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2023年ジューンブライド

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リアクション

「アキラ、こちらの下準備は整った。食欲王の妻の手助けもあって『強化人間の戸籍申請』も、抜かりはないぞ。後は当日、どうやってバカ息子を引っ張り出すかだが……」
 数日前のこと。林田 樹(はやしだ・いつき)が、携帯で緒方 章(おがた・あきら)に連絡を取っている。樹の腕の中には、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)がいる。
『あ、それは任せて……とある人を説得してるから』
 章との通話は、そこで切れた。
「ねーたん、お電話終わったれすか?」
 コタローが、樹の下ろした携帯を覗き込む。
「どうやらその辺りの手はずは、アキラが整えてくれるようだな、コタロー」
「こたも、らんちょー(団長)におねまいして、たいの『こしぇき』? 作るよーに、根みゃーししてたんれすお!」
「……お前にも色々頼んですまなかったな」
 そう言って、樹はコタローの頭を撫でた。
「あちょは、たいに『しー』すうんれすおね?」
「そうだ、当日手続き完了まで内緒だ……協力頼むぞ」
「あいれす! ……たい、どんな顔すうんれすかね?」
 樹とコタローは、顔を見合わせた。


「ってことで、僕達の企みに乗ってくれるかな?」
 通話を終えた章は、月谷 要(つきたに・かなめ)に向き直った。
「月谷くんにもメリットはあると思うよほら、事実婚だってずっと悠美香くんと『夫婦』として暮らしてれば、子供も生まれる事になるよね。そんな時に戸籍ってどうするんだろう? ヘタにないと色々困るでしょ?」
「確かに、それはそうだね……婚姻届」
 要は、霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)のことを思い浮かべながら、そう答える。
「……って、このセリフはきっちり自分にも返ってくるんだけどね。お互い、けじめを付けに行ってみないかい?」
「分かった。協力するよ」
 要と章は、頷き合ってその場を別れた。



「えーっと必要な部分書いた、印鑑持った、証人の署名押印は貰った……。よ、よし。これで準備オッケーの筈……だ、だよね?」
「旧姓も書いた、生年月日もOK、申請日の日付は……向こうで書けばいいわね。何かあって、今日出せなかったらこれ使えなくなっちゃうもの」
 要と悠美香は、二人して婚姻届に向き合っていた。
「ある意味、結婚式の時並に緊張する……」
「はいはい、気持ちは分かるけど脚を前に動かさないと。止まってたら胃が痛くなるだけよ?」
 要と悠美香は既に結婚式を済ませていたが、婚姻届の届け出をしていなかったのだ。要たちは今日、役所に婚姻届を出すため出かけることになっていた。

 要たちは、同じく役所に向かう予定の樹と章に合流し、一緒に役所へと向かった。
 役所につくと、要たちは先に書類の申請を行い始めた。
「……申請日の日付、抜けちゃってるわよ?」
「……え。えっ? 日付抜けてる? わ、っわ。わっ」
(やっぱり私がしっかりしてないと……)
 見た目にはあまり出ていないが、ずっと要を見てきた悠美香には、要の緊張がすぐに分かる。あたふたする要を見ながら、悠美香は内心そう思う。悠美香の方は、普段通り至って冷静である。……というのも、ことあるごとにパニクったり緊張でミスしそうな要を見ているうち、悠美香自身は落ちついてきていたのだ。
「んー……っぷあ。あー緊張した」
 書類の確認と申請が終わると、要は大きく伸びをして息をついた。
「はい、お疲れ様」
「あはは、ありがとう。……んー。これで、名実ともに夫婦って訳なんだよねぇ」
「そう言う事になるわね」
 悠美香は要に微笑みかけた。
「……これからもずっと、よろしくね?」
「うん、こちらこそよろしくお願いします」
 二人は、樹たちの元へと向かったのだった。