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はっぴーめりーくりすます。4

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はっぴーめりーくりすます。4
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リアクション



5


 白波 舞(しらなみ・まい)に、みんなでケーキを食べに行こうと誘われた。
「せっかくクリスマスなんだしさ、パーティだけじゃなくデートだってしたいじゃない?」
「それはそうだけど。でも、私たちがいるとふたりの邪魔にならない?」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)は、ちらりと龍堂 悠里(りゅうどう・ゆうり)に視線を向ける。恋仲であるふたりのデートに、自分とカイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)がいてもいいのだろうか。
「いいのいいの。ふたりでのデートは普段からしてるから。ね、悠里」
「ああ。気にしなくていい」
 と、当事者であるふたりにそう言われてしまえばこれ以上二の足を踏む意味もない。それに、舞が誘ってくれたケーキ屋は以前から理沙も気になっていたところだ。邪魔だとかそんなことは考えず、ただ楽しく過ごしてもいいのかもしれない。
「そうね。じゃあ、みんなで行きましょうか」


 『Sweet Illusion』の扉を潜ると、中はかなりの盛況だった。
「店内混み合っておりますのでお先にお席の確保をどうぞー」
 という店員の声に、カイルはざっと店内を見回す。窓際にある、四人掛けのテーブル席が空いていた。席に荷物を置くと、舞が言った。
「私と悠里が鞄見てるから、ふたりは先に注文してきなよ」
 にっこりと笑う舞を見て、ああ、とカイルは苦笑した。今日のダブルデート企画といい、こうしてちょくちょくふたりきりにさせようという意図といい、随分と心配されているらしい。
「行こうか」
「ええ」
 テイクアウト待ちの客に混じって並ぶ。並んでいる最中に頼むケーキを決めたが、理沙はなかなか決まらないようだ。
「目移りしちゃうわねー……あっ、あれも美味しそう……」
 等呟いて、ショーケースの中を目を輝かせて覗いている。
「せめて二択にしろ」
「二択? どうして?」
「そうしたら、俺がひとつ頼むから。半分こすればいいだろ」
「なるほど。じゃあね……これとこれ。でも、いいの?」
「いいよ」
 理沙が喜ぶなら、というセリフは飲み込んで、注文を済ませる。商品の乗ったトレイを持ってテーブルに戻り、舞と悠里が買いに行くのを見送った。
 ほどなくしてふたりも戻ってきて、そこでいただきますと手を合わせる。
「じゃあ、半分な」
「ありがと。私のも半分どうぞ」
「どうも」
 早速分けていると、舞が小さく笑いながらこちらを見ていることに気が付いた。なんだよ、と視線で訴えかけると、「仲良いね」と再び笑う。
「理沙が食べたいケーキにしてあげたり、なんだかんだ気が利くよねーカイルって」
「確かに。でもカイル、本当によかったの? 自分が食べたかったやつとか、なかった?」
「偶然、理沙が食べたかったケーキと同じだった」
 嘘だけど。
「そう? なら、良かったわ」
 理沙は、無邪気に言葉を信じている。悠里がこちらを見て、苦笑するように笑った。
「それにしてもここのケーキ美味しいわね。どうやって作っているのかしら。私もケーキ作るけど、こんなに美味しく作れないわ」
「私は理沙のケーキ、好きだけどね。ねえ、また今度、ケーキ作ってよ」
「いいわよ」
「やった。じゃあ、こんな風に四人でお茶しようね」
 舞は巧みに理沙を誘い、またこういう機会を設けようとしてくれている。それが少し、申し訳なくも思えた。
 彼女はカイルの恋を応援してくれているけれど、当のカイルに積極性がないのだ。否、ないと言うと語弊がある。なくはない。理沙のことは好きだし、理沙とずっと一緒にいられたらいいと思う。
 けれど、理沙が好きなのは自分ではないのだ。
 自分の気持ちを押し通すつもりはなかった。理沙が幸せなら、それでいいとも思っていた。
 だから、理沙が誰を想っていても、それを支えていければと。
 そう思う自分のことを、舞や悠里はどう思っているのだろうか。ふと、そんなことを考えた。
 チョコレートケーキが、何故だか苦く感じられた。