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第8試合

 
 
『第8試合は、イーブンサイド、リーフェルハルニッシュ? こちらは、AI制御となります。
 対するオッドサイドは、イブ・アムネシア(いぶ・あむねしあ)パイロット、月詠 司(つくよみ・つかさ)サブパイロットのネメシス=アラウンです』
「違うですぅ、トラボル太ですぅ!」
 シャレード・ムーンの紹介に、コックピットの中でイブ・アムネシアが異議を唱えた。
 ネメシス=アラウンあらためトラボル太は、アンズーサンタをベースとしている。ミニスカサンタ服だからといって嬉しくもなんともないイコンの衣装は、今回用にアイスクリーム色である。普段は真っ黒いサンタ服なので、イブ・アムネシアとしてはちょっぴり嬉しかった。お洒落である……らしい。
 背部には大きな袋に似せたコンテナを背負い、中にはプレゼントボックス型のコロージョン・グレネードが大量に積み込まれている。
 対するリーフェルハルニッシュは、全体に呪紋を施した騎士型の機体で、漆黒である。マントを羽織り、手には両端が尖った槍のピルム・ムルスを装備している。
「わあい、腹黒くない白いトラボル太のお披露目ですぅ!」
 格納庫から飛び出したイブ・アムネシアが、ソニックブラスターで盛大にジングルベルを流しながら喜んだ。
 どうやら、フィールドは市街戦用の物らしく、空京大通りを軽快にトラボル太が進んで行く。
「ちょっと待て、これ、イコン展覧会じゃないから。模擬戦だから。どっからか敵が出て来て攻撃してくるんですよ」
「えっ、ボク聞いてないよ、それ。またトラボル太が壊れたらやだよぉ」
 イコン博覧会では、トラボル太は派手にクラッシュして、実機は現在修理中である。この大会が、単なるイコン自慢大会だと思い込んでいたイブ・アムネシアに取ってはショックであった。
「こうなったら……逃げの一手ですぅ!!」
 そう言うなり、イブ・アムネシアがトラボル太を全速で走らせた。このまま敵から逃げ切るつもりのようだ。
「こ、こら。それじゃ、試合放棄に……」
 月詠司が止めようとしたとき、ビルの陰から対戦相手のリーフェルハルニッシュが姿を現した。そして、トラボル太に轢かれた。
「どこの誰だか知りませんが、ごめんなさいですぅ。これ、プレゼントですぅ!!」
 相手が何者か確認もせずに、イブ・アムネシアがコンテナの中からプレゼントを放出した。中身は爆弾である。
 背後でちゅどどどんと爆発が起こり、リーフェルハルニッシュが吹き飛んだ。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、ネメシス=アラウンです!!』
 
 
第9試合

 
 
『さあ、すぐに第9試合に参りましょう。
 イーブンサイド、シュメッターリンク。こちらは、第一世代機ですね。操縦はAIが行います。
 対するオッドサイドは、ネフィリム三姉妹。なんとパワードスーツ隊です。指揮車は湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)ドライバーが担当します。エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)の三人がパイロットとなります。無事を祈りましょう』
 ネフィリム三姉妹のパワードスーツは、元々航空ショー用にアセンブルされた物で、のパーソナルカラーに色分けされている。
 メイン武装のロケットランチャーの他に、エクス・ネフィリムは機動性を生かしてのギロチンアームによる白兵戦、ディミーア・ネフィリムが魔法の投げ矢による魔法攻撃、セラフ・ネフィリムが対神スナイパーライフルによる射撃に特化してはいるが、はたしてどこまでイコンに通用するのだろうか。はっきり言って、生身が露出した部分の方が多いかもしれず、装甲はないも同じだった。
「いちおう、機晶筋肉ユニットでパワーを、仏斗羽素でスピードを強化してあるが、気休めだ。潔く散ってこい」
「ちょ、ちょっと。今回も解説じゃなかったんですかあ」
 話が違うと、エクス・ネフィリムがインカムで湯上凶司に聞き返した。
「戦闘員だが何か? とりあえず、戦乙女として華々しく散ってこい。ちゃんと録画はしておいてやる」
「録画ですかあ? またまたあ、凶司ちゃんったら、何に使うのかなあ?」
 ちょっと思わせぶりに、セラフ・ネフィリムが問い質した。
「当然、ディスクに焼いて後で販売する。ここで儲けなくてどうする。しっかりと、売れるビデオにするんだよ」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないよ」
 無理を言うなと、ディミーア・ネフィリムが言い返した。
「とにかく、そろそろ時間だ。逝ってこーい!!」
 湯上凶司が、パワードスーツ輸送車のコンテナハッチを開放した。三姉妹が勢いよく飛び出してくる。
「ちょ、ちょっと、ここって建物の中なの?」
「遺跡ステージみたいねえ。ちょっとだけ、あたしたちに有利かなあ」
 戸惑うディミーア・ネフィリムに、セラフ・ネフィリムが告げた。
「とりあえず、先に敵を見つけた方がいいかなあ。先行はエクス、ディミーアはツーマンセルで掩護してね」
 そう指示を与えると、セラフ・ネフィリムが最後尾につけて移動を始めた。
 通路は、パワードスーツが通れるほどの大きさしかない。敵イコンと接触するとすれば、それなりに広さのある場所だろう。
 少し進むと、倉庫のような広い場所に出た。無造作に貨物コンテナが積みあげられて遮蔽物となっており、天井は網状の吊り天井となっている。
 セラフ・ネフィリムはその吊り天井の上に出ると、索敵を始めた。
「いましたあ。エクスの右側よお」
「ええっ……」
 セラフ・ネフィリムに言われて、エクス・ネフィリムがちょっとびびる。
「よし、じゃあ、私が敵の気を引くから、その隙にやっちゃってよ」
 言うなり、ディミーア・ネフィリムがロケットランチャーを構えた
「いっけえー!」
 コンテナの陰から身を躍らせたディミーア・ネフィリムが、シュメッターリンクにむかってロケット弾を発射した。ふいをつかれたシュメッターリンクの左肩で爆発が起こり、左腕がだらりと下がる。
「やったあ!」
 歓声をあげつつ、ディミーア・ネフィリムがコンテナの陰に身を隠した。
 そこへ、シュメッターリンクがマシンガンを放った。ただのコンテナがイコンのマシンガンの攻撃に耐えられるわけもなく、背後のディミーア・ネフィリムともども蜂の巣にされる。
『おおっと、メイン画面にモザイクがかかりました。緑色の爆煙が大きく広がります』
 シャレード・ムーンが、観客たちの見ている画像の捕捉をする。さすがに、画像処理がかかったようだ。
「ディミーアお姉ちゃんをよくもー!!」
 ディミーア・ネフィリムの作ってくれた隙に背部に回ったエクス・ネフィリムが、ギロチンアームを展開してシュメッターリンクの腰部関節に突っ込んでいった。エネルギー伝導回路とバランサーを破壊されたシュメッターリンクが膝をつく。だが、無理矢理フローターの力で機体を回転させると、マシンガンの銃口をエクス・ネフィリムにむけた。
 ディミーア・ネフィリムに続いてエクス・ネフィリムもやられてしまうと思われた瞬間、シュメッターリンクの頭部がひしゃげて爆発を起こした。のけぞるようにして、シュメッターリンクが倒れていく。
「仇はとったわよお、ディミーア。じょーぶつしてねえ」
 吊り天井の上で、ライフルを真下にむけたセラフ・ネフィリムが言った。
「死んでないから、生きてるから!」
 あっさりと排出されたディミーア・ネフィリムが、シミュレータの横で叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
『なんと、勝利者、ネフィリム三姉妹です』