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レターズ・オブ・バレンタイン

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レターズ・オブ・バレンタイン
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25)

ツァンダの町で。

御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、
妻の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)とともに、
バレンタインデートを兼ねた買い物へと出かけていた。

ツァンダの町はバレンタインの飾りつけがされ、
ラブソングが流れている。
2人が買いに来たのは、チョコレートケーキの材料だ。
料理を得意としている陽太が、こういう時ばかりは主導権を握る。
「あとは、何を買えばいいのかしら」
「調理用の材料はだいたい揃いましたから、
デコレーション用の材料と、
味付け用のラム酒なんかを買いましょう」
「全部、頭に入ってるの?」
「ええ。一応」
「いつも思うけど、そういうところは感心するわ」
環菜が、陽太を見つめ、感嘆した。
「それほどでもないですよ。
俺は、環菜に喜んでもらえるんだったら、
なんだって覚えますし、
なんだってできるようになるつもりです」
「……いちいちそんなこと言って、恥ずかしいわね」
そう言って、環菜はそっぽを向いた。
頬がわずかに赤く、照れているのがわかる。
陽太は、暖かい気持ちになって、穏やかに微笑んだ。

街中では、同じように、バレンタインを楽しむカップルと
何組かすれ違った。
(みんな、幸せになれますように)
陽太は、心の中で祝福する。
そして、自分の隣にいる、最愛の存在の顔を見る。
「何?」
「なんでもありません」
「なによ、はっきり言いなさい」
「いえ……幸せだなって思っただけです」
「……バカ」
そう言いつつも、環菜はそっと陽太に肩を預けた。
陽太は、それに答えるように、環菜と腕を組む。

ラブソングの流れる、バレンタインの街を、
2人は、恋人同士に戻ったような、
高揚した気持ちで歩いたのだった。

そして、買い物が終わった後は、2人でレストランに入り、軽めの昼食をとる。
「今年は、今までで最高傑作になるんでしょう?
期待しているわよ」
「ええ、もちろんです。
一緒に、がんばりましょうね」
「もちろんよ。私達の計画に失敗は許されないわ」
「ふふ、そうですね」
これからのケーキ作りを想像しながら、楽しい会話をする。

そんな中、ふと、環菜が、街角を見つめながら言う。
「変わったわね。ツァンダの町も。私も」
「ええ、変わりましたね」
陽太はうなずいた。
「あなたも変わったわね。陽太。
……私は、みんな、いい方に変わったと思ってるわ。
あなたはどう思う?」
「俺も、もちろん、よくなったと思ってます。
これから、もっともっと、幸せになりましょう」
「……約束よ」
環菜と陽太は、ランチのシャンパングラスを、小さく重ね合わせた。