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■赤城 花音とリュート・アコーディアの場合


 5月某日、赤城 花音(あかぎ・かのん)は地球の日本にある超有名テーマパークにリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)と来ていた。
 テーマパークで遊ぶだけならパラミタにもデスティニーランドという立派なテーマパークがあるし、そこでも十分楽しめると思うのだが、やっぱり元祖というか、本腰入れて遊ぶなら断然こっちがいいと思ったからだ。
「やっはー! やっぱ、テンション上がるなあっ!」
 門をくぐって早々、いかにもな夢の国の光景が広がっているのを見て、花音はハイテンションで喜ぶ。そのまま駆け出して行きかけて、ふと気づいたように振り返った。
「早く早く、リュート! 急がないとみんなに先越されちゃうよ!」
「あ、はい」
 リュートは遅れて返事をすると、小走りに花音の元へ寄った。
 そのまま並んで歩く。
「どうかしたの? なんか、朝からおかしいよ?」
「え? そう、ですか?」
「うん。上の空っていうか、心ここにあらずって感じ」
 目深にかぶった帽子の下から、カラーコンタクトをつけた瞳がリュートを見上げる。リュートは一瞬言葉に詰まり、何か言いたそうに唇を動かしたが、すぐ考えを変えたように首を振って見せた。
「いえ、何でもありません」
「そう?」
「はい」
(やっぱりここじゃなくて、予定していた場所で話しましょう。きちんと、手順を踏んで)
 そう思い直したリュートに花音は気づいていないようで、「分かった」とうなずくと見えてきた一番人気のアトラクションへと率先して向かう。
「早く並ばないと、2時間待ちになっちゃう! 急ごうリュート」
「はい」
 そうやって、先のやり取りはもう忘れたふうを装って前を走りながらも、花音は口元がにやけるのを抑えることができなかった。
(やっぱ、そういうことなのかなぁ)
 なんとなく、そうじゃないかって予感は前からしていたけれど、さっきのリュートの見せた様子で、花音のなかでそれが確信へと変わっていた。
(もう答えは決まってるんだけどねっ。
 ふふっ。そっかぁ。いよいよなんだ。どこで、どんな風に言ってくれるのかな。とっても楽しみ ♪ )
 それから花音とリュートは園内デートにいそしんだ。
 到底1日で全部は堪能しきれないのは分かっていたから、前もってこれだけは絶対はずせないと絞ってあったアトラクションを順に巡っていく。
 リュートは相変わらず話せない予定を気にしてか、ときどきぼんやりしていることに花音は気づいたけれど、あえて気づかないフリをして、夕方までの時間を遊びきった。
 園内のショップで購入したお土産を両手に下げて、紙袋をガサガサいわせながら宿泊しているホテルへ戻る。
 出口から出たらすぐそこにある、園と隣接する豪華なホテルだ。昼間出てきたときと違って夜のライティングをされた外観は、昼間はかわいいトピアリーを幻想的に見せている。
 内装も上から下まで豪華絢爛、借りた部屋など、シングルなのにどこの貴族の部屋? という感じだ。
 これはディナーは気張らなくてはなるまい。
「エスコートするリュートに恥をかかせちゃいけないもんね!」
 花音は奮起し、持ってきていた服のなかからドレスを引っ張り出すと、化粧ポーチとともにバスルームにこもった。
「花音、時間です。そろそろ向かいましょう」
 コンコンとドアをノックして、迎えに来たリュートの声がする。
「はーい」
 はたして、ドアを開けて出てきた花音の姿に、リュートは絶句した。
「……花音、ですよね……?」
「うん。ボクだよ?」
 花音は意味が分からないというふうに、きょとんとしてリュートを見上げる。
「ボク、どこか変?」
「いえっ、そんなことは! ……あの、すごくきれいです……」
 リュートは熱くなったほおを隠すように手をあてると、さりげなく腕を出した。
「じゃあ、行きましょうか……」
「うん」
 2人は腕を組み、予約済みのホテルのディナーへ向かった。


 2人の割り当てられた席は、ライトアップされた美しい庭がよく見える場所だった。
 緑の芝生に覆われ、人工の川が流れている。
 その規模は庭というより庭園という言葉がふさわしく、ひと目でここがこのホテルの最大の売りだと分かる。
「きれい……」
「あとで歩いてみますか?」
 あまりの美しさに心を奪われたように見惚れている花音を見て、リュートが提案をした。
「え? 出られるの?」
 目立たないが、庭は柵で囲まれている。荒らし防止のためだろう。
「入れますよ、ホテルの宿泊者限定ですが。部屋のカードキーが使えるそうです」
「あ、そうなんだ。
 じゃあこのあといい?」
「はい」
 にっこり笑ってリュートは応じた。


 食事を終えた2人は連れ立って庭園へと下りる。
 食事中は気づかなかったが、木がわりと植えられていて、ホテルからの目隠しの役割をしている場所が結構あった。
「あ、なんだか滝みたいな音がするよ?」
 柵を抜けてすぐ、花音はその音に気づいた。
 誘われるまま、音をたどってそちらへ向かう。もちろん自然の滝ではなく、こじんまりとした人工の滝だ。しかしここも効果的にライトアップされていて、さらさらと流れる川の水音が耳に心地よく、ロマンチックな場所だった。
 ここだと、リュートは思う。
 だから、前を歩いていた花音を呼び止め、振り向かせた。
「花音」
「なに?」
「花音、僕と結婚してください」
 正面に立つ花音の手をとって言う。
「……思えば……僕は、パートナとして契約する時から花音に魅かれていたのかもしれません。当時は……僕に恋愛感情を意識する余裕はなかったのですが……」
「今はあるの?」
 花音の言葉に、リュートはやわらかな笑みを浮かべる。
「今ですか。今は……あなたのことをとても愛おしく思います。
 花音のどんなときも前向きで明るい性格と、向日葵を思わせる笑顔は、いつでも……僕の心の支えです。
 これからの人生を、ともに夫婦として……過ごして行くことが……僕の幸せです。
 どうか僕と結婚してください」
 真摯で誠実な言葉だった。
 彼の真心が静かに胸に染み入ってくる。
「……うん。ボクの旦那さまは、リュートしかいないよ」
 花音は笑顔で答えた。
「思えば……リュートって、女性的な感じがあって、男性として意識するには時間がかかったんだよね。でも、生真面目な几帳面さで……僕を影から……ずっと支えてくれていたことに感謝もしている。
 本当にありがとね ☆ ♪」
「花音……」
「ボクはリュートの穏やかで優しい性格が好き! 断る理由はないよ! むしろ……とても嬉しいよ ♪ 」
 へへっと照れ隠しで笑う。
 光がはじけるような花音の心からの言葉に、リュートはだんだんと緊張を解くと、静かにほほ笑んだ。
「よろしく、お願いいたします」


「あ……あー、なんだか緊張しちゃうなっ。おかしいね、これっ」
 つないだ手を意識しながらホテルへと戻る。
 これまで手をつないだことがないわけじゃないけど、そのときは婚約者の関係じゃなかったし。
 ちょっとおどけて言うことでこの妙なモヤモヤを払しょくしようとしている花音に、柵を開いたリュートはくすりと笑った。
「明日は……花音のご両親に、きちんと報告いたしましょうね」
「あ、うん」
 そういえば、行く予定だった。せっかく地球に帰ったんだからと、実家に顔を見せに行くつもりはしていたんだけれど、リュートはそれも見越していたのか。
「僕としては……そちらの方が緊張します。
 うまく了承を得られれば良いのですが……」
「大丈夫だよ! リュートなら、反対に喜んでもらえるから!」
 前に出した手紙にそれとなく書いてるなんていうことは、リュートには内緒だ。
「そう、でしょうか……」
「うん、絶対」
 胸を張って、柵を押さえてくれているリュートの前を横切って抜ける。
 すれ違いざま、その耳元にリュートがこそっとささやいた。
「あとで……花音の部屋を訪ねても……よろしいでしょうか」
「いいけど?」
「そのまま、朝までともに。夜戦と行きましょう」
 瞬間、リュートの言っている意味が花音にも分かって、ボッと肩まで赤く染まる。
「……や、夜戦……て」
 聞きなれない言葉だが、彼独特の古風な言い回しなのだろう。
 うつむき、しばらく黙り込んだのち、小さく答えた。
「…………う、うん……」
 それから部屋に着くまで、花音はどうしても顔を上げることができなかった。

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 参加者の皆さん、たくさんのお砂糖ラブラブをありがとうございました!
 もうおなかいっぱい、けぷーっと大満足、の状態です。
 いやあ、ラブラブって、本当にいいですよね!

 蒼空のフロンティアもカウントダウンが始まってしまっているようですが、できればもう1本、恋愛シナリオを出せたらと思っています。
 そのときは、またぜひ寺岡を砂糖の山で埋め尽くさんばかりのアクションをいただければと思います。
 よろしくお願いいたします。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回作はすでに決まっていますのは皆さんもご承知かと思いますが、その次の話で、またいろいろと構想を練っております。
 ぜひそちらでもお会いできましたなら幸いです。

 それでは。また。