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そんな、一日。

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そんな、一日。

リアクション



2


 リンス・レイス(りんす・れいす)のことだから、こんないい天気の日でも工房にこもりきりなのだろう。
 そう考えるとなんだか腹立たしく思えて、茅野 菫(ちの・すみれ)パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)を誘って外に出た。
 向かった先は当然工房で、ドアを開け放つと想像通りリンスがいた。作業用机に向かっていて、顔を上げさえしない。
「ちょーっとー。客よ、客。お客さまーぁ」
 わざとらしく声を張ると、慌てた様子でクロエ・レイス(くろえ・れいす)が駆けてきた。……少し、申し訳ない。
「ごめんなさい……って、すみれおねぇちゃん」
「こめんごめん。リンスが顔も上げないから」
「きづいてないんだわ。ほんとうごめんなさい。リーンースー」
 呼びかけ、肩を揺すると顔を上げた。色違いの瞳が、菫を、パビェーダを見る。
「いらっしゃい」
「いらっしゃってたわよ。さっきから」
「……って言っても、来てから一分も経ってないけどね。こんにちは」
 菫の言葉に続いて、パビェーダが苦笑交じりに言った。お、と声が出そうになった。随分自然に話しかけられているじゃないか。
「こんにちは。どうしたの?」
「空が綺麗だったから来ようって、菫が。貴方、こもってばかりいそうだから」
「ご明察。そんなに綺麗なの? 空」
 呆れた。もしや、目が覚めてから一度も外を見ていないのではないだろうか。
 菫の疑わしげな目に気付いてか、リンスが視線を逸らす。ため息。
「外行くわよ!」
「「え」」
 提案に、リンスの声とパビェーダの声が重なった。箒を取り出し、柄を床に打ちつけて音を鳴らす。
「空飛ぶ箒でドライブに」


 箒とは、基本的にタンデムするものではない。
 だから、パビェーダとリンスを乗せた箒は、必然的にゆっくりとした速度で飛ぶことになった。
「大丈夫? 落ちない?」
「ゆっくり走ってる分には平気。たぶん……」
 危うい会話を交わしている横を、菫とクロエを乗せた箒が飛んでいった。大人ふたりを乗せたこちらと違い、身体が小さく体重の軽いあちらはそれなりにスピードを出せるようだ。物怖じしない性格をしていることもあるだろう。
 前に菫が跨り、後ろにクロエが同じように座る。落ちたりしないように腰に手が回されていて。
「貴方は掴まっていなくて平気?」
 振り返って、横座りに乗るリンスへと問う。
「大丈夫。箒掴んでれば案外、バランス取れるから」
「みたいね」
「うん」
「落ちないでね」
「うん」
 散歩と対して変わらないスピードで、ゆっくりと進む。高度はあるため、視界に映るものは普段の景色とかなり違う。
「こんなにも変わるものね」
「空、あんまり飛ばないの」
「飛ぶには飛ぶけど、こんな風に景色を見たりはしないから」
「もったいなかったね」
「そうね。これからはもう少し、ゆっくり飛んでみようかしら」
「うん」
 半ば強引に誘い出した形になったが、リンスはそれなりに楽しんでくれているようだった。
「良かった」
「何が?」
「なんでもないわ」
 他愛もない話を繰り返し、空の散歩はまだ続く。