校長室
黄金色の散歩道
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旅立 タシガン空峡に新たな領域が見つかったというその知らせは、瞬く間に広まった。 リネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)の耳に届くまでにも、そう時間はかからなかった。 知らせを聞いた翌日の早朝、リネンとフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は、ペガサスを駆って空へと飛び立った。 見渡す限り、白と金色、そして青に包まれた世界。そんな美しい世界に、二人きり。 リネンを乗せたネーベルと、フリューネを乗せたエネフは、まだ見ぬ領域に想いを馳せた二人を乗せて、新天地へと向けて朝焼けに輝く雲海を滑るように飛んでいく。 「この空もずいぶん静かになったものね……」 リネンは昔のこと……けれど、そう遠くない過去を思い返して小さく微笑んだ。 「そうね。世界の危機が去って、こんなにすぐに静かになるとは思わなかったわ」 フリューネも微笑みを浮かべて、リネンを見つめる。 「最初にフリューネと会ったのも、この辺だったわよね」 フリューネとの出会いがなければ、リネンが空賊になるきっかけを掴むことはなかっただろう。 目的もなく惰性で生きていたリネンは、フリューネと出会ってすべてが変わった。 目標が見つかって、未来を見据えて……そうして、激動の時間を生きてきた。 「そっか、この辺りだったわね……リネンのことを助けられて、本当に良かった」 周囲を見回して、フリューネは懐かしそうに少し小さく微笑んだ。 「それだけじゃないわ。思い返すと、いろいろなことがあったわね」 フリューネも思い出すことがあったのだろう、瞼を閉じて流れる風を感じるように小さく息を吸った。 「ええ、本当に……」 リネンにとって、フリューネは本当に特別な人だった。 冒険を繰り返し、そして五年という長い時を経て……伴侶となった大切な人。 最愛の人。最高の相棒。どんな表現を持ってしても、言葉には尽くせない。 命の恩人だからというだけではなく、あの時にいろんなことが変わったのだ。 運命の人、と一言で片付けるには、簡単すぎるほどに。 「色々なことがあったけど、あの時から私の全ては動き出したんだと思う」 もう今のリネンは、一匹狼の空賊じゃない。 フリューネと共に戦って、フリューネの恋人となって、そしてフリューネの伴侶となって。 ロスヴァイセ家に入って、裏社会から手を引いて……。 二人が出会った頃とは、二人の立場も関係も、大きく変わったのだ。 「…………」 過去を思い返して黙り込むリネンに、フリューネはいつも通りの笑顔を向けた。 「いいじゃない、今一緒にいるんだから。そして、これからも……ね?」 「……ありがとう、フリューネ」 出会った頃とは見え方の変わったこの世界で、これからも変わらない冒険の日々は続いていくのだろう。 「っと……昔の話はおしまいね。あの島がそうかしら?」 雲海に浮く、島が見える。遺跡のような崩れた建物が朝陽に照らされていた。 「遺跡かしら?」 「調べてみないと分からないわね……あら?」 横合いから島を目指して近付いてくる数隻の飛空艇に気付き、リネンは手綱を握る手に力を込めた。 「またすぐ賑やかになりそうね……みんな、冒険が好きなんだから」 「あんな噂が聞こえてきたんだもの、先客がいると思っていたわ」 顔を見合わせたフリューネも、微かに口元を歪ませた。 「いくわよ、フリューネ……ネーベル!」 「ええ、のんびりしてる時間はなさそうね?」 速度を上げたリネンとフリューネは、風に乗って島へと飛んでいった。