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真紅の花嫁衣裳

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真紅の花嫁衣裳
真紅の花嫁衣裳 真紅の花嫁衣裳

リアクション

「パーティだーめしだーたべるぞー」
 5歳児と化した吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は料理につられてパーティ会場に訪れていた。
 タキシードとウエディングドレスを纏った男女がいたため、結婚式後のパーティであることは理解していた。
「おかしがおおいなー。うまいぞー!」
 タダで食べられるということなので、竜司は張り切ってグラタンやケーキやフルーツをぱくぱく美味しそうに食べていく。
「けっこんしきかー。オレのはどんなかんじになるんだろーなー、ふへへ」
 竜司の脳裏に浮かんだのは、幼児化状態の自分と、脳内婚約者の神楽崎優子の姿だった。
 随分前の冬に、幼児と化した優子が竜司に言った『おヨネさん、してもらう』という誓いの言葉?は、彼の幼い心に深く刻まれていた。
「そのまえに、モデルってやつも、やってやってもよかったんだけどなー、うへへ」
 びしっとした幼児用タキシードを着た自分の隣で、花嫁衣裳を着て「おヨネさん、うれしい」と喜んでいる幼児優子の姿を思い浮かべ、竜司の顔がにやけていく。
「けど、きょーは、あっちのはなよめたちのパーティだからなー、おいわいしてやんねーとなー」
 言いながら、竜司はあれもこれも、テーブルにあるもの全種類、自らの口に運んでいった。
「そうですね、お祝いいたしましょう」
 エリシアは引率者としてパーティに参加し、竜司や子供達を側で見守っていた。
 遠くに見える花婿と花嫁を見ていると……何故か、とある二人の婚約式が思い浮かんだ。

「なんなの、あの子〜〜〜〜〜〜ッ」
 ヴァルキリーのモニカ・フレッディは激怒していた。
 外見年齢20歳くらいの自分を『おばちゃん』と呼んだ女の子がいたのだ。
 いうことは聞かないし、落ち着きはないし。
 ようやく捕まえて説教を始めたら、寝るし。
「体罰の必要性を感じたわ!」
「モニカ……保母さんとかなれないかもね」
 モニカをボランティアに誘った小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が苦笑する。
 まあ、彼女の気持ちが分かるほど、手を焼く子がいるのも本当だ。
「ほら、走ったら危ないよ」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、走り出した子供の肩を押さえて止めて微笑みかけた。
 優しいコハクはおにーちゃんと呼ばれ、子供達に慕われている。
「はなよめさんたちに、ぷれぜんとするの!」
 その子は、おしぼり作った花を持っていた。
「とっても上手だね。花嫁さん、喜んでくれるといいね。一緒に行こう」
 コハクはその子の手を引いて、新婚さんの席に歩いた。
 美羽とモニカも後に続き、新婚さんに近づく。
「……ん?」
 花嫁の顔を見て、美羽が眉を寄せる。
「どこかでみたことが……あっ!」
 美羽の脳裏に浮かんだのは、ダークレッドホールの先にあった世界だった。
 花嫁は、そこで負傷して意識を失っていた女性――そう、化粧で顔の印象を変えた御堂晴海だ。
「晴海……」
 モニカも気づいたようだった。
「結婚、したんだね」
 美羽はモニカと顔を合わせると、晴海に近づいた。
「はい、おねーちゃん、おめでとー」
「ありがとう。かわいいお花ね」
 晴海は子供が作ってくれたおしぼりの花を受け取り、子供の頭を撫でた。
 子供は嬉しそうに笑って、得意げな表情で自分の席に戻っていった。
「おめでとう! ……お幸せにね」
 美羽の声に晴海は顔を上げて驚いた。
「あ……あの……」
「大丈夫、わかってる」
 晴海だということがわかってる。
 2人だけで隠れるように結婚式をしたということは、何か事情があるということも分かっている。
 だから、2人の名前は出さずに、美羽は2人を祝福した。
「色々とあったけど……もう、あなたは許されてもいいと思うんだ」
 コハクは小さな声でそう言って、微笑んで。
「おめでとう」
 晴海とレストの結婚を心から祝福した。
「おめでとう、綺麗よ。偶然、あなたの花嫁姿が見られるなんて、私ついてるわ」
 モニカもにこっと晴海に笑みを見せる。
「あ、りがとう、ございます」
 晴海は3人を見回して、深く頭を下げた。
 隣に座っていたレストも、無言で美羽達に頭を下げる。
「えへへ……実は私たちも6月に結婚したばかりなんだよ」
 言って、美羽はコハクと顔を合わせる。
「そうなのですか。とってもお似合いです。幸せになってくださいね」
「勿論! 幸せだし、これからも幸せでいるつもり。あなたも、ね」
 美羽の言葉に、晴海は軽く戸惑いの表情を見せた。
「自分のことを許してもいいんだよ」
 そんな晴海に、コハクが優しく声をかけた。
「ありがとう、ございます。
 私は、彼を幸せにしたいです。それが私の幸せです」
 晴海は切なげにレストを見た。
 レストは晴海の肩に腕を回して引き寄せて、少しの間彼女を軽く抱きしめていた。
 訪れていた人達から、祝福の声があがり、2人はそれに応えるために顔を上げて、笑みを見せた。
(まだ、色々抱え込んでいるみたいだけれど、幸せになっていいんだよ)
 美羽とコハク、そしてモニカも。
 晴海とレストが幸せに暮らせることを願いながら、見守っていた。

○     ○     ○


「……なんでこっちの?」
 不思議に思いながらも、6歳児となった早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、6歳児と化したヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)の陰謀により、とっても可愛いふりふりのドレスを着せられていた。
「えー、だってきょうはぼくがはなむこさんだもーん♪」
 ヘルの方は、幼児用のタキシード姿だ。
 リンとゼスタの乱入やらちょっとしたハプニングもあったが、ヘルは呼雪との幼児化ウエディング写真を撮ってもらうことが出来て、ご満悦だった。
「こゆきかわいいかわいい。にあってるよー」
 すっごく嬉しそうな顔で、ヘルは呼雪を撫でる。
「アレナちゃんたちもドレスきてるね、おんなのこともいっしょにとってもらったらいいよ!」
「……うん」
 会場にはアレナや、知り合いの女の子の姿があった。
 言われた通り、呼雪はアレナたちのところに行こうとしたが。
「あ、まって! ちゅーしてるところもとって!」
 ヘルが引きとめて、もう一枚、もう一枚と、呼雪とのツーショット写真を望み、なかなか放してはくれなかった。
「カメラマンのお兄さんも次の撮影がありますから、ヘル、呼雪、そろそろパーティの方に行きましょうね」
 幼児化せず、2人の保護者として訪れているユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が、2人の手を引いて、野外で行われている新婚さんのパーティ会場へと連れて行った。
「……あら? 今回は瑠奈さんはいらしていませんでしたが……」
 今回の林間学校には、地球からの参加者はおらず、遠足で子供達の世話をしてくれていた風見 瑠奈(かざみ るな)も、訪れてはいなかった。
 だが、パーティ会場には、瑠奈、そして瑠奈の友人であるティリア・イリアーノの姿があった。どうやら花嫁と知り合いのようだ。
「あ……そういうことですか」
 ユニコルノは、少し離れた場所から彼女達を見守っている人物がいることに気付いた。
 樹月 刀真(きづき・とうま)だ。
 彼が瑠奈とティリアを誘ったのだろう。
 そして……。
「みどうはるみ……レスト」
 呼雪が小さくつぶやいた。
 花嫁が異空間で重傷を負っていた女性――化粧で印象を変えた晴海であることに、気づいたのだ。
 晴海はお色直しの為に、立ち上がった。
 近親者と思われる女性と、瑠奈とティリア、それから刀真のパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が付き添い、更衣室へと向かっていった。