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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
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リアクション

 さまざまな場所で戦いの火ぶたが切って落とされたころ。
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)東條 葵(とうじょう・あおい)と2人で、しげみに隠れていた。
 じーーーーーっと。
 じーーーーーーーーーーっと。
 ……………………………………。
 ……………………………………。
「……いつまでここでこうしている気なの」
 ついに葵が耐えかねて、げんなりとした口調で訊く。
「いやぁ、うーーーん…」
 どう説明したものか。カガチは両膝を抱いたまま、ころんと後ろに尻をついた。
「だってさ、ようは遺跡にたどり着ければいいんでしょ? べつに戦う必要ないよなぁ、って思ってさ」
 聞いたところによると、通るだけなら全然オッケーって敵さんも言ってくれたみたいだし。
 ただ、とことこ歩いてってほかのひとたちの戦いに巻き込まれて大けが負うのもいやだなぁ、と思って。
「だから、ひと気がなくなったら移動っていうのを繰り返してたらいいかなー? って」
 カガチにとっては正論なのだが、葵には脱力、噴飯もののアイデアだったらしい。見るからにガックリと、両手を地面についていた。
(いや、うん。聞いたらきっとそうなると思ってたんだけどー)
 じーっと見つめて、葵が復活するのを待つカガチ。
 むくり、身を起こしてこちらを振り返った葵は、あの完璧なだけに慇懃無礼なアルカイックスマイルを浮かべていた。
「ああ、そうだったの。ごめんね、俺ちっとも気付けなかったよ。だってほら、そういうの普通考えついたりしないでしょ? 多分ここにいるひとたち、だれ1人思いついてもいなかったと思う。そんなこと思いつくのカガチぐらいだよ。ほんと、カガチはすごいなぁ」
 みごとなあてこすりとイヤミ120%。
 両手を地面についたのは、今度はカガチの方だった。
(……きっついなぁ、葵ちゃん)
 でも。
(自分で気づいてないよね、あの口調。一人称「俺」になってるし)
 本人は完璧隠しているつもりでも、バレバレなのだ。どこからどう見てもいつもの葵じゃない。
 そっと肩口から横顔を覗き見る。
 こめかみを伝い落ちる汗とか、浅い呼吸とか。肌の色だって青白いのを通り越して土気色に近い気がする。
(相当具合悪そうやなぁ、葵ちゃん)
 本当は、カガチも真面目に正面突破、みんなのように救助に向かうつもりだったのだ。葵に会うまでは。会ったときはあの完璧さに惑わされて気付けなかった。だから戦力になると思って誘って連れてきたのだけれど……入り口で集結したとき、パートナーのなかにかなり体調不良者がいることを知って、もしやと葵を見たらふらふら危なっかしく揺れていることにようやく気付けたというわけだった。
 かなりうかつ。
(かといって、誘った身で「帰れ」なんて言えんしなぁ)
 そして具合が悪いことに気付いていることも、言い出せなかった。カガチが気付いて、気にしていると知ったらどうなるかは火を見るよりあきらかだ。
 でも考えてみたら、そんな具合悪い状態でいたのにカガチが「今から調査隊の救出に向かう」って言ったら一緒について来てくれたわけで…。
 葵は絶対、口が裂けても言わないから、カガチも言えない。……言わない。
 ただ、頭をぽんぽんしようとして、直前で背中に変えた。(頭痛起こしてるみたいだしね!)
「……なに?」
「え? あ、いや、えーと…」
 返答に詰まった、そのとき。
 突然、彼らのしげみに何かが飛び込んできた。
「うわお!?」
「ああ、悪い」
 それは、魔鎧ベリアリリス・ルヴェルゼ(べりありりす・るう゛ぇるぜ)をまとったリゼネリ・べルザァート(りぜねり・べるざぁーと)だった。
 この魔鎧、細かな刺繍で縁取りされた豪奢な蒼の中世貴族服で、一見魔鎧であると気付けないほど理想的な質感をしている。ほんの少し枝葉に引っかけただけでだいなしになってしまいそうな、繊細美麗なコスチュームだ。
 しかしそこは魔鎧。防御能力は完璧で、しっかりと主であるリゼネリを敵ドルグワントの攻撃から守護していた。
 はっとリゼネリが何かを感じ取ったように上を見上げる。
「何が…」
 つられて上を見たカガチの横で、風の鎧が発動した。
 撃ち込まれたエネルギー弾を風の壁が跳ね返す。同時に彼らが隠れていたしげみをあらかた吹き飛ばしてしまった。
 樹上から2人の銀髪の少年が彼らを見下ろしている。
 こうなっては観念するしかない。
「葵ちゃん、やるかねぇ?」
「当然。もともとそのつもりで来ているんだからね」
 呪鍛サバイバルナイフを抜く。
 2人の会話を聞いて、跳躍しようとしていたリゼネリが動きを止めた。
 エリエスのメンタルアサルトが効果なかった以上、少年2人を相手に自分とエリエスだけでは逃げの一手しかないと思っていたが、4人なら勝機がありそうだ。
「すまない。手伝ってくれ」



 頭が重かった。全身がきしむように痛い。骨という骨が悲鳴を上げている。鼓動がずい分早くて、息もしづらい。実はカガチに会う前に、何度か吐いてもいた。気分が悪くて何も口にしていないから、嘔吐感がしてももう吐く物が胃に入っていない。
(ほんと、戦闘するには最悪だね。こんな状態で、俺もよくここへ来たもんだよ)
 もはや自分が立てているのかどうかも危うい。それでも……あそこへ行きたかった。あそこへ行かなくてはならない気がする。なんとしても。理由はうまく説明できないけれど。
(ああ……葵ちゃん、立ってるだけでもうふらついてるじゃないか)
 はらはらする思いでカガチは少し距離をとった葵を盗み見る。
 ああして無言で立っているのを見ると、まるで太陽の熱に頭を押され、今にもその場に座り込んでしまいそうに見えて…。
(こりゃあさっさと決めるしかないねぇ)
「いきますか」
 蛟紡を手に、カガチは切り込んだ。
 一太刀。ただそれだけを意識して鍛えられたひと振りの刀は、さながら毒蛇の威嚇音のような音をたてて鞘走るやいなや敵に一閃をかけた。
 ぱっと背後に飛び退いて逃れたその先を追い、袈裟懸け、斬り上げと続く。しかしその技はいずれも少年の手前で不可視の壁に阻まれた。まるで鋼鉄の壁に切りつけているような感触が刀を伝ってくる。
 これを切り崩すには手数を増やすべきか。カガチは即座に花散里を抜き、二刀のかまえをとった。
 2振りの剣が生み出す隙のない剣げき。しかしこれも少年の防御を崩すまでにはいたらなかった。振り切った隙をつくように、少年の後ろ回し蹴りがくる。数度の攻撃を受けたことでカガチの太刀筋を読んだか。今度は少年が攻勢に回った。
 重く、するどいこぶしと蹴りの高速攻撃。受太刀で防御するも、すべてはかわしきれなかった。
 いったん距離をとろうとした彼の動きに合わせ、少年が地を蹴る。
「くぅっ!!」
 飛び込みひざ蹴りをまともに受け、カガチは吹き飛ばされた。
 エネルギー弾で追撃をかけようとした少年を、葵のミラージュが襲う。宙で分裂した彼を見たとまどいからか、動きの止まった少年に、葵は含み針を飛ばした。
 通常状態のときでさえ目に入れるのは困難な小さき猛毒の針。それが少年の腕に刺さったのを葵は見た。
(いけたか?)
 葵は着地に失敗し、その場にがくりとひざをつく。
 少年に、毒に苦しんでいる様子はなかった。身を折ったり、腕をかばったりはしない。しかしあきらかに速度がにぶった。目で追えないことはない。
「葵ちゃん、よくやった」
 カガチが戦線に復帰する。疾風突き、真空斬りを手数に加え、少年と再びせめぎ合いを開始した。
「精神攻撃は通用しなかったが、バッドステータスの付与はある程度効果があるようだな」
 2人の戦いぶりを横目に見ながらリゼネリがつぶやいた。
 今、彼はパートナーの強化人間エリエス・アーマデリア(えりえす・あーまでりあ)と、もう1体の少年を前後にはさんで挟撃をかけている。精神感応を駆使してタイミングを図り、スイッチしながら攻撃し合っているのだが、ほぼ同一の思考回路を持つ彼らは『相手に伝える』というよりも、心に思い描くことが完璧に一致しているような状態だった。
 敵の反応を見て、どちらがどう動くか、どう動かれたらどう対処するか。決して「リベル、私こうするからあなたこう動いてよ」などと伝えたりはしない。
 そのため、彼らの動きはまるで等しく同一人物であるかのようだった。2つに分裂してはいるが、頭も心も1つ。奇しくも敵ドルグワントのように。
 タイムラグのない双方向からのなめらかなスイッチング攻撃。それが防御にもつながり、少年の高速攻撃を半ば制限していた。
 ただ、通常思考の方は完璧に同期しているとは言いがたいようで。
「悪疫のフラワシ使う?」
 あっけらかんとしたエリエスの提案に、リゼネリはちょっと頭を抱えてしまう。
「……エス。戦闘時に重要なのは、どこまで手の内をあかさないでいられるかだ」
 ――こんな、相手の前で堂々と口にするんじゃない。せめて精神感応を使ってくれ。
 ――いいじゃない、べつに。リベルだってさっき口にしたでしょ?
 ――僕の場合は避けようのない事実だが、きみのは違うだろう。

 むう、となる。
「きっとフラワシだって見えないから避けられないわよ!」
 エリエスは氷像のフラワシを呼び出した。――ここで悪疫のフラワシを呼び出さないところがエリエスのエリエスたるところだ。
 彼女の残念なおまぬけっぷりを知っているリゼネリは、もはやこの程度では脱力したりしない。自分の方が合わせた方が面倒が少ないし、楽だと分かっている。
 氷像のフラワシが少年の足部を凍りつかせるタイミングで、彼は大魔弾『コキュートス』を発射する。
 短銃でありながら大砲のごとき爆音を響かせ、魔弾は敵にその凶暴な牙を突き立てた。
 光が砕けるような音をたて、バリアが破砕した。少年の体は背後へ吹き飛び、木にたたきつけられる。
「これでも駄目か」
「あら。効くわよ。だから相手だって防御したんじゃない。しかもバリア破壊したし」
 しかしこの近距離でもブロックされた。よほどタイミングよく決まらなければ同じことの繰り返しになるだろう。
 戦術を練る余地はあった。そのためにもここは一度撤退した方がよくはないだろうか…。
 だがそれを許さない存在が、彼らの背後に現れた。
 3体目のドルグワントだ。
「……こりゃしんどいね」
 視界に入った新手にカガチもそう口にする。
 葵を見ると、彼はすでに行動に出ていた。
 精神統一を図るよう目を閉じた彼を中心に、カタクリズムの風が沸き起こる。またたく間に旋風のごとき力の風が、その場を掌握した。
「よっしゃ! 今だ! 撤退!」
 カガチの声に合わせて、リゼネリやエリエスもこの場を離脱していく。
「葵ちゃん、こっちだ!」
 カガチは葵の腕を引っ張って走り出した。
 走れ、走れ、走れ。このまま戦場を走り抜けろ。
 彼らの前方には、陽の光を受けて輝く遺跡の最上階が見えていた。