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リアクション
●戻ってきました!
スーツケースをガラガラと引きながら布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)は満面の笑顔で、出迎えに来たエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)に手を振った。
「帰ってきたよ!」
エレノアは立ち止まったまましばらく、はにかんだような笑みを浮かべていたものの、やがてたまらなくなったのか佳奈子に駆け寄り、「持つよ」とスーツケースの握りを手にしたのだった。
「おかえりなさい、佳奈子」
「ただいま、エレノア」
「蒼学に帰ってきてくれて、とても嬉しいわ」
「私も」
荷物から手を放しパラミタの蒼空を見上げて、そのすべてを抱きしめようとでもするかのように、佳奈子は両腕を拡げるのである。
「私も、とっても嬉しい!」
2025年の三月に蒼空学園高等部を卒業したのち、佳奈子は単身、日本に帰国した。
東京の大学へ進学するためである。
出身地の島根に両親を残しシャンバラに長期間来ていたから、一度日本に戻って両親を安心させてあげようという考えがあった。エレノアは残ったので、それがふたりの別れとなった。
大学で佳奈子は、かねてより望んでいた外国文学を専攻した。
といってもイマドキの大学生。勉強だけに取り組んだりはしない。
勉強半分、遊び半分といういいバランスで、カレッジライフを楽しんだ。サークルに入ってみたり、ボランティアに参加したりもした。学友もたくさんできた。
けれど……折に触れ思い出すのは、その前年までの学校生活だった。すなわち、蒼空学園での記憶だ。
とりわけ、エレノアのことは思い出されてならなかった。ぼんやりしていると、ふっとエレノアの顔が頭に浮かんでくる。
黄金の髪をなびかせ、凜とした表情でずっと横にいてくれたエレノア、すっごく綺麗な憧れの女の子、間違いなく大親友で、魂が共鳴するような本当の仲間……。
――蒼空学園での生活、楽しかったな。今思えばエレノアと過ごした時間って、一秒一秒が全部貴重だった……。
ついに当時のことを夢に見るようになるにいたって、佳奈子はあることを思いついた。
シャンバラへの留学だ。
そうと決まれば話は早い。佳奈子は大学に留学の希望を出し、エレノアとも連絡をとりながら、留学申請の審査結果を待つことにした。面接後、通知が到達するまでの数日間は実にそわそわとした日々であった。
結果は……審査通過!
東京の大学での優良な成績が認められ、奨学金まで出る状態で彼女の留学は決定したのである。
2026年の四月からの留学となり、佳奈子はこうして、一年振りにシャンバラの地を踏むことになったのだった。
しばし手をとりあって再会を祝したのち、エレノアの体を上から下まで見て佳奈子は言った。
「なんだかエレノア……少し大人びたみたい」
「そう?」
「うん! っていっても、クールビューティなところは全然変わってないんだけどね」
「クールビューティねえ……ま、ありがとうと言っておくわ」
「その辺りがクールビューティよね〜」
「一年見ない間に、佳奈子も少し大人っぽくなったんじゃない? 天然ボケなところはあまり変わってないみたいだけど」
「ぼ、ボケてませーん! ぼんやりしてるだけー!」
「それをボケって言うんじゃないのー?」
ふっ、と最初エレノアは腕組みして笑っただけだったが、やがてなにかツボに入ったらしく、あはははと笑み崩れた。そうすると佳奈子もつられて笑い出してしまう。笑いが笑いを生みやがて相乗効果か、涙が出るほど笑い転げてしまった。
かくて彼女らの大学生活がはじまった。
ひとりずつではなく、ふたり一緒の生活が。
一年経ってパラミタの様子も随分変わっていた。佳奈子が高等部にいたときはどうしても、怪物だ戦争だ世界の危機だと、コントラクターの仕事ばかり入って、勉強が疎かになりがちだった。しかし最近は結構平和な御時世になったらしく、ほとんどスケジュールに狂いなく、授業や講義に出席できるようになった。
でも、エレノアにとってそれは、歓迎することばかりではないらしい。
よく彼女は、講義中に眠そうな顔をしている。相変わらず座学が不得手で苦戦してるようだ。歴史を学ぶより歴史が生まれるただなかに飛びこんでいくほうが彼女の性に合っている。現場主義、実戦主義のエレノアなのである。
佳奈子も一年のブランクがあったわけで、最初の一、二週間は、慣れるまで右往左往していた。
だがそんな状況も、ふたりだから乗り越えられる。座学が苦手なエレノア、過去を思い出しながらの佳奈子、ふたりは互いをサポートしあいがら、勉強やレポートに精を出すのである。
そしてふたりは聖歌隊やコーラス部に復帰した。エレノアは多くを語らなかったが、佳奈子が不在になってから歌うことが面白く感じられなくなり、彼女は密かに退部していたのだ。
今回、佳奈子の留学は一年限定だ。短い一年が終われば、また地球に帰らねばならない。
だからこそ、ぎゅっと中身の詰まった、充実した一年にしたいと佳奈子も、エレノアも思うのである。
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