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 第8章 銃火器ショッピング

 7月中旬、夏真っ盛りの午前中。
 どこに行くのかと声を掛けたのは、ただの彼の気まぐれだった。たまたま傍を通ったからという以上の意味はなく、意識の殆どはノートパソコンの画面に向けられている。
「ベルと待ち合わせてショッピングよぉ。昔から世話になってる武器商人に会うから、一緒にどう? って」
「ベルネッサとショッピング!?」
 だが、それを聞いた途端に湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は立ち上がった。
「行く。ぼ、僕もついてくぞ! ショッピング!」

「ショッピン、グ……?」
 辿り着いた先は、可愛らしい服も靴も雑貨も日用品も何もない場所だった。目の前に並ぶのは、戦闘における服や靴や雑貨や日用品ばかり――そして銃。武器屋だ。
「どうかしたの? 大丈夫?」
 露店を前に愕然とする凶司の顔色を見て、ベルネッサ・ローザフレック(べるねっさ・ろーざふれっく)が声を掛けてくる。
「あ、いえ大丈夫デス。僕も契約者ですからネー、鉄火場も経験してますからネー」
 どこか棒読みカクカクで、内心冷や汗タラタラで凶司は答える。それをどう捉えたのかベルネッサは首を傾げてポニーテールを揺らし、だがとりあえず健康だと判断したらしい。
「? ふぅん? ま、元気ならいいけど」
 そう言って、足取りも軽く武器屋へと近付いていった。
「よぅ、今日も元気そうなオッパイじゃな! かっはっは」
「久しぶりね、クソ爺!」
 頭頂部の毛が確実に寂しくなってきている白髪頭の男が、細く筋肉のついた腕を突き出してくる。その拳と拳をがっつりと突き合わせて猥談に応じると、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)は凶司達を振り返った。50代後半から60代位に見える老人を紹介する。
「ベルは知ってるかもしれないけど、“アンクル”マーク。地球では有名な戦場の商人よぉ」
「名前は聞いたことあるけど、こうして会うのは初めてよ。ベルネッサ・ローザフレックよ、よろしくね」
「ああ、儂もお前さんの名はよく聞いとるよ。なるほど、噂通り良い体しとるのお」
 張りのある胸にしなやかなくびれ。8割方はつい鼻の下を伸ばしてしまうという意味だったが、傭兵として申し分ない、という意味も彼の言葉には含まれている。
「アンクルも、噂通りオープンスケベみたいね」
 固く握手を交わし、“アンクル”マークはセラフに再び目を戻す。
「しかし、ベルネッサと契約とはのぅ……」
「違うわよぉ、クソ爺」
 セラフはからからと笑い、凶司の背をばん、と叩く。
「あたしが契約してるのは、こっちよ」
「ほお? ……まったくもって足りてないのぉ。こんなのと契約したのか」
「ぼ、僕は傭兵ではありませんから……」
 一目で筋肉量を見抜いたのか残念そうな声を出す老人に、凶司は気後れしつつもそう答える。それなりに修羅場も数踏んでいるが基本は学生である彼は、この場の雰囲気にまだ馴染みきれていなかった。

「ほんと、品揃えはいいのよねぇ……」
 居並ぶ武器を見て、呆れたように、同時に感心したようにセラフは言う。これだから、“アンクル”マークとの付き合いはやめられないのだ。彼女は担いでいる大型銃“ベルネッサ”を示して彼に訊ねる。
「コイツの銃身とスライド、ある?」
「おお、今日は本人に会えると聞いて手に入れてきたぞ」
 彼女はベルネッサの愛用銃と同型の銃を使っている。地球の既製品には無い特殊なタイプのため、交換部品を扱っている商人はごく稀だ。予算を優先してそちらにまわし、残った分を消耗品や他の装備に充てる。
「さすがねぇ。あと弾薬をグロス箱で6つと……」
 セラフの注文に、“アンクル”マークは雑談を交えながらも確実に応えていく。取引が進む中、老人はベルネッサにも交換部品を用意する。
「お前さんも同じだな。後、ここに無いもんでも金さえあれば用意してやる。最近はパラミタの武器にも興味があってのぅ。武器屋とのパイプ作りのついでに調達してやろう」
「そうね。それなら対物火器とか欲しいわね。敵の要塞対策とか、足止めの破壊にも使えるしなるべく威力がある……」
 早速というように、ベルネッサは各種軍用武器について色々と語りだす。防弾装備についてなど、セラフも加わって会話は楽しげに盛り上がる。
(わ……話題が出せない!)
 和気藹々とした雰囲気だが実際に飛び交っているのは殺伐とした単語ばかりで、空気気味の現状から脱却しよう、と凶司は頑張って話を聞く。しかし、具体的に何を言えばいいのかがさっぱりだった。だが、“アンクル”マークに話したいことなら徐々に頭の中で形になっていって――
「あ……あの、僕も何か、護身用でも使えるような武器がほしいんですが……」
 そう相談を持ちかけたのは、3人の会話が一通り落ち着いたところだった。
「何だ、何か身に覚えがあるのか?」
「いえ。僕は……まぁ、普段はバックアップ担当なんですけど、丸腰ってのもどうかなと最近思いまして」
 ちらりとベルネッサの横顔を見る。しゃがんでセラフと話す彼女は、楽しそうだ。
「その……最近は戦いも激しくて、前に出る場面も出てくると思うんですよね。無理なら特訓でもなんでもしてみるので……」
 特訓で使えるようになるのなら多少重くても構わない。非力な者でも持てる武器はないか、と、凶司は言った。

 そして帰り道。
「凶司ちゃんが銃を買うなんて意外だったわねぇ。大方、ショッピングモールだと思ってついてきたんでしょ?」
「そうなの? ああ、それで最初顔色が悪かったのね」
 セラフの言葉に、ベルネッサは納得したようだった。続けてセラフが「帰りたかったんじゃないの?」と聞いてくる。セラフへと言うよりは、ベルネッサへ凶司は答えた。
「大丈夫です……あの時はちょっと、面食らっただけで」
「私、あんまり服とかこだわりないからね。あんまりそういうお店行かないのよ」
 さばさばとした口調で、だが申し訳無さそうにベルネッサは言う。
「がっかりした? 凶司ちゃん」
「人に色んな面があるくらい僕だって承知してますし……幻想なんかもってませんよ!」
 からかうようにセラフに聞かれて、憮然としながらも凶司はベルネッサに向けて言う。「そういうのも……全部ひっくるめて好きになっちゃったんですから……」
 ベルネッサを見ると彼女は動揺も無さそうに笑顔のままで、ぼそぼそとしたその小声が聞こえたのかどうか――それを考え、彼は少し体温を上げた。