い子は真似しちゃいけませんよ、のオチとなった。
「(途中で戻されたのは予想外でしたね・・・)」
 不完全燃焼なままではいられないと、秋羽は次のアトラクションを選ぶ。
「私まで怒られてしまったではないか!」
「そう怒らないでくださいよ。次はそんな危ないふざけかたしませんから」
「本当かのぅ?」
「この俺の澄みきった目が、嘘を言っているというのですか?」
「―・・・じぃーっ。なんか裏がありそうじゃ」
「失礼なこと言わないでください・・・。失礼ついでに、次のアトラクションも付き合ってくださいね。それで許してあげます」
「なっ、何じゃそれは!?(ぬぅ〜、今に見ておれっ。ぎゃふんと言わせて私の偉大さを見せつけてやるのじゃ!)」
 アーデルハイトはムスッとした態度で彼についていき、今度は自分から仕掛けてやろうと企む。
 2時間ほど待ち、牢獄の中に入る。
「監獄ミキサーってなんなのじゃ?」
「さぁ?何でしょうね・・・」
 知らないようなフリをしてそっぽを向く。
「お、あんなところにスイッチがあるのじゃ。押してみよ!」
 仕返しのプレゼントをしようと、明らかに怪しいスイッチを秋羽に押させようとする。
「何が起こるんでしょうね、あっ」
 床にあるそれをポチッと踏んだ瞬間、アーデルハイトが踏んでいる床がガタンと斜めに傾き、ズルリと1人で滑り落ちていってしまった。
 彼女を追って滑り落ちて見ると、溶岩の中に落ちまいと必死に縄を掴んでいる。
 そこは囚人たちが罰を受けるような場所をモチーフにされた作りになっている。
「おや、1人分しかないんですか。その手を離してください」
「何を言うか、おまえが離せ!」
「天井から吸血コウモリが飛んできましたよ」
 さっとアーデルハイトを盾にし、ごぽっと吹き出る溶岩へ突き落とす。
「ひ、卑怯者ーーーーっ!!」
「アーデルハイトさんなら、これくらいクリアできるでしょう?」
「ぎゃぁあ、熱いのじゃぁあっ。―・・・ぬ、身体が燃えていないのじゃ・・・。さてはソリットビジョンか!?」
「でも感覚はリアルに伝わってくるんじゃないんですか」
「思い出させでないっ。ぐぬぅぅう、こうなったらおまえより先に、ここから脱出してやるのじゃ!」
 プンスカと怒りながらアーデルハイトはズンズンと溶岩の道を進む。
 ソリッドビジョンと分かったとたん、彼女はそれもそうなのだろうと吸血コウモリを押し退ける。
「ぬっ、どこへ行ったのじゃ!?」
 アリの巣のように入り組んだ道を進んでいくと、いつの間にかぽつんと独りになり、アーデルハイトは迷子になってしまった。
「なにぃい!?あぁあああぁっ!!」
 大声を上げると“時間切れです、またのご来場をお待ちしております”というアナウンスが流れ、ぺっと外へ出されてしまう。
「遅かったですね、待ちくたびれましたよ」
「何なのじゃ今日はっ。せっかく美味しいものを食べてよい気分だったのに台無しじゃ!」
「まぁまぁ、お詫びにクッキーを上げますから。これで機嫌を直してください」
「仕方ないのぅ。これで許してやるとしよう」
 食べ物につれられてあっさりと許してしまった。
 秋羽と別れた数分後、家に帰るまで我慢出来なくなったアーデルハイトは、クッキーと1つだけかじってみた。
「ぐっ・・・・・・。ぎゃぁああぁ、なんじゃこれはーーー!!―・・・っ」
 彼の手作りは全て毒となってしまうのだが、彼女はそれを知らなかった。
 しかし、すぐさまスペアの身体で蘇り、毒物を食わされた怒りで憤怒のオーラを発する。
「おのれぇえ、秋羽っ。今日からおまえは私のライバルじゃ、いつでも勝負してやるのじゃ!!」
 山が噴火したように怒鳴り散らし、声高らかに宣言した。