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2024年9月現在、朱里・ブラウ(しゅり・ぶらう)は妊娠七ヶ月目を迎えた。
お腹の双子の出産予定日は年末。もうあと僅かである。
その日を待ち遠しく思いながら、朱里は自身のお腹を撫でた。優しく、そっと、まだ見ぬ子供たちを慈しむよう触れると、それに応えるように動く気配があった。
「動いた」
と、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)に言うと、アインは昼食の片付けをしていた手を止めて微笑んだ。手を拭いて傍に来て、朱里と一緒にお腹を撫でる。父親が近くにいることに気付いたように、また、子供たちが動いた。
「二人とも元気そうだ」
「あなたが傍にいるから、喜んでる」
「……なんだかくすぐったい気分だ」
朱里の言葉にアインは嬉しそうにはにかんだ。
「早く逢いたいな」
「うん。待ち遠しいね」
短い時間、これからのことに思いを馳せると、二人は各々やるべきことに戻った。アインは、妊娠中の朱里を気遣って家事を、朱里は、生まれてくる子供たちへの産着や靴下を編むことだ。
そうして編み物をしていると、不思議そうに目を丸くしたユノがやってきた。ぺたん、と朱里の隣に座り込み、物珍しそうに朱里を見ている。
「そうしたの? ユノ」
アインと同じ、金色の柔らかな髪の毛を撫でながら、朱里は優しく問いかける。ユノは、朱里のお腹にそっと触れた。どうやら、日に日に大きくなる母のお腹が不思議らしい。
「ここにはね。あなたの妹か弟がいるのよ」
「?」
きょとんとした目が、朱里を見上げる。無垢なユノの頬に手をやり、そっと囁く。
「ユノは、お姉さんになるの」
おねーたん、とユノが舌っ足らずに朱里の言葉を繰り返した。そうよ、と言って、お腹に手をやる。
「家族が増えるよ」
朱里の言葉の意味を、ユノはおぼろげながらも理解したのだろう。ぱあっと笑顔を向け、こくんと頷いた。
来年にはきっと、もっと賑やかになっているだろう。幸せになっているだろう。そのことを考えると、自然と口元が笑みを作る。
もちろん、子供を育てるのは楽しいことばかりじゃない。育児や教育のこと、お金のこと、仕事のこと、将来のこと……考えることは山ほどあって、頭が痛くなることもある。いつかのように、落ち込んだり悩んだりすることもある。
だけど、朱里は一人じゃない。
辛い時も、大変な時も、苦しい時も、支え、守ってくれる人がいる。
パートナーで、夫で、子どもたちの父親でもある、大切な――。
「アイン」
声をかけると、洗濯物を取り込もうとしていたアインが振り返った。
「あなたがいたから、私は今こうして、強く、幸せでいられるの」
突然想いを告げたからか、アインはきょとんとした後、柔らかく微笑んだ。
「本当に感謝してる。ありがとう」
「それは、僕の言葉だ。きみがいたから、僕はこうして家族に囲まれている。これ以上幸せなことはないよ」
アインは朱里の隣に座り、肩を抱き寄せた。額と額をくっつけて、体温を分かち合う。
ささやかなひと時を噛み締めながら、朱里は幸せな気持ちで胸をいっぱいにした。
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