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第4章 綺麗な色

 シャンバラ宮殿近くの映画館を出ると、外は静まっていた。
 大通りの方からの明かり、そして空から降り注ぐ柔らかな明かり――月の美しさに、遠野 歌菜(とおの・かな)はうっとりと目を細めた。
「真っ直ぐ帰るの勿体ないね」
「どこかに寄っていこうか」
 月を見上げた後、歌菜を見て月崎 羽純(つきざき・はすみ)が言う。
 2人は今日、映画を観に空京を訪れていた。
「うん、それじゃあの店で……」
 歌菜が指差したのは、来る途中、少し気になっていた店。
 大通りの外れにある、若者向けのお洒落なバーだ。
 羽純と2人で向かって、入ろうとしたその時。
「あら?」
 窓から店の中を覗きこんでいる怪しい女性に気付いた。
「中の様子を確かめようとしてるんだろうか……」
 羽純は訝しげに眉を寄せる。
「あの……どうかしましたか?」
 歌菜が控え目に声をかけると。
「うわっ!」
 大げさなほど驚いて、その女性は振り向いた。フードがはらりと落ちて、女性の顔が露わになる。
「うわっ」
 彼女の顔を見て、今度は歌菜が驚いて足を後ろに引いた。
「まさか……セレスティアーナ様?」
 羽純が尋ねると、女性はフードをかぶって首を左右に振る。
「私はそんな大層な名前ではない。ちょっとお忍びででぇとに適した店とやらを調査に来たわけでもない」
「な、なるほど。そうですよね、東シャンバラの代王様なわけないですよね。
 ええ……っと、このお店気になるんですよね? 私達、今から少しお酒を楽しませていただこうと思っているんですけれど、一緒にどうですか?」
「そうか、どうしてもというのなら仕方がない。付き合ってやってもいいぞ」
 歌菜が誘うと、女性――セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)は仕方がないといいつつも、嬉しそうに近づいてきた。
(本物?)
 歌菜と羽純は顔を合せて首をかしげる。
 どちらにしても、不審な行動をさせておくよりも、一緒に中に入った方が彼女の為にもなると納得して、2人はセレスティアーナと共に、店内に入った。

 3人ということもあり、カウンターではなく、テーブル席を案内してもらい、柔らかなソファーに腰かけて、ゆっくりお酒をいただくことにした。
 店内の明かりは、月の光のように穏やかで静かな光だった。
「私、昨年末に二十歳になったので、お酒が飲めるようになったんですけど……イマイチ、まだお酒の味が分からないんですよ」
 歌菜は言いながら、メニューからカクテルを選ぶ。
「カクテルは甘くて美味しいから好き♪」
「甘くて美味しいのか……。でも酒って飲み過ぎると大変なことになるんだろ?」
 セレスティアーナの純粋な問いに、歌菜は「そんなことは……」と言いながら、ちらりと羽純を見て。
「あるかもです」
 恥ずかしげに微笑しながら答えた。
「それじゃ、一杯だけにしておくか。お勧めはどれだ?」
「そうですね……こちらなんてどうでしょう」
 羽純が勧めたのはノンアルコールのカクテルだった。
 彼女が本当に代王なら酔わせるわけにもいかない。
 外見も未成年に見えるし。
「おお、赤くてカッコイイな。それにするぞ!」
「私はトマトとカシスソーダの野菜カクテルにしようっと」
「俺は……これで」
 歌菜はトマトとカシスソーダの野菜カクテル。
 羽純はスカイフィズを頼んだ。

「わぁ……綺麗な色のカクテル」
 届いたカクテルを見て、歌菜は歓喜の声を上げた。
 歌菜のカクテルは、幻想的な赤色で、羽純が頼んだカクテルは、空の色のように綺麗だった。
 セレスティアーナの方は、野菜が添えられたヴァージン・マリー。
 歌菜のカクテルより鮮やかな赤色だった。
「カクテルって…凄くロマンチックというか……大人っぽいというか、見るとドキドキしますよね」
「そうだな!」
 歌菜とセレスティアーナの反応に、思わず羽純はくすっと笑みを漏らす。
「何? 笑わないでよ!」
 ちょっと歌菜が膨れると、羽純は「悪い悪い」と謝罪する。
「歌菜達が……いや、何でもない。気にするな」
 子供っぽい、可愛らしい反応だと感じたことは伏せておき、羽純は微笑んでグラスを手にする。
「まーいいか。それでは、偶然の出会いに乾杯☆」
「乾杯!」
「乾杯」
 グラスを合わせて、それから3人はそれぞれのカクテルを飲み始めた。
「……むっ、甘くない」
 セレスティアーナが首をかしげる。
「それは野菜の甘さを楽しむカクテルだから」
 などと、羽純が言うと納得したようにセレスティアーナは頷く。
「なるほど、大人の味というわけだな!」
(ほとんどトマトジュースだがな)
 羽純は心の中で、そっと息をついた。
「うん、美味しい♪ 最近野菜のカクテルにハマってるんです♪」
 歌菜は甘党の羽純の為に、家でよくカクテルを作っている。
 野菜のカクテルがあると知ったのは最近で、それ以来ハマってしまっていた。
「野菜のカクテル、身体にやさしくて美味しいんですよ」
「体に優しいのか。超オススメだな!」
「ええ。ああこの、フルーツ野菜カクテルっていうのも参考に頼んでみようかな……」
「歌菜、飲みすぎるなよ。あと、飲み方も。一気に飲み過ぎると酔いが回りやすいから気を付けろ」
 羽純が歌菜に注意を促す。
「わかってるよ、羽純くん。ちゃんと酔い潰れたりしないようにセーブします。
 羽純くんこそ、酔いつぶれないように気を付けてね」
「あぁ、俺はちゃんとセーブしてる。
 歌菜が酔っ払っても、ちゃんと連れ帰ってやるさ」
 言って、2人は微笑み合う。
「……仲良しだな!」
 互いを気遣いながらお酒を飲む2人を、セレスティアーナがじーっと見ていた。
「っと、えーと」
 なんだか歌菜は照れながらセレスティアーナに目を向けて。
「今日はどういった理由でこちらにいらしていたんですか?」
「大人はこういうところで、でぇとするらしいからな! 中がどうなってるのか、どんなことをするのか確認のためだ」
「デートする予定があるのですか?」
 歌菜が尋ねると、セレスティアーナは突然真っ赤になった。
「そ、そそそそういうわけじゃないぞ。ただ、今後の参考に庶民のデートがどんなものなのか、気になるというか、ちょっと見て見たかったというか……」
 そしてもごもごしだす。
 なんだかとても可愛らしくて、歌菜は羽純と顔を合せて密かに微笑み合った。

 もう1杯ずつ、カクテルを楽しんで、他愛無い話をして。
「今日はご一緒してくれて、有難うございました!
 お話出来て嬉しかったです」
「良い時間を過ごせました」
 歌菜と羽純が笑顔で礼を言う。
「そうか、それはよかった。今度は、け、けけけ結婚がどういうものなのか、家で2人でどんなことをしているのか、聞かせてくれるとうれしいぞ」
「えっ、は、はい……っ」
 何故か赤くなっているセレスティアーナと歌菜を見て、羽純はちょっと笑いを漏らしてしまう。
 そうして、3人は偶然の出会いを喜び合った後、シャンバラ宮殿の前で別れたのだった。