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第39章 意見

 静香さま……貴方はもう覚えていないかもですが、かつて「僕は真口さんやみんなの優しさや信頼に応えられるような人になりたい」と仰いました。
 ボクも…ずっと気持ちは同じで、貴方や皆の為になれる人になりたい……って思っていました。
 けど……貴方だけに依存してるって思われて、距離を離す事になって……。
 でも……ボクは最後まで分かり合う事を諦めず、何度面会出来なくても……どんな心が擦り減っても、伝えるべき事は伝えようって努力し続けて。
 それは、貴方や周囲の目には変わらず依存してる様に見えたかもしれない。
 ボクの行動は貴方の望んだ通りではなかったかもしれない。
 けど……貴方はボクと離れていた間、一体何をしていたのですか。
 貴方も、自分を変え努力しようって思っているのは知っています。
 けど……貴方は人の上辺だけ見て、本心を確かめようともせず、勝手に決め付け判断してしまった……距離を離した時も……選択の時も……。

 ……でも今更、こんな事を言うのは、ボクを思い直して欲しいからではないです。
 ただ……そんな事では貴方は、あの日言った「なりたい」って人に、なる事はできない。
 少なくとも……今の貴方を、ボクは…認められない。
 人の上に立つ校長としても……。

 ボクは……貴方の様に、相手の事を分かろうって努力を放棄したりはしない。辛いからって目を背けたりしない。
 ボクも常に正しく相手の気持ちを認識出来るとは言わないけど、少なくとも、一方的に決め付け突き放したりしない……。


○     ○     ○


「……失礼します」
「悠希……どうして……」
 桜井 静香(さくらい・しずか)との面会を終えて、百合園女学院の校長室から出た真口 悠希(まぐち・ゆき)に、カレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)は、戸惑いながら歩み寄る。
 悠希は、軽く震えていた。
 それは気温のせいでも、恐怖のせいでもない。
(かつて信頼し合った事もある二人が、今はどうしてこんな事に……。
 悠希があんな事を言ったって他の人が知ったら、皆悲しむかも……心配するかもしれない……。それに疑うかもしれない……)
 アフェクシャナトは悠希に問いかけていく。
「悠希……貴方は静香に想いが届かなくても、変わらず人に優しく……人の為になれる人間になろうって誓っていたのに。
 それなのに……あんな事を言っていたら、想いが届かなかった腹いせだって……結局自分の事しか考えてないって……誓ったのも嘘だった、って思われちゃうよ……?」
「いいんだ……ただ、シャナト……君もそう思うのかな?」
「私には……人の複雑な心理は分からなくて。
 だけど……悠希の考えは読めないけど、でも貴方が、自分の為だけにあんな事を言った訳じゃないって、そう……信じてる」
「ありがとう。でも、ボクは……誰かを愛すると、その重さで相手を苦しめてしまうみたいで。
 だから……決めたんだ。
 これからも……誰かを思い遣り手を差し伸べるのを止めはしない。
 けれど。
 もう……誰も愛さない」
「……」
 少し遅れて、上杉 謙信(うえすぎ・けんしん)も校長室から出てきた。
 謙信は一人校長室に残って『悠希があれほど直接的な物言いをするのは、珍しい』と、静香にこう語っていた。

 いつもの悠希は……例えば闇組織討伐に参加せず自信が無いからと、お主の側に居た事があった。
 いかにも頼りなく、相手に依存した風に見える。
 だが……本当は、心から自信が無く役目を放棄した訳ではない。
 校長として、同じく自信が持てなかったお主を同じ立場から励まし、お主の行動の支えになる決意を秘めていた……。
 ならば……どうして直接的にそう言わなかったか。
 ……言えなかったのだ。
 自分だけ自信がある様に振る舞えば、自信が持てないお主をより追い詰めてしまうかもと……。
 直接戦うより、人の心の力になる……それが、自分に出来る、最大の戦いだと……思っていたのだ……。


 そんな2人の言葉を、静香は黙って聞いていた。
 肯定も否定もせずに聞いていた。
 何故、何も言わないのかと、謙信が問いかけたところ。
 静香は「今日はホワイトデーだから」と答えた。
 今日は皆、ホワイトデーの為に皆集まっているのだと。
 皆、ホワイトデーを楽しんだり、誰かと過ごすために集まっている。入場制限があり、来たかったのに来られない人もいた。
 だから、校長として今日、自分が考えなければならないのは、ホワイトデーの為に集まっている人達のことだと。
 だけれど、真口さんがどうしても言いたいことがあるみたいだから、話だけは聞こうと思ったと。
「今日の僕に答えられることは何もない」
 それが静香の返答だった。

 肩を震わせて、だけれど拳を強く握りしめ、必死に前を見据えて歩き出す悠希の後に、アフェクシャナトと謙信はもう何も言わずに、ついていく。