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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~

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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~
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リアクション

 契約の泉では、他にもさまざまな出し物が展開されている。
 なかなか人気があった出し物に『ケモミミ☆水中コイン落とし』があった。
 この屋台を出したのは、遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)の夫婦だ。
 大人も子供も楽しめるゲームに笑い声が絶えない。
 そして、たった今来た若い夫婦と娘に歌菜がルールの説明を始めた。
「この水槽の底にお皿が見えるよね。このお皿にコインを落として、コインがお皿の中に入った数を競うゲームだよ。コインは必ず水面より上から落としてね」
 歌菜は三人の前にコインが盛られた器を押し出した。
 それからふと、歌菜は妻のお腹が大きいのを見て急いで椅子を運んできた。
「ありがとうございます」
 旦那の御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が妻の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の手を取り、ゆっくりと座らせた。
「もうすぐなの?」
「来年の二月頃よ。初めての子だから、柄にもなく緊張するわね。楽しみでもあるけれど」
 かすかに微笑んで環菜が答える。
 歌菜は環菜に良く似た御神楽 舞花(みかぐら・まいか)を見て尋ねた。
「妹さん?」
「子孫よ」
 未来人ね、と歌菜は納得した。
 舞花はチョウコと一緒に馬車のスタッフとして働いていたが、ちょうど御神楽夫妻が乗ってきたので休憩をもらったのだ。
「陽太様、環菜様、コインをどうぞ」
 舞花は先祖の二人にコインを数枚ずつ手渡した。
「それじゃ、やってみますね」
 最初に陽太がコインを落とした。
 ポチャン、と落ちたコインはゆらゆらと揺れながら水槽の底のお皿にゆっくり沈んでいく。
 御神楽一家が見守る中、コインはお皿の縁に当たって外れた。
「あれ、真上から落としたのに」
「ふむ……では、次は私が挑戦します!」
 舞花はいろいろな角度から水槽を見ると、真剣な表情で摘まんでいたコインを放した。
「ふふっ、これは入りますよ……あれぇ?」
 陽太の時と同じく、やはりコインはお皿近くになると曲がってしまい、外れて落ちた。
「コツを教えようか?」
 と、申し出たのは羽純。
 しかし、環菜がそれを手で制した。
「まだ私が残っているわ。二人のやり方とコインの形、落ちていくのが水中であることから導き出した答えはこうよ」
 環菜はお皿の位置を確認すると、コインを縦にして摘まみ水面と垂直の角度から静かに落とした。
 コインは陽太の舞花の時より安定して落ちていく。
 そして、お皿の内側の縁に当たると、ぱたりと倒れた。
 陽太と舞花が手を打って歓声をあげた。
「正解! さすがだな」
「でも、入る確率は低かったと思うわ。運が良かったのよ」
 羽純が褒めるが、環菜は軽く笑って素っ気なく返した。
「じゃあ、コツがわかったところで三人でがんばれ。制限時間は一分だ。いくぞ」
 羽純が一分間用の砂時計をひっくり返した。
「景品はケモミミのカチューシャとしっぽのアクセサリーだよ。コインの数で動物が決まるからね」
 うきうきと説明する歌菜の頭にはネコミミがあった。見ると、羽純とおそろいだ。
 どんな種類があるのか、と舞花がコイン落としを続けながら興味津々に聞いた。
「私達がつけてる猫に犬、豹、うさぎ、パンダだよ。カラーも選べるから好きなの選んでね」
「うさぎ……パンダもかわいいかな」
 ぶつぶつ言いながら舞花はコインを落とした。
 やがて羽純がゲーム終了を告げた。
 歌菜がお皿を引き上げてコインの枚数を数えていく。
「舞花さんはパンダ! おめでと〜♪」
「ありがとう!」
 舞花は黒のパンダミミとしっぽのセットを選び、さっそくくっつけてみた。
「環菜さんは豹で陽太さんは犬だよ。おめでとう! 学園祭はまだまだ続くから他の出し物も楽しんでいってね」
「はい。ありがとうございます。環菜、せっかくだからつけてみませんか?」
 豹耳カチューシャを手にした陽太に期待の眼差しで見つめられ、環菜は戸惑いを見せた。
「こ、ここで?」
「ええ。きっと似合いますよ」
「……そうかしら」
「つけてあげますね」
 環菜がはっきり嫌がらないのは、学園祭の雰囲気に流されたからか。あるいは陽太や舞花の外出が楽しかったからか。
 環菜の頭にピョコッと豹耳が立ったとたん、何故か陽太と舞花は黙ってしまった。
 環菜は訝しげに二人を見る。
「かわいい……いえ、かっこいい? こういうアイテムはかわいくなるのが定番だと思ってましたが、凛々しいと言いますか……」
 不思議なものを見るような舞花。
「でも、いいですね。こういうのも。俺はかわいいと思います」
 陽太の頭に、様々なコスプレをした環菜の姿が浮かぶ。
 口元が緩んでいたのか、ガツンと脛を蹴られて陽太は我に返った。
 環菜は一見ムスッとしているように見えるが、陽太には照れて何も言えなくなっていることがわかった。
 そっぽを向いたままの環菜が、スッと陽太に手を出す。
 陽太は心得たようにその手を取って、立ち上がる環菜を支えた。
「舞花、あなた分校のほうはどうなの? うまくやれてるの?」
 照れ隠しのように環菜がやや早口に言った。
「はいっ。この前はアルミラージを仲間にしました。あそこの豪奢な家は聖獣アルミラージのおうちなんです。あの時はエリシア様にもご協力いただきました!」
 環菜と陽太は遠くに見えるなかなか素敵な造りの家を見やった。
「種もみ学院では、みんなでいろいろなことを手探りで起ち上げていくのが、とても充実していて楽しいです!」
 舞花もここで、パートナーに会えない人達のために活動している。
「楽しんでいるならいいわ」
「アルミラージ、見ていきますか? それとも、種もみじいさんの屋台に行きますか?」
 こうして舞花は二人をいろいろな企画に案内した。
 仲睦まじい様子で去っていく彼らを、歌菜は微笑んで見送っている。
「良い一家だったな」
「うん。旦那さん、やさしそうだし。……あっ、私には羽純くんが一番だからね。特に今日は耳もしっぽももふもふでかわいいよ!」
「そういう理由か?」
「たまにはいいじゃない」
「まあ、いいけど。終わったら肩でももんでもらおうかな」
「それって、その後で私も肩もみしてもらえるんだよね?」
「……ん?」
 微笑んだ羽純からは、何となく肩もみだけではすまされないような空気が漂っていた。
 歌菜はバシッと羽純の腕を叩き、接客に戻っていった。


 宦官拒否男子やパートナーと音信不通の人達は大丈夫だろうか……。
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)はずっとそのことが気になっていた。
 しかし、キャバクラ喫茶・ゐずみを訪れたとたん、その心配は吹き飛んだ。
「ようこそ! ……あ、オーナーだ」
「オーナー?」
 陽一が招待して連れてきていた高根沢 理子(たかねざわ・りこ)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が驚いたように陽一を見た。
 陽一自身もぽかんとして、彼をオーナーと呼んだスキンヘッドホストを見つめた。
「なに変な顔してんスか? 今日は接待で? ……あっ、代王様達じゃねぇっスか! おい、おめーら! 代王様達のお越しだ! 席を整えろ!」
 何やら大騒ぎになってしまった。
 そこに、天音に送ってもらったジークリンデが合流してきた。
「校長まで!?」
 注目され始め、さすがに理子はホスト達をなだめにかかる。
「あの、ふつうでいいから、ふつうで……」
「はっはっは! くるしゅうない!」
「セレスティアーナ! ややっこしくなるから黙ってて!」
「理子さんの言う通り、ふつうでいいから。それと、オレンジジュース持って来て。あとサンドイッチか何かあればいいな」
「かしこまりました。それでは、こちらのテーブルへどうぞ」
 陽一の注文に少しは落ち着いたのか、スキンヘッドホストは四人を空いた席へ案内した。
 やがて、ジュースのボトルやサンドイッチ、チーズにフルーツなどをキャバ嬢が運んできた。
 セレスティアーナが物珍しそうにキャバ嬢を見ていると、
「私、まりあって言います。セレス様ってお呼びしてもいいですか?」
「う、うむ……」
「まさか、ここでセレス様達にお会いできるとは思ってませんでした。感激です! セレス様、メルアド交換しませんか? セレス様となら全部私持ちでアフターでも同伴でもオッケーですよ!」
 セレスティアーナを押し倒すような勢いで迫るまりあと、のけぞるセレスティアーナ。
「ア、アフターとは何なのだ?」
「さっそく体験してみますか?」
 目をキラキラさせるまりあを陽一がつつく。
「ここは俺がやるから、まりあさんは他のお客様の相手して」
「オーナー、自分だけずるいですよぅ」
「はいはい」
 陽一に軽くあしらわれ、文句を言いながらもまりあは仕事に戻っていった。
「ジークリンデ、同伴とは何のことなのだ?」
 疑問が何一つ解決されなかったセレスティアーナは、三人の中で一番世間を知っていそうなジークリンデに質問していた。
 アフターも同伴もどういうものか知っていたが、セレスティアーナに教えていいものかジークリンデは目で陽一に尋ねた。
「セレス様、いずれわかります」
 陽一は穏やかに微笑んでそう答えると、セレスティアーナの前にオレンジジュースを注いだグラスを差し出した。
 彼女の興味はたちまちそちらに移った。
 陽一はジークリンデにもジュースを差し出すと、映画はどうだったかと聞いた。
「なかなか興味深い内容だったわ。パラ実に分校はいくつかあるけれど、どれも個性的よね。これからどんなふうになっていくのか楽しみだわ」
 何となく他人事に聞こえるのは、彼女が校長職をバイト感覚でやっているからか。
 もちろん、仕事があれば手を抜かずにやるのだが。
 それでも映画を見たことは無駄ではなかったはずだと陽一は思った。
 この前、チョウコは荒野では略奪をしなければ生きていけないと言っていた。
 けれど、もしその通りなら今のキマクはもっと違う姿になっていたのではないかと、陽一は思った。
(国の一番の資源は人だ。大事なのはこれから。俺にできるのは、ここから見える景色をキマクに少しでも広げていけるよう、がんばることだけだ)
「パラ実の校長なんて大変なだけじゃないかと思ってたけど、何だか楽しそうね」
 ジークリンデの表情を見て、理子は安心したように微笑んだ。
 その声に、陽一はいったん思考を止めた。
「理子さん達はどうだった? 学園祭は楽しかった?」
「いろいろ回ったわよ。闘技場でしょ、闘恐竜でしょ……」
「ふふっ。戦闘的なものばかりね。セレスティアーナさんは?」
「仮装コンテストを見たり、コイン落としで遊んだりしたぞ。これが戦利品だ!」
 どうだ、と披露したのはウサギの耳としっぽ。
「付けようとすると恥ずかしがるのよ」
 理子が苦笑する。
「じゃあ、理子さんが付けてみては?」
 悪戯っぽく笑う陽一の提案に、セレスティアーナもジークリンデも賛成した。
 陽一の隣に座っていた理子が、ササッと距離をとる。
「逃げなくてもいいじゃないですか。セレス様、ジークリンデ様」
 陽一が二人の名を呼ぶと、まるで打ち合わせていたかのように二人が理子の両脇について押さえつけた。
「えーっ!? ちょっと、何よこれー!」
「理子、諦めよ」
「諦めるのはセレスティアーナでしょ!」
 騒いでいる間に理子の頭にウサギ耳のカチューシャが付けられた。
「しっぽはベルトタイプなんですね。立って後ろ向いてください」
「陽一……本気ね!? もう、わかったわよっ」
 理子はやけくそ気味に叫ぶと、陽一の手からしっぽを奪い取った。
「似合うじゃない。理子さん、笑顔よ」
「ジークリンデ……。あなた達、今からダンスパーティに付き合いなさい。学園祭終了までの耐久ダンスよ!」
 悪戯した三人は本当に終わりまで踊らされ、次の日にも疲れが残りぐったりだったとか。