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はっぴーめりーくりすます。4

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22


 用意したケーキはガレット・デ・ロワ。
 上部中央には、魔女サンタのマジパン。
 粉砂糖を振って雪景色に見立てた大地で、ひとりきり。
「なァに、寂しい感じのものを作ったのねェ」
 マナ・マクリルナーン(まな・まくりるなーん)が用意したケーキを見るなり、魔女――ディリアーはそう呟いた。マナは、表情を崩さないまま給仕を続ける。
 テーブルの上の燭台に火をともし、この空間の明かりを抑えてもらうと、途端に神秘的な雰囲気になった。雰囲気も大事なファクターなので、疎かにしてはいけない。
 椅子に座り、ゆったりと脚を組んだディリアーは、マナの動きをじっと見ている。マナは、執事として培ってきた所作でケーキを切り分け、ディリアーの前の皿に移した。
「さあどうぞ、召し上がれ」
 自分の前にも、ひと切れ分。マナも席についたところで、ディリアーがフォークを手に取った。そして、一刺し。動きが止まる。
「まァ、アナタのことだから何か仕込んでいると思ったけど」
 ゆったりと持ち上げられたフォークには、仕込んでおいたマナのマジパンが刺さっていた。
「こうなるから、中に人型を仕込むのはオススメできないわねェ」
「おや。私はてっきり、意趣返しかと」
「こんな趣味の悪い意趣返しなんてしないわよォー縁起でもない」
 ディリアーは口を開けると、一口でその人形を飲み込んだ。これはこれは魔女様、大胆で。
「何はともあれ、当たりです。今日の一日主役であらせられる王女様ならぬ魔女様、何かご要望はございますか? コーヒー紅茶、できうる限りのお酒でも、いくらどれほどでもご用意しておりますので」
「1992年産スクリーミング・イーグルでも?」
「最高峰のものは、さすがに。けれど貴方が望むなら手に入れて参りましょう」
「いいわ、別にィ。お酒、そんなに興味ないもの」
「然様で。では何になさいますか?」
 ディリアーは、マナの問いに視線を逸らした。考えているらしい。フォークがふらふらと動くのが、なんだか子供っぽくて新鮮だ。
「そうねェ。別に、思いつかないわねェ」
「何も?」
「なァんにもォ。長く生きてると、望みなんてなくなるのよ」
「そうですか……」
「でもそれじゃあまりに味気ないから、こうしましょうか。『来年も、一緒にこうして過ごすこと』。これでどォ?」
「それは……望みでもなんでもありませんね」
 だって、そうするに決まっているのだから。マナが笑うと、ディリアーも妖艶に笑った。
「何も言わないよりはマシでしょォ? それとも一生仕えなさいとでも言えば良かったかしら」
「そちらの方が、応え甲斐がありそうですね」
「冗談やめてよ」
 無論、本気なのだが。
 マナは黙って、空になったティーカップに紅茶のお代わりを注いだ。それから、思い出したように「そうそう」と声を上げる。
「当たった方は来年、他の方に同じものを配る風習があるらしいですよ」
「アナタ、それが言いたかっただけでしょう」
「まさか、とんでもない。今、思い出しました」
 飄々と言ってのけると、魔女は「曲者」と笑って残りのケーキを食べるのだった。