天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

リアクション公開中!

終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

リアクション


●『聞け、人の心の声を! 目覚めよ蒼空戦士!』の巻

 それがどのようにして始まったのか、あるいは終わったのか、説明することは誠に難しい。
 何年先か確定すらできぬ未来、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は眠っていた。
 棺桶を思わせる箱形の装置、その内側で眠り続けていた。
 装置がどこに設置されているのかすらわからない。パラミタなのか地球なのか、別の惑星なのか。
 だがひとつ確実に言えるのは、この時代、この場所、ひいてはこの世界に、ハーティオンが必要とされているということだった。
 これはハーティオンの目覚めと、新たな旅立ちの物語である。

 夢も見ぬ黒い眠りは、白く忽然と消え去った。
 聞こえる。
 耳ではなく魂で聞いている。
 力なき者たちが虐げられる悲鳴を。助けを求める人々の声を。
 ハーティオンの眼がカッと見開かれた。一転の曇りもない、恒星の輝きのような光が宿る。
「とうっ!」
 彼は目の前の壁を突き破った。さらに岩盤を砕いて乾いた空気の下、病んだような黄色い太陽の下に飛び出したのだ。
 そして見た。
 ぼろをまとった難民のような一団がある。男女年齢様々だが、圧倒的に老幼の割合が高い。なにか戦争か、巨大災害から逃れてきた人々であろうか。
 集団は危機に瀕していた。青白い両生類じみた外見の生物たちに襲われているのだ。生物は三十匹ほどいるだろうか。
 生物は人間型だが、衣服のようなものはまとっていない。顔にあたる部分はつるんとしており目鼻はなく、丸い穴がひとつ付いているのみ。全身からうっすらと放電しており、背には細長い翼を有して避難民を頭上から包囲していた。手に槍や斧を持ち、これを振るっては力なき者を襲っている。
 避難民のうち何人かは抵抗しているが、彼らが手にしているのは棒きれのような剣や拾った石にすぎない。焼け石に水なのは一目瞭然だった。
 この光景に、ハーティオンの心は一気に沸点に達した。
「魔物たちよ、人々に手出しは許さん!」
 怒れる獅子のごとく殺戮の只中に飛び込む。
 進路を塞ごうとする魔物を一刀で斬り伏せ、ハーティオンは叫んだ。
「我が名は蒼空戦士ハーティオン! 正々堂々、勝負!」
 どうやら『正々堂々』という言葉を知らぬ者たちらしい。魔物はヒリヒリと甲高い声を上げると一斉にハーティオンに襲いかかったのだ。
 だが目覚めたばかりとはいえ、ハーティオンは無双の勇士、数だけを頼みとする魔物になど負けはしない。近寄る敵から順に斬り倒し斬り倒し、腕を風車のように振り回して、そのたびに敵の腕や首を吹き飛ばす。頭上の敵を刺し貫いて一閃、凪ぎ飛ばして連鎖的に敵を巻き込み、さらなる死体の山を築くのだ。こうして阿修羅さながらに立ち回れば、敵はたちまち、算を乱して散り散りに退散してしまった。
 危機は去った。
「……ふう。怪我はないか、人々よ。申し遅れた、私の名はハーティオンという」
 歓声を持って迎えられるかと思いきや、それどころではなかったようだ。
 その獅子奮迅の活躍を見るや、疲弊した民たちはたちまち、神でも見たかのようにひれ伏し、ハーティオンを崇めはじめたのである。
「いや、待ってくれ。私はそのように拝むべき対象ではない。どうか立ってほしい。そして、ここがどこなのか教えてはくれまいか」
 言葉で言ってもわからぬ様子なので、やがて彼は身振り手振りもまじえて、己の言いたいことを伝えようとした。
 最初、避難民たちは畏敬の念のあまり、なかなかハーティオンの求めに応じてくれなかったのだが、ようやく長老格とおぼしき老人が、事情を語ってくれた。
 といっても最初は、なにを言っているのかまるでわからなかった。しかしそれでも根気よく耳を傾けているうち、翻訳装置が遅れて起動したらしく、大意が伝わってきたのである。
 どうやら彼らは、魔物の軍勢に故郷を滅ぼされ、命からがら逃げてきた一団らしい。総計で数十人。他にも、同じような集団がいるそうである。
 やがて彼らは口々に語り始めた。といっても、彼らが語る固有名詞にはほとんど聞き覚えがない。いや、そもそも……。
「むう……。実は私は記憶が定かではないのだが、あなたたちに何か強い絆を……遠き昔、何度も共に戦ったような……不思議な感覚を感じるのだ」
 現在ハーティオンが記憶しているのは自分の名前程度だ。彼ら同様、流浪の身といっていいだろう。
「どうだろう、私もあなたたちとともに戦わせて欲しいと思う。私のような者でも受け入れてくれるだろうか?」
 すると民たちは両手を挙げて賛成した。中には涙ぐむ者もある。
 いくら彼らを救ったとはいえ、異形の姿の自分をすぐに信じてくれたことに、ハーティオンは感極まった。
「ありがとう。これが人の温かき『優しさの心』なのだな。懐かしい……とても懐かしい気がする」
 おそらくは民の側にも、ハーティオンを受け入れる素地があったのだろう。それが、遠き祖先から受け継がれてきた記憶なのか、なにか伝承があったからなのか、それはわからないが。
 しかしハーティオンに安らいでいる間はなかった。
「むっ! あれは……!?」
 土埃がもうもうと上がる。
 魔物が逃げ去った方向から、同じように青白い姿の、されどもそれを十数倍にしたような、巨大な六本足の怪物が出現したからだ。
 人間型の魔物がずらずらとその後方から付き従ってくる。逃げた連中が戻ってきたのだ。あの巨大なものが魔物の切り札に違いない。
「いかん、このままでは人々が……! ならば!!」
 闘いのことであれば、ハーティオンの体は忘れていない。
「竜心咆哮! 龍心機ドラゴランダー!」
 腹の底から声を出した。天を突き破り、宇宙へと届くほどに。
 来た。
 その姿が天の一角から飛来した。
「ガオオオン!!」
 その名は龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)、どこから来たのか、それは誰も知らない。
 久々の再会に、ドラゴランダーは喜びの咆吼を上げた。
 その言葉をざっと翻訳するとこのようになる。
「わっはっは! 久しぶりだなハーティオン!
 ぬう? なんだキョトンとして……さては細かいことは何も覚えておらんのだな? まぁ、忘れたことなどどうでも良いな! それよりも、久しぶりに暴れるのだろう?」
 これに勢いづいた民衆のうち、戦えるものは折れた剣、足元の石などを拾って参戦の意思を見せた。
「見ろ、人間達の中にも武器を持って共に戦おうという酔狂な奴らもいる。相変わらず面白い連中だな、奴らは! さぁ、ハーティオン! 共に行くとするか!!」
 おうと答えてハーティオンは飛び上がった。そこにドラゴランダーが被さる。
「行くぞ!
 龍心合体!!
 ドラゴ・ハーティオン!!
 本当に合体した。長い時間がこれを可能にしたというのか。
 こうなれば、ドラゴ・ハーティオンに敵はいない。
 胸に輝くはハート・クリスタル、ここから、見た目だけで最強感満点の長刀を取り出す。そして、これを両手で振り下ろした!
勇心剣! 流星一文字斬り!
 一刀は光り輝き、なんと巨大怪物を、たったの一振りで両断したのである。
「たとえいかなるときであろうとも、人々の正しき心ある限り私は人と共に戦い続ける! 我が名はハーティオン! 人の心と共に戦う戦士なり!
 これに勢いづき人々も戦う。戦って魔物を倒していく。
 この時代、この場所に、新たな救世主伝説が生まれようとしていた……!

 さてそのときハーティオンが出てきた岩盤から、
「ふあ〜あ……ムニュ………」
 などとアクビをかみ殺しながら、背に羽を生やした妖精が這い出てきた。
 妖精は身長三十センチほどしかない。ために、彼女の登場に誰も気づいていないようである。
 彼女はラブ・リトル(らぶ・りとる)。実は彼女、ハーティオンが眠っていた謎の装置に一緒に入っていたのである。真っ赤なワンピースはあいかわらずながら、アンテナのついたヘルメットを被っているあたりは、少し進化(?)したと言えようか。
 手をかざして人々を眺め、ラブは納得したように独言した。
「お? あー、なるほど人がいるのね〜。んじゃ、ちょっと挨拶しときますか♪」
 そうしてラブは歌うように、
「はろはろ〜ん♪ あたし世界No1アイドルのラブちゃんよ〜♪ 皆、これからヨロシクね〜♪」
 と呼ばわりながら、民衆の頭上で舞い踊るのだった。
 この時代、この場所に、新たなアイドルが生まれようとしていた……のかどうかはわからない。