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ありがとうの日

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ありがとうの日
ありがとうの日 ありがとうの日

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○     ○     ○


「ヴァイシャリーでの、お祭りは……久しぶり、ですねぇ」
「ホント、久しぶりだね。思いっきり楽しまないとね」
 冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)と、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、手を繋いで賑わう街の中を歩いていた。
「なにか買って、食べながら……待っていましょうか〜。この辺り、パレード通るみたいですし〜」
「そうだね。日奈々は何が食べたい?」
「……片手で食べられるものが、いいですぅ。溶けたりしないもの、で……」
 出来るだけ、離すことなく千百合と手を繋いでいたいから。
 彼女やパレードに夢中になっていても、溶けてしまったりしないものが、いいなと。
 日奈々は考えた後、こう言った。
「フランクフルトが食べたいですぅ」
「そっか、あたしは……わたあめにしよっかな。甘いものが食べたくなったら日奈々も食べていいからね」
「私のフランクフルトも、どうぞ、ですぅ」
 交換して食べようと約束をして、一緒に屋台でフランクフルトとわたあめを購入した。
 それからパレードが通る道の歩道に戻って、学校のことや、遊びのこととか、たわいない話をしながら2人で楽しく待っていた。
「あ、来た来た」
「明るい笛の音が聞こえてきますぅ」
 千百合と日奈々は、音の響いてくる方へと顔を向ける。
 先頭は、有翼種の若者達。
 ヴァイシャリー軍の制服に似た、お祭り用の軍服のような服を纏っている。
 その後ろに、地球の民族衣装をまとった人々。シャンバラ各地の民族衣装をまとった人々。ヴァイシャリーで使われている様々なユニフォームを纏った人々。
 ロイヤルガードの制服や、百合園女学院の制服姿の若者の姿もあった。
 演奏や踊りを披露しながら、大通りを進んでいく。
「あ、あれは……」
 パレードに参加している学生の中に、千百合は知り合いの姿を見つけた。
「舞香ちゃん、たちですねぇ」
 見えなくても日奈々にもわかる、元気な声が響いているから……。

「街と百合園を護った皆へのお祝い、そして優子お姉様達のお祝いですもの! 目一杯頑張ってはっちゃけて踊るわよ!」
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)の声に、バトン・チアリーディング部のチーム『Sky Angels』のメンバー達が元気に返事をする。
 パレードで踊る彼女達は、白地にピンクのラインの入った百合園カラーのTシャツに、超ミニスコートのチアガール衣装。
 同色のブーツといった格好だ。
「た、沢山人が見ているね。き、緊張しますっ」
 桜月 綾乃(さくらづき・あやの)は、ドキドキ胸を高鳴らせながら演技をしている。
 スコートがとっても短いので、中が見えてしまうことも、恥ずかしく思う理由の一つ。
「まいちゃんは、アンスコ穿いてるから平気だって言うけど……」
 やっぱり恥ずかしいよと、綾乃は時々スコートを押えてしまう。
 アンダースコートはとっても薄くて、近くで見られたらショーツが透けて見えてしまうし。
 でも、そんな風に恥ずかしがる姿が、男性達の視線を集めてしまっていた。
「さあ、大技いくアルよ!」
 奏 美凜(そう・めいりん)は、身軽にアクロバット。
 コールを掛け合い、リズムに合わせて美しく跳ぶ。
「これまでの白百合団の戦いの歴史を表現した演技よ。優美に、そして可憐に!」
 自分自身も楽しみながら、舞香はバトントワリングの演技を沿道に集まる人々に披露していく。
 人々からは、沢山の歓声や拍手が湧きおこる。
「ん? あれは、百合園の……」
 ふと、舞香は沿道にいる日奈々と千百合の姿に気付いた。
 そして、日奈々に忍び寄る影にも。

「あ、こっちに気付いたよ!」
「頑張ってください〜」
 千百合と日奈々は、舞香達に手を振った。
 その直後。
「きゃ……っ」
 ドン、と日奈々に何かがぶつかってきた。
「日奈々」
 転びかかる彼女を千百合は即座に抱き止める。
「鞄、が……」
 日奈々が肩にかけていた鞄のベルトが、刃物で切られてしまっている。
 人混みをかき分けて、運河へ逃げる男の姿が見えた。運河には小型ボートが止められている。
「行かせない!」
 千百合は日奈々を抱えたまま、ダッシュローラーで男に急接近。奪われた鞄を取り戻す。
「あとは任せて」
 そこに、ダンスをしながら沿道にも警戒を払っていた舞香と、パートナー達が飛び込んでくる。
「肉まんが食べた……じゃなかった、悪人は許さないアルよ!」
 美凜は軽身功で近づいて、男を組伏す。
 一般人のようなので、手加減しながらお仕置きっ!
「今日はヴァイシャリーの守護天使達をお祝いする日だという事をお忘れかしら?」
 舞香はボートの方へと走って、仲間の男ににっこりほほ笑む。
「くっ」
「百合園の女の子を怒らせるとどうなるか、教えてあげる☆」
 発進しようとするボートに飛び乗って、魅惑のチアガールハイキックを乱舞!
「ぎゃー……っ」
 アンスコと透けている中身を楽しむ間もなく、男はズタボロになった。
「大丈夫? 怪我してないですか?」
 綾乃はあわあわ見守りながら、千百合と日奈々を気遣う。
「大丈夫ですぅ」
「何ともないよ。ベルト切られちゃったけどね」
 日奈々に怪我がなくて本当によかったと。
 襲われたのが千百合じゃなくて、本当によかったと。
 千百合と日奈々は互いを思いあって微笑んだ。
「よかったです。窃盗犯さん達は、全然無事じゃなさそうですけど……」
 自業自得だよねと、綾乃は千百合と日奈々と、微笑み合った。
 パレードは賑やかにまだ、続いている。
「まいちゃん、私、踊ってるね……っ」
 ちょっと恥ずかしいけれど、悪人を捕縛している舞香達の分も頑張ろうと、綾乃は先に戻っていった。