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第一章 再会 5

砂糖菓子の館


 シャムスたちがやってきたのは、〈お菓子の館〉とよばれる場所だった。
 このたび、観光局が設立されると同時につくられた建物だ。ザナドゥ各地の、魔族の職人たちがつくった砂糖菓子がたくさんかざられている場所。建物自体も「お菓子の館」という名前をコンセプトにつくられていて、なんというか女の子の絵本のファンタジーにでてきそうな感じだった。
 さっそくお菓子に反応して飛びだしたのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
「すごーい! ねっねっ、入ってみようよ!」
「お、おい、美羽!」
「美羽さん!」
 美羽はシャムスとエンヘドゥの手を引っぱって、館のなかに入っていく。そこにはおよそ人の手でつくられたとは思えないほどの精巧な砂糖菓子作品が並べられていた。お城、西洋の騎士、お姫さま、タワー、アムドゥスキアスの塔を模したもの、などなど。数えきれないほどの作品が展示させられている。べっこう飴みたいにきらきら輝くそれらのお菓子を、美羽は輝く目で見つめた。
 さらに奥にいくと、ちゃんと砂糖菓子商品も売られていた。売店コーナーみたいなものが、建物のいろんな場所にあるのだ。三階建てのいちばんうえに行って、美羽はちっちゃな砂糖菓子商品のガラス棚をながめた。
「うわー、すごーい」
「これだけのものを作るなんて、たいしたもんだ。どれか、気になったのはあったか?」
 シャムスはたずねた。
「これっ、これ、見て!」
 美羽はガラス棚にある砂糖菓子の人形を指さした。シャムスとエンヘドゥは美羽のそばにきてそれを見て、おどろいた。
「こりゃ、ナベリウスの三人じゃないか」
「モモちゃんに、ナナちゃん、それにサクラちゃんも!」
 エンヘドゥが三人娘の名前をよぶ。美羽はしきりによろこんでいた。
「ナベリウス人形のお菓子だって! すごいよね!」
「よくできてるな……」
 シャムスが感心していると、売店の店員がちかづいてきた。どうぞお手にとってみてくださいといって、店員はガラスをからからと開ける。真っ白なプレートに並べられた透明なナベリウス三人娘が目の前にさしだされた。
「きれーい」
「ぜひ、食べてやってください。ご試食ということで」
 店員がにっこり笑っていった。美羽はえっという顔になった。
「そんな、もったいないですよ」
「いいんですよ。お菓子は食べてもらえるのが幸せなことなんです。きっと、彼女たちもそう願っています」
 三人はナベリウス三人娘のお菓子を見た。三人娘は、食べて、とうったえかけているように見えた。シャムスと美羽とエンヘドゥは顔を見あわせる。
「食べてみるか」
 シャムスがいって、美羽は嬉しそうにうなずいた。三人はお菓子を口に運ぶ。ぱくっと口に含んだとたん、甘い香りととろけるような味が口の中いっぱいにひろがって、美羽は幸せそうな顔になって両手で頬をおさえた。
「おいし〜〜〜〜い!」
「喜んでいただけて、なによりです。あちらには休憩スペースもありますので、また、買っていただいたものはそちらでもお召しあがりいただけますよ」
「どうする?」
 シャムスがたずねた。エンヘドゥはもう心に決めていた。
 当然でしょ、というような顔を姉に向けて、エンヘドゥはいった。
「魔神ナベリウスのお菓子、くださいな」


 シャムスたちがナベリウス三人娘の砂糖菓子をながめている間に、アムドゥスキアスたちは休憩スペースにいた。
 造園のようになっていて、自然といっしょに休憩できる場所だった。テーブルとイスがいくつか置かれていて、他にもお客さんがちらほらと腰をおろしているのが見える。スペースの壁際には無料で紅茶をいれる場所があった。
 沢渡 真言(さわたり・まこと)はさっそくそこで紅茶を淹れることにした。ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がアイシングクッキー(焼いたクッキーの表面を、着色した砂糖と卵白でデコレーションしたもの)をつくってきたということで、みんなでそれを食べながらお茶にしようと決めたのだ。席にはアムドゥスキアスたちの他にも、真言の主人である三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)がいた。真言は彼女に仕える執事なのだ。わざわざトランクにいれて持ってきた愛用のティーセットをつかってお茶を淹れる。
 真言が戻ってくると、のぞみのそばにはロビン・ジジュ(ろびん・じじゅ)の姿があった。のぞみが契約した悪魔の少年だ。真言は心なしかむっとなった。のぞみに仕えているのは自分という誇りがあった。なのに、なぜこんなやつがそばにいるんだろう? 嫉妬は恥ずかしいことだ。だから、べつにそれに異を唱えるつもりなんてないが……。なんとなく、心がもやもやしていた。
「お待たせしました」
 気持ちをさとられないように、すました顔で真言がいった。さっそく、お茶をみんなに配る。
「いつもありがとう、真言」
 のぞみは真言を見ながらほほ笑んだ。
 お茶の香りを楽しみながら、アムドゥスキアスたちは雑談に花を咲かせた。その雑談を飾るのはベトリーチェのもってきたアイングクッキーだ。クッキーにはステンドグラスのデコレーションがされていた。美しい天使を描いたものだ。なかなかに手がこんでいる。アムドゥスキアスたちに誉められて、ベアトリーチェは恥ずかしそうに顔を赤くした。
 しばらくして、シャムスたちがかえってくる。美羽はみんなを見てうらやましそうにさけんだ。
「あーっ! 先にお菓子食べてるー! ずるーい!」
「大丈夫ですよ、美羽さん。ちゃんと美羽さんの分もありますから」
 そういってベアトリーチェになだめられて、美羽は席に座るとさっそくお菓子に手をのばした。シャムスたちも一緒に席につく。シャムスの隣にはのぞみがいて、その間にはさまれるように真言が立っていた。シャムスはロベルダを思いだした。執事は、いつも主人の一歩後ろにひかえているものだ。真言のふんいきはまだ幼い少年のそれを残してはいるものの、執事そのものだった。
 そのうちシャムスは真言に話しかけるようになり、談笑の時間はゆっくりと流れていった。話題は造園にある花壇のことになった。たくさんの花が植えられている。赤、青、黄色、など。原色が色鮮やかに咲きみだれている姿を見て、のぞみが嬉しそうな顔になっていた。
「お花がいっぱい。素敵ね」
「のぞみ。花のことならなんでも聞いてよ。ザナドゥの植物なら、説明はできるしさ」
 ロビンがいった。楽しそうに話す二人を横目でちらっと見て、真言はすこし胸が傷んだ。その表情の変化に気づかないシャムスではなかった。
「どうした? 真言。なにか不安なことでもあるのか?」
「いえ。なんでもありませんよ、シャムス様。ところで……」
 真言はあたりさわりのない世間話をはじめた。だけど意識はずっと、のぞみのほうに向いていた。
 嫉妬深いのかな、私は……。なんとなく自虐的な気分にもなったりする。その間も、ずっとロビンとのぞみは楽しそうに話していた。シャムスは真言とのぞみを見て、目の前のお茶菓子がなくなってきているのを見た。これだけの人数だ。お茶菓子の減りもはやい。シャムスは真言にいった。
「真言」
「はい? なんでしょう、シャムス様」
「お菓子がなくなってきてるな。もしよかったら、あっちの店で買ってきてくれないか?」
「わかりました。では……」
「ああ、ちょっと待った」
 そばを離れようとした真言の背中に、シャムスは呼びかけた。
 真言はきょとんとした顔でふり向く。のぞみとロビンもその様子を見ている。シャムスはのぞみのほうを向いた。
「のぞみ。真言についていってやってくれないか?」
「えぇっ、あ、あたし!」
 のぞみはびっくりして思わず大きな声をあげた。
「女の子の意見も必要だろ。真言がまとはずれなものを買ってきてもしょうがないしな。さ、行った行った」
「は、はい。わかりました」
 もちろん、そんなことは思っていなかった。
 のぞみは真言のもとに小走りで向かっていった。真言が一瞬だけシャムスを見る。シャムスはぱちっと目配せしておいた。余計なお節介になるかもしれないが、なんとなく見ていられなかったのだ。不満げな顔をしているロビンには悪いが、しかたない。
「じゃあ、のぞみ。行きましょうか」
「うん!」
 二人は笑顔でお菓子の店へと向かっていった。