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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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第0章 しょっぱなから、種もみの塔最大の試練!?

 種もみの塔上層階。
 面接会場に続くフロアに、その者はいた。
「うふふー、うふふー、みるみちゃーん。ですわー…ふふふふ」
 それは、ユニオンリングでナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)と合体をした、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)であった。
 アルコリアは更に魔鎧のラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を纏っている。
「ヒャッハー! 面接会場はどこだ〜」
「完璧な女装だぜェ! ヒャッハー!」
 女装をしたパラ実生が、階段を駆け下りてそのフロアに訪れた。
 彼らの前に機晶姫の少女が立つ。
「白百合団団員、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)だ。百合園に相応しい人材を査定するための『試練を連れて来た』」
「何だァ?」
「試練だと?」
 立ち止まったパラ実生に、シーマはフロアの中にいるアルコリアを指差して見せる。
「……誰かこいつを倒してくれ」
「可愛い女の子じゃねぇか!」
「ヒャッハー、倒せばいいんだな、押し倒せば〜!」
 パラ実生は気付かなかった。
 ソレが、ドージェの妹なのではないかと言われるほどの女であることに。
 合体した彼女は、ナコトと混ざった姿をしていたから。
「かりかり、もふもふ。みるみちゃん……ですわー」
 アルコリアは、何かをなでなで、すりすりして、幸せそ〜な顔をしていた。
 古王国の祈りにより、彼女の力はぎゅんぎゅん上昇中!
「もぐもぐ……」
 しかし、その何かに歯を立てたアルコリアは気付いてしまう。
「は! これはミルミちゃんちがうお! ちがいますわ! 電気ポットじゃないですか、やだー! ですわ!!」
「電気ポットとミルク間違えるなんて、可愛い女だぜぇ」
「ヒャッハー! 大人しくしてれば、すぐすむからなァ!」
 パラ実生達がアルコリアの元に駆けていく。
「ミルミちゃんをどこにやりやがりましたの!」
 電気ポットだったそれを投げ飛ばすと、アルコリアは迫ってきたパラ実生をぎっと睨みつける。
「しねばいいのに!! ぜんぶおまえらのせいだー! ですわ!」
「へ……?」
 突如、室内にバハムートが現れた。
 そして、サンダーバード、不滅兵団、フレースヴェルグ、ベルゼブブ、リヴァイアサンまでも次々と出現する。
「え? ええ?」
「お、おおおお……」
 ひしめき合う召喚獣を前に、パラ実生は驚くばかり。
「えーとなんでしたっけ? 百合園の何か試験? まぁいいや、オマエらヤれ……ですわー」
 アルコリアが親指で首を掻っ切るサインを出すと、一斉に召喚獣達がパラ実生に襲い掛かる。
「ぐぎゃーーーーー!」
「ぉおおおぉおおおぉおおお!」

 逃げまどうパラ実生。
「んもー、みるみちゃーんおまたせしてごめんなさいですわー……んきゅぅ。うふふ、こんなに固くなっちゃってぇ、ふふふふ」
 アルコリアは近くに置いてあった椅子にがばっと抱き着いた。
 すりすりむぎゅむぎゅ。
 炎が舞ったり、雷が踊ったり。
 銃弾が飛び散ったり、絶叫が響いたり。
 フロアは戦場と化していたが、アルコリアは幸せそ〜に椅子と戯れている。
「大丈夫なのか? 暴走されたら非常に困るんだが……」
 シーマが一応落ち着いているアルコリアを見ながらつぶやいた。
 フロアの状況的に傍目から見れば既にもう暴走後だが、アルコリアに振り回されているシーマからすると、この程度はまだ序の口。普段通りだ。
「シーマ、あんまり心配しなくていいよ。とりあえず、女の子を襲う暴走モードとか、誰某構わず襲い掛かる不安定モードでもないし。安定モード、やや安心」
 鎧として纏われているラズンが言った。
「そうか? それなら大丈夫か……いや、油断禁物だ」
 シーマは部屋に置かれていたクッションや座布団などを集めておく。
 これをミルミ人形だと言って渡せば、もしもの際にも、少しの間はしのげるかもしれない。かもだけど。。

「百合園女学院の実質の支配者と言われているラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)と『話し合い』をしたいのだけれど」
 事態を知ったパラ実生のセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は、ラズィーヤと交渉をするため、面接室へ訪れた。
 ラズィーヤが応じないのなら、単身でラズィーヤに対して武力行使に転ずるつもりでもあった。
「ラズィーヤ様は、いらしていません。百合園の代表でしたら、私ですわ」
 対応に出たのは元白百合団団長。現、百合園役員(理事)補佐の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)だった。
「直接ラズィーヤと話がしたいのだけれど……仕方ないわね。時間もなさそうだし、本題に入らせてもらいます」
 セシルはまず『種もみ女学院(及びパラ実)と百合園の相互不干渉』について、百合園に提案をした。
「お互い一致していますよね?」
「はい。合併のお話を再三お聞きしていまして、私達はそれを諦めていただきたく、参りました」
「試練と称して、うちの子達を虐げている百合園生がいるみたいですけれど?」
「そ、そういわけでは……」
 この部屋にも、アルコリアが起こした戦闘の音は響いてきている。
「すぐに百合園生を退かせてください」
「で、そちらはどうやってパラ実の百合園への不干渉を実行なさるおつもりですか? あなたはキマク家の方でもパラ実の生徒会の方でもありませんわよね?」
「百合園との合併を諦めるように、従わない奴は全力でボコると命令しますわ」
 その言葉に鈴子は首を左右に振る。
「確かに、あなたより弱いパラ実生はそれで従うかもしれません。しかし、一部のパラ実生を力で従わせても、また同じことは起きます。既にヴァイシャリーにもパラ実の分校は無数存在していますわ。恐喝(カツアゲ)をしていく者や、面白い粉を百合園生に売りつける者もいます。それをあなた一人の力で撤退させることができますでしょうか?」
 今回自分達は、パラ実本校やキマク家との交渉に訪れたわけではないのだと。
 困り顔で、鈴子はセシルに言う。
「パラ実本校ではなく、この種もみの塔での交流だけであってもお許しいただけないのでしたら、同じようにヴァイシャリー全てからパラ実分校を撤退させる算段のご提示をお願いできますか?」
「百合園の生徒でも、四天王として大荒野で活動している方がいますよね?
 問題は百合園女学院としての干渉です。ヴァイシャリー家の大荒野への進出は認められませんから」
「百合園から干渉するつもりはありません」
「宦官科なら良いと吹き込んでいるようですけれど?」
「これは他言無用でお願いしますが、パラ実生の皆様に合併を諦めていただくために、無理難題を申し上げているだけです。嘘だと知られたら効果がありませんから、真実味があり、女の子を求めている方々が絶対に応じることができないような案を練り上げてきました」
「ヴァイシャリー家についても、そうだと言えますか?」
「ヴァイシャリー家が大荒野に進出するなどということは考えられません。ただ、シャンバラの政治家としてのヴァイシャリー家の方が、大荒野の開拓を国の議会で提案するかどうかは、私には知りえないことです。私も、あなたも、その相談の舞台に立てる立場ではないですから」
 自分もセシルにも政治的な外交が行える立場ではないと鈴子は話した。
 パラ実生に、相互不干渉を実行させる為には、力でそれを成し遂げるのならドージェ程の力が必要だと。
 いや、ドージェとて、恐怖でパラ実生をまとめていたわけではないのだから、恐怖で諦めさせることは不可能。
 百合園は恐怖を植え付けようとしているわけではなく、様々な手段で説明しても一向に理解してくれないパラ実達に、関わらな方がいいとあらゆる方法で理解してもらおうとしているのだと。
 鈴子は切々とセシルに語った。
 ……が、上から物凄いバトル音と、パラ実生の悲鳴が響いてくるので、説得力はなかった。
「で、あれは止めてくれるのですよね?」
「す、すみません……。今日は安定剤のミルミを連れてくるのを忘れてしまいまして。ですが、シーマさんも一緒ですから、節度は保ってくれると思いますわ」
 と鈴子が言った途端。
『百合園に楯突く塵芥がっ、死ねっ! きゃははっ』
 そんな声が響いてきた。
「……死ねとか言ってますけど」
「……ほ、保健室での、心と体のケア体制も万全ですから……っ」
 ため息をついてセシルは立ち上がる。
 とりあえず、パラ実代表として単身で自らの力を売りにした取引を行う場合、少なくてもアルコリアという鉄壁が紙程度に思える実力が必要なようだ。

 その少し前、アルコリアは――。
「みるみちゃーん」
 椅子をなでなでなでなで。
「隙だらけだ……転ばせば、転ばせば勝ちだ……」
 死んだふりをして這いながら近づいてきたパラ実生が、ナコトと混ざったアルコリアの足に近づいた。
 ブンッ
 しかし突然、アルコリアはすりすりしていた椅子をパラ実生に投げ飛ばす。
「ぐへっ」
「残念、最初から正気ですわ」
 逃げようとしたパラ実生の元にゆっくりと歩み寄り、どことなく虚ろな顔で微笑む。
「ただ、常々疑問なのですよ。私は本気で力を行使してよいのか。望んで……目的をもって強くなった身ではないので」
「目的? んなもんいらねェ! 強ぇヤツは俺らの神になるべきだ! ヒャッハー!」
「ついて行くぜ、ヒャッハー!」
 屍と化していたパラ実生が、アルコリアの強さに惚れて舎弟にしてくれと、迫りだす。
「パラ実に来ねぇってんなら、俺らが百合園に送り迎えだ!」
「舎弟として百合園に連れてってくれぇ!」
「あなた達のような舎弟はいりません。でもですね、戦力重視の『私達』を倒せる人材が居るなら是非百合園についてもらい、貴重な防衛戦力として歓迎したいです」
 アルコリアはゆっくり、パラ実生達に近づく。
 パラ実生達はじりじりと後退を始めた。
「勝てば『力があるから』負ければ『あれだけ修練を努力をしても無駄』」
「ア、アル?」
 呟きながら歩くアルコリアに危機感を覚えてシーマも近づいてくる。
「本気で闘う、相手の息の根止めることを目的として全身全霊をかける、それらを行っていいのか」
 自分は、『自分の目的の為に糧になれ、死ね』に躊躇いを憶える程度に弱い――。
 だけど、今は。
「混ざって自分が自分じゃ無くなってるんです……だから、いいですよね?」
「あ、ダウナーモードはいった、ラズンしーらない、きゃはは☆」
 ラズンがそう言った途端、止めるためにシーマが武器を構えた。瞬間!
 炎の聖霊と死の風とエンドゲームとマジックブラストを喰らってシーマは吹っ飛んだ……。
 勿論意識のあるパラ実生もいない。
「女の子押し倒し放題会場はここかぁ〜」
「そのままもみもみ種種しようぜェ、ヒャ……ッ」
「百合園に楯突く塵芥がっ、死ねっ! きゃははっ」
 新たに現れたパラ実生に、目にもとまらぬ速さの攻撃が繰り出される。
 叫び声を出す暇も、何が起きたのか理解する暇もなく、パラ実生達は倒された。