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リアクション
1evolution【1】
珍獣の森・オラウンコの巣。
オラウンコとはオラウータンとインコの特性を合わせ持つそれはそれは不可思議な生き物である。
朝はメシを食いクソを垂れ、昼もメシを食いクソを垂れ、夜はクソして寝ると言う習性があるとかないとか……。
JJことジャングル・ジャンボヘッド(じゃんぐる・じゃんぼへっど)の救出にきた生徒たちは慎重に様子を窺う。
JJと親しい元気印小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は群れの中に彼を探す。
「ゴリラくん、どこにいるのかな……?」
この群れに帰されたと聞いてるが……、ちょっと見ただけでは判別するのはむずかしい。
よし、と美羽は意を決し、オラウンコと直接交渉することにした。
「ねぇウンコくんたち! ここに紛れてるゴリラくんを返して。勿論、タダでとは言わないわ」
じゃじゃんと高級フルーツ店で購入したバナナを見せつける。
しかし、オラウンコたちは、はっ、と鼻で笑った。
「交渉にバナナなんて持ってくるなんて世の中ナメてるんですか? え?」
「僕たちを所詮猿の類いだと思ってバカにしてるから、猿=バナナ、なんて安直な発想に陥ってしまうんですよ」
「大体、アポもとらずに押し掛けるなんて常識がありませんね。服装もはしたないミニスカですしぃ?」
「ふん。ま、一目で分かりましたよ。あなたが脳みそカラッポの下品な女だとね!」
ビシィと指差し……ながら、オラウンコはぶりぶりと排泄した。
「む、ムカツク……!」
「ま、まぁ抑えてください。ケンカをしに来たわけじゃないんですから」
LOVE環菜の影野 陽太(かげの・ようた)が、今にも鉄拳が飛び出しそうな美羽を諌めた。
そして、オラウンコに向き直る。
「配慮が足りなかったのは謝ります。でも、俺たちは争いには来たわけじゃありません。きっとお互いの事をよく知ればわかりあえるはずです。今日は天気もいいです、一緒にお昼でもどうですか。美味しいサザエ寿司を持ってきました」
ところが、オラウンコはやれやれとばかりに肩をすくめた。
「この暑いのに生ものって何考えてるんです? 食中毒でも起こしたらどうしてくれるんですか?」
「それとも、僕たちには腐った貝がお似合いだとでも? ええ?」
「…………」
ウザイなー……、と陽太は笑顔を引きつらせた。
とその時である。謎料理がてんこもりの皿が、パイ投げのごとき速度でオラウンコの顔面に叩き込まれた。
バナナとタバスコとマスタードとあと得体の知れない葉っぱのエキスでドブ色に染まった料理だった。
ウボアー、と悲鳴を上げて気絶するオラウンコA。
「さっきから聞いてれば……細かいことをネチネチしつこいヤツらですね……!」
メガネを冷たく光らせ、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は謎料理を構えた。
普段は温厚な彼女も、ぶりぶり糞を撒き散らしながら粘着質に迫るオラウンコは、腹に据えかねたらしい。
「もう交渉なんてやーめた!」
元々しんぼうのきかない美羽も我慢の限界。
「いいから、とっととゴリラくんを出すのよーっ!」
フラワシで拘束すると、光条兵器の大剣を発現、オラウンコの毛をじょりじょり刈り取りはじめた。
「口では勝てなくても暴力なら負けないんだから!」
発言だけ見てるとただのならず者である。
陽太は「結局こうなってしまうんですね……」と小さく吐息を漏らした。
「でも、時間稼ぎにはなりそうですね。今のうちにノーンがJJさんを探し出してくれれば……おっと噂をすれば」
「おにーちゃん! ゴリラさん見つけたよっ!」
オラウンコの群れからもぞもぞ出てきたのはノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)。
連れられ一緒に出てきた巨大な影に陽太はほほうと嘆息。
「初めまして。もっとゴリラっぽい人だと思ったんですが、なんだかトロールっぽい人なんですねー」
「ガアアアア!!」
しかし、なんだかどこか違う。
巨体こそ巨体だが、色白だしスキンヘッドだし、葉っぱ一枚で局部を隠してるだけだし……。
「うわああああ!! ご、ごめんなさい、ゴリラくん!」
突然、美羽が悲鳴を上げた。
「刈り取るのに夢中になってて……、きっと私が間違えてゴリラくんの毛も刈り取っちゃったんだね……」
「い、いやいや! そんなわけないでしょ!」
思わず突っ込むコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)。
「明らかに……でもないけど、別人だよ! パラ実の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)だよ、この人!」
「ガアアアア!!」
完全に野性化してしまった彼はそう、パラ実のトロールこと吉永竜司である。
実は彼もまた空京センター街にいたところを森ガールに拉致されここまで連れてこられたのだ。
理由は不明だが、おそらく何かの絶滅危惧種と間違えられたのだろう。誘拐後、野に帰されてしまった。
ほんの数日で理性を失い、今やオラウンコとともに食料を漁るところにまで堕ちた。
「人間……? トロールではないのですか?」
「えー、違うよー。トロールじゃなくてゴリラさんだよー。珍しい白ゴリラだよー」
顔を見合わせるベアトリーチェとノーン。
「オレ、トロールチガウ。ニンゲン、ニンゲンダ……タブン。ハラヘッタ、ナニカ、クワセロ、ガアアア!!」
食欲が先行して品性が感じられない竜司は木刀を振り回して襲いかかった。
普段なら女子に優しい彼も、今は獣、美少女たちには目もくれず、陽太の持つ寿司折りを奪った。
「エドマエ、エドマエ」
オラウンコすらも嫌がった生ものをバクバク食べる。
するとどうだろう。久しぶりに口にする文明の味が、彼の理性を徐々に呼び覚ましていく……。
「オ……、オレは今まで一体なにを……。何故、イケメンのオレが裸で……はうあっ!?」
正気を取り戻すや、後ろの門と書いて後門をガッと押さえた。
やはりシボラの過酷な気温と湿度は、通常のウン倍のスピードで腐敗を進行させていた。
竜司は脇目も振らず草むらに消えていった。彼の社会復帰はまだ時間がかかりそうである……。
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