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パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

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パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

リアクション

 色とりどりのレーザーを発して会場を賑やかに照らす機械仕掛けのクリスマスツリーを見上げる武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の胸に、何とも言えない落ち着きのなさがあった。
 何と言っても主催者がパラ実生だ。
 カップル参加の人達にいらんちょっかいを出してくるとか、見えないところでカツアゲを仕掛けてくるとか……。
(今のとこ、そういう方面の心配はなさそうだな)
 脱いだり迫ったりと大胆な行動に出ている様子は見られるが、危険という範囲ではない。
「牙竜、お腹でも痛いの?」
 よほど難しい顔をしていたのか、ツリーを見ていたはずのセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が心配そうに牙竜を見上げている。
 何でもない、と牙竜は微笑みかけた。
 それと、もう一つ。今の牙竜の心の大半を占めているもの。
 この特別な日に、特別な人に渡したいものがあり、どうやって渡そうかとずっと考えていた。
「セイニィ、そのドレスとても似合ってる」
「ありがと。パーティだから、いろいろ悩んだよ。牙竜に褒めてもらえたなら合格ね」
「やけに素直だな」
「そういうことは言わなくていいの」
 たちまち口を尖らせるセイニィに、牙竜は苦笑する。
 そして、一歩セイニィに近づくと同時に強引すぎない力で彼女の腰を抱き寄せた。
 牙竜は、驚いて目を丸くするセイニィの頬のラインにそって指先を滑らせると、そっと顎を持ち上げた。
 やさしく、熱く見つめられてセイニィの頬はみるみる赤くなっていった。
「が、牙竜。あの……っ」
「ん? どうかした?」
「何でそんなに、ちか、近い……!」
 照れが極まったセイニィがその果てに拳を握りしめた時、牙竜の手がやんわりと包み込んだ。
 鼻先がくっつきそうなほど二人の距離が縮まり、セイニィはぎゅっと目をつぶる。
 牙竜は小さく笑みを浮かべると、隠し持っていたペンダントを彼女の首に飾った。
 ハッと目を開けたセイニィを、牙竜は愛しさのままに抱きしめた。
「メリークリスマス、セイニィ」
 耳元で囁けば、牙竜の腕の中でセイニィが小さく震えたのがわかった。
「牙竜……あなた、紛らわしいのよ!」
 どーんと突き飛ばされる牙竜。
「うっ。す、すごい衝撃が……」
「あっ、ご、ごめん。でも、牙竜も悪いんだからねっ。あんな、あんなことされたら、まさかって思うでしょ! 思うわよね!?」
「わ、悪い。驚かせたな」
 突き飛ばされたかと思えば詰め寄られ、牙竜はセイニィに落ち着いてもらおうと手を取る。
「ふつうに渡すのも悪くないと思ったが……クリスマスだからな。とはいえ、さすがにこんな邪魔がいつ入るかわからない場所ではな。けど、セイニィが望むなら……」
「い、いいわよ別に! そうよね、周りは人がいっぱいだし」
 場所を思い出した焦りと、期待への肩すかしとでセイニィはどんな顔をしていいのかわからなくなっていた。
 牙竜はそんなセイニィの頭を撫で、悪戯っぽく笑う。
「二人っきりで過ごす時は、遠慮はしないぜ」
「あ、あたしだって。牙竜こそ覚悟しなさいよ」
 それと、とセイニィは胸元のペンダントに触れる。
 牙竜が贈ったのはピンクダイヤモンドのペンダントで、繊細な和風のデザインの作りが輝きを引き立たせていた。
「素敵なペンダントね。ありがとう! 大事にするわ。あたしも持ってきたの。これを……あれ?」
 バッグを開けようとしたセイニィは、外側のポケットにカードが挿しこまれていることに気づく。
 引き抜くと、そこには、
『愛しの君とこれから先のクリスマスも一緒に過ごしたい』
 と書かれてあった。
 顔を上げたセイニィに、牙竜は微笑みを返す。
「もう、今日はびっくりだらけだわ。あなたって実はすっごい悪戯っ子?」
「さぁ、どうだろう」
「と、とにかく。あたしからのプレゼントはこれ。返品はきかないからね」
 牙竜が渡された包みを開けると、中には髪紐が入っていた。
「ありがとう、とても嬉しいよ」
 セイニィと想いが通じ合ったのにいまいち現実感がなく夢心地だった牙竜だが、今ようやく現実のものとして彼女を感じることができたのだった。


「ツリー型のミラーボールみたいだね」
 と、眩しい電飾とレーザーをひっきりなしに発するド派手なクリスマスツリーを見上げ、南條 琴乃(なんじょう・ことの)がにっこり笑う。
 彼女自身も色とりどりに照らされていた。
 そして、琴乃のたとえに南條 託(なんじょう・たく)も頷く。
「ミラーボールか、なるほどねぇ。でもこれ、どう使うんだろう?」
「一応ツリーなんだよね? ほら、よく見るとオーナメントが光ってるんだよ」
「あ、本当だ。地球のクリスマスとはだいぶ違うよねぇ。パラ実だとこうなるのか……」
 ここだけが特殊なのかもしれないけど、と託は付け加えた。
 それから託は青い星飾りを取り出すと、光るオーナメントの横に飾った。
 隣の輝きを受け、青い星は不思議な色合いになる。
 琴乃がそれを見て小さく歓声をあげた。
「宝石みたい! これを見つけた人、ちょっとラッキーだよね」
「そう思ってくれるといいけど」
「託、向こうにもツリーがあるよ。ふつうっぽいの」
 琴乃が指すほうへ行くと、たしかにふつうっぽいツリーだった。
 だが、間近で見るとまったくそんなことはなかった。
「なかなか立派なツリーだと思ってたけど……これ、ケーキだ。大元はウェディングケーキかなぁ」
「そうだね。いいなぁ、かわいいなぁ! ねぇ、ナイフあるし切って食べようよ。託はどこがいい?」
 ウキウキと聞いてくる琴乃をかわいいなと思いつつ、託は二人分の皿を取った。
「ツリーのイメージだから、全体的に緑だね。何の色かな、メロンかなキウイかな抹茶かな」
「パセリかもしれないよ」
「……」
 ケーキにナイフを差し込もうとしていた琴乃の手がピタッと止まり、うらめしそうな目が託に向けられる。
「そんなわけないでしょ、冗談だよ」
「もう、そういうこと言うと何の飾りもないとこ切っちゃうよ」
「あ、待って。僕、そこがいいなぁ。チョコレートっぽいところ」
「えっ、私が狙ってたのに!」
「早い者勝ちだよねぇ」
「ナ、ナイフを持ってるのは私だもん」
 こんなふうに二人は止まないおしゃべりをしながらケーキを取り分け、のんびりテーブルに向かった。
 席に着くと、ミニスカサンタ服のスタッフ(武尊)がシャンパンとグラスを運んできた。
『ごゆっくりですのん』
 そう書かれたボードを掲げて微笑み、一礼して去っていった。
 託がシャンパンボトルを手に取り、ポンッとコルク栓を飛ばす。
 二人分のグラスを満たすとどちらからともなく、
「メリークリスマス」
 と、グラスを合わせた。
「ん〜っ、おいしい! さぁて、ケーキはどんな味かなー?」
 琴乃は大胆にケーキを切り分けると、ぱくっと口に入れた。
 とたん、幸せが顔中に広がる。
「おいしい、おいしいよ託! 託も食べてみて!」
「うん、それじゃあいただきます」
 ふんわりとチョコの甘さが託の舌を幸せにしていった。
「ふふっ、すごく幸せそう」
「琴乃も同じ顔してたよ」
「しょうがないよ、おいしかったもん」
 二人はあっという間にケーキを食べ終えてしまった。
 ケーキの後の紅茶を飲んで、今度はゆったりした時間を過ごしていた時だ。
「シャンパン飲んだからかな、ぽかぽかしてきた」
「う〜ん、私はぽかぽかどころじゃなく暑いよ……ちょっと脱ぐね」
 琴乃はセーターを脱いだ。
 さらにベストを脱いだ。
 続いてブラウスを……。
「わー! ストップストップ! それ以上はダメだって!」
 ふだんのんびりしている託も、この時は素早かった。
 椅子を蹴立てて琴乃の傍に移動すると、ブラウスのボタンを外そうとする手を押さえる。
「でも暑いんだよ〜。熱中症になっちゃうよ〜」
「な、ならないよ。琴乃、それ以上脱いだら裸をさらすようなものだよ!? ダメ、絶対ダメ」
「あーつーいー」
「ダーメー」
 二人の攻防はまだまだ続きそうだった。


 パーティ会場に来たとたん、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は「ああ、これだ」と思った。
 おしゃれでもなく厳かでもなく、富裕層っぽくもなければ貧乏くさくもない。
「このテキトーさ! アディ、私達もこのテキトーさに埋もれるわよ」
 と、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)を振り向くと、彼女の視線はさゆみの手に注がれていた。
「それ、天津甘栗に見えるのですが……」
「正真正銘、天津甘栗よ」
 さゆみのきっぱりとした答えに、アデリーヌは戸惑いを隠せない。
「何故それを?」
「本当は胡桃にしたかったの」
「それもまた、よくわかりませんわね」
「クリスマス→クルシミマス→胡桃、というわけで胡桃。でも手に入らなかったから、クリ繋がりでこれになったの」
「……」
「ちょっと、目をそらさないでよ。私だって意味不明だなって思ってるし、コケたなって……いいじゃない、お笑い芸人じゃないんだし……」
 ぐすん、とわざとらしくいじけてみせると、アデリーヌから生ぬるい笑みを向けられた。
 恥ずかしかった天津甘栗をケーキのツリーにさりげなく飾りつけ、さゆみは素知らぬ顔で二人分を皿に切り分けた。
 テーブルに向かう途中ですれ違う種もみ生達とクリスマスの挨拶を交わすと、席に着く頃にはクラッカーの紙テープなどが頭の上に積もっていた。
「メリークリスマス、アディ」
「メリークリスマス、さゆみ」
 シャンパンを注いだグラスが澄んだ音を鳴らした。
「またしばらく、忙しい日々が続きますわね。がんばりましょう」
「よろしくね」
 アイドルとして活動している二人は、この後あちこちのイベント会場へ行くことになっている。
 クリスマスシーズンから大晦日まで、休む間もない。
 だからこそ、このパーティを楽しく過ごしたかったのだ。
「この飴細工、パリパリしてるのね。固いと思ってたのに」
「こちらはリンゴがたっぷりのケーキですわ。シナモンがよく効いていていい香りです」
「おいしそう〜。一口ちょうだい。私のもあげるから」
 ケーキのツリーは場所によっていろんな種類に分かれていた。
 二人は一口分のケーキをフォークに刺すと、相手の口元に差し出した。
「このケーキ、若葉分校の人が作ったのよね。おいしいわね。おいしすぎて何だか暑くなってきちゃったわ」
「さゆみ……?」
 やや意味のわからないことを言った恋人を、アデリーヌは心配した。
「暑いっていうか、熱い? 体の内側からほてってる感じ。シャンパンのアルコール度数どれくらいだったの?」
「ふつうですわよ。そんなに暑いなら、上着を脱いではどうですか?」
 そうするわ、とさゆみはパーカーを脱いだ。
 しかし、暑さはちっとも変わらない。
 何やら頭もぼーっとする。
 気づけばTシャツも脱いでいた。
「さゆみ! それはいけませんわ!」
「そんなこと言っても、服なんか着てられないのよ〜」
 いきなり脱ぎだしたさゆみを、通りすがりのパラ実生がニヤニヤしながら眺めていく。
 アデリーヌはそんな視線からさゆみを隠さなくてはと、パーカーを拾って羽織らせようとした。
 ところが、逆に手を取られ、それどころかテーブルの上に仰向けに組み敷かれてしまった。
 野次馬達のひやかしもさゆみの耳には届いていないようだ。
「さ、さゆみ……っ」
「ふふふ。アディ、逃がさないわよ……」
 さゆみの手がアデリーヌの頬を包む。
 妖艶な笑みを浮かべたさゆみの顔がゆっくり近づいてきた。
 何とかしたいのに、アデリーヌはキスを受け入れるように目を閉じてしまう。
 直後、アデリーヌは体全体にさゆみの体温を感じた。
「さゆみ、いくら何でも……! え……さゆみ?」
 自分に覆いかぶさっているさゆみから聞こえてくるのは、健やかな寝息。
「眠って……しまいましたの?」
 反応はない。
 アデリーヌの全身から力が抜けていった。
 見入っていた野次馬達からも力が抜けたため息がこぼれた。
「あなたという人は……」
 長い長いため息を吐いたアデリーヌの目に、星のまたたきが映った。