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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第3回/全5回)

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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第3回/全5回)

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●鏡に映った自分? いいえ、『ジェル』です

 同じ頃、ちびとヴィオラ、そしてネラが激しい戦闘を繰り広げた遺跡、そこで発見された近代的な施設の中心部では、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)カイル・ガスティンダスタールのペアが、やってきた冒険者の前で情報を与えていた。
「……のように、このジェルとやらはおまえたちの姿形ばかりでなく、その能力まで似せてくるようじゃ。対策は立てやすいじゃろうが、それゆえに戦い辛くもあろう。心してかかるのじゃぞ」
 アーデルハイトの言葉に冒険者が頷き、準備のために散っていく。
「おお、そうじゃ忘れておった。……おまえ、ちと協力してくれぬか?」
「え? あたしですか?」
 アーデルハイトに呼び止められて、篠北 礼香(しのきた・れいか)が振り返る。
「そうじゃ、ちとこいつを頼まれてくれんかのう」
 言ってアーデルハイトが見せたのは、円盤状の物体であった。
「そいつを起動させると、ジェルの動きを一定時間止めることができるはずじゃ。そこにある突起がスイッチになっておる、押してから十秒後に起動するようになっとるから、タイミングを見計らって床に放るなりすればよかろう。……まったく、ディルもけったいな仕掛けを作りおって、理解するのに丸一日かかったわい」
「あの、あたしでいいんでしょうか?」
 礼香の問いに、アーデルハイトがよいよい、と呟く。
「あの者たちが「ここで冒険者の支援をする」と言うのでな。おおよそ、行くのを怖がっておるのじゃろうが」
「怖がってなんかないぞ! さっきだって俺が行くって言ったのに、ダスタールが――」
「イヤですぅ! もう怖い思いは、したくないのですぅ!」
 意気込むカインだが、しがみついたダスタールが意地になって行かせようとしない。
「……分かりました。有難く利用させてもらいます」
「うむ、では行ってくるがよい」
 一礼して部屋を出て行く礼香を見送って、さて、と呟いてアーデルハイトが腰を下ろす。
「こんなこともあろうかと……と色々用意してはおいたが、どれも使わずに済めばよいのう。もれなく面倒なことになるでな」
「い、一体何を用意したってんだ?」
「それを言っては面白くなかろう。……知れば少なくとも一週間は、眠れなくなるじゃろうな」
「こ、怖いですぅぅぅ!!」
 アーデルハイトの微笑みに、カイルが戦慄し、ダスタールが完全にカイルの背中から出てこなくなる。
「……ま、彼らならやってくれるじゃろうて。その程度には信頼しておるよ」
 言って、アーデルハイトが目を閉じる。
 三人が見守る中、冒険者とジェルとの戦闘が開始された。

「ほう……聞いたとおり、まじで俺たちにそっくりなのな」
「ふむ、これがジェルか……中々面白いな」
 そのジェルと交戦を始めたのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)アイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)を始めとした一行であった。対峙したジェルは二人にそっくりの姿を取り、生気の感じられない瞳を向けて襲いかからんとする。
「その通りだぜ、面白くなってきやがった! まさか自分と戦えるなんてな!」
「面白がるのは不謹慎だが……さて、オレの分身がどれだけの力か試させてもらおう」
 ラルクとアインがそれぞれの戦い方に行動を映せば、同じ姿をしたジェルも彼らと同じような動きをする。その他、僧侶に似せたジェルは支援に動き、剣士に似せたジェルは積極的に前へと飛びこんでくる。
「気をつけろ! 変に近付いたらドラゴンアーツでぶっ飛ばされる筈だ! あと固まってっと、まとめて撃ち抜かれるぞ!」
 ラルクが、自らに似せたジェルのしてきそうな行動を仲間へ伝える。その直後、ラルクの姿をしたジェルが弾丸を散布してきた。
「何をしてくるかが分かるのはいいんだが、その分やりづれぇな……ま、とにかくやるしかねぇか!」
 ラルクが自らの姿をしたジェルを追うその横で、アインが発生させた火弾を、前衛で華麗な舞を披露しているジェルへ向けて放つ。
「紅蓮の焔よ……そいつらを溶かしきれ!」
 飛び荒ぶ火弾は、しかし踊るようなステップを見せたジェルに避けられる。
「ふむ、避ける、ということは、防御するには向いてないと見えるな。……ならば、これでどうだ!」
 アインが今度は、広範囲に燃え盛る炎を発生させる。炎自体の効果は火弾よりも劣るものの、避けることは困難になっていたそれを受けて、ジェルの動きが目に見えて鈍る。
「効果ありのようだな。……こんな使い分けは、オレの分身には真似できまい?」
 自信ありげに鼻を鳴らしたアインが、続けざま火炎を見舞う。
「まずは、こいつでどうだ!」
 その向こうでは和原 樹(なぎはら・いつき)が、自分の姿をしたジェルへカラーボールを投げ付ける。命中したそれは樹の顔から上半身にかけてを蛍光に染める。
「敵とはいえ、汚れた樹の顔を見るのは心が痛むな。思わず綺麗にしてやりたくなる」
「だからってヘンな気起こすなよ? あんたにもこれ、投げ付けるぞ?」
 フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)に向けて、樹がカラーボールを投げる真似をする。
「校長……なんか、らしくなかったよな。そりゃ、色々あってああなったって言われたらそうかもしれないけど、でも……ちょっと痛々しかったな」
 その手にしたカラーボールを別のジェルに投げ付けて、樹が呟く。
「こいつらには多分、人格なんてないんだろうけど。……あの子たちには人格があって、想いとか願いとかがあって、今まで生きてきたんだろ? それが校長にも分かっているから、あんなに必死になっているように見えるのかな?」
「……聖少女が何者であるかは、我にはどうでもいい。こうして我に向かってくるのであれば、過去に何があろうとも倒すのみだ。……ただ、何とかしようとしているであろう校長には、何らかの形で手を貸してやりたいとは思う。それを樹も望んでいるようなのでな」
 樹の問いかけるような言葉に、フォルクスがその手から氷柱を発生させ、ジェルの動きを止めながら答える。
「……力を貸してくれるなら、感謝するよ、フォルクス。校長には、これが終わったらまた、いつもの調子で我侭言って欲しいね!」
 その凍らせたジェルへ、メイスの一撃を叩き込んだ樹が、崩れ落ちていくジェルに振り返って答える。
「感謝の気持ちは、是非とも身体で払ってもらいたいところだな――」
「……だから、ヘンな気起こすなっての!」
 微笑むフォルクスに、カラーボールが次々と投げ付けられる。
「南無八幡大菩薩!!お前等がマネする前に、まとめて吹き飛ばしてやる!」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)が敵陣に飛び込み、ショットガンの一撃を見舞う。弾丸が冒険者に似せたジェルの身体を貫くたび、炎や雷といった現象がジェルを襲い、焼かれたジェルが溶けるように地面に消えていく。
「ま、そもそもお前等が、オレの隠し技をマネできるとも思えんが――」
 銃を担ぎ上げ、挑発じみた口調で鼻を鳴らす武尊の背後で、銃を手にしたジェルが狙いを定める。引き金に手がかかったその瞬間、銃声が響きジェルが銃を取り落とす。
「ちっ、そんなところで何をしてる!」
 武尊がショットガンを構え直し、その射撃を受けてジェルが地面に倒れ伏す。
(借りを一つ作っちまったな。後で飯でも食わせてやるか)
 おそらく今は場所を移動しているであろう猫井 又吉(ねこい・またきち)に、武尊が一応礼を返しておく。
(飯っちゃあ、あのイルミンスールのロリ婆にこいつをもらったんだっけか。……なんかヤベぇ色だな、本当に飲めるのか?)
 思い出し、武尊が懐から小瓶を取り出す。それは飯をたかった武尊にアーデルハイトが、「こんなこともあろうかと」と言って渡したものであった。
(ま、いっか。曲がりなりにも大魔女のこしらえたモンだ、ジェルを一掃できるくらい効果てきめんだろ)
 武尊が躊躇なく小瓶の蓋を開け、中身を流し込む、その直後――。

 ――――――――――(゜∀゜)――――――――――!!

「た、武尊さん!?」
 武尊の様子を心配したシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が、隠れていた場所から身を乗り出す。彼女の視界に映ったのは、とても描写できないような振る舞いをしながら、しかしジェルを次々と粉砕していく武尊の姿であった。
「武尊さん、そこまでする必要は、あるんでしょうか?」
 よく事情を知らないシーリルが、目を両手で覆いつつ――隙間からちゃっかり覗きつつ――呟く。……アーデルハイトの用意するものは、どうやらいちいちハイリスク・ハイリターンの代物であるようだった。
「……凄いことになっているようですが、これで準備が整えられます。リアトリス、ステージで華麗に舞いなさい!」
 言ってパルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)が、数を減らしたジェルの周囲を囲うように、地面に氷を張る。
「凄え……なあこれ、どのくらいもつんだ?」
「範囲を絞って、厚さもギリギリまで薄くして、それでも三分もてばいい方でしょうか」
 カレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)の問いに、パルマローザが答える。
「三分あれば一演技終えられる、十分だよ! さあ、僕の演技、披露するよ!」
 白いバラの装飾が鮮やかなドレスに身を包み、準備よくスケート靴を履いたリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が宙を舞い、氷の上で演技を開始する。何とか攻撃を当てようと奮闘するジェルだが、その華麗な身のこなしに全て避けられ、逆に攻撃を受けて抵抗力を奪われていく。
「今のジャンプは……十点か? いや、回転が足りないから四点か? そもそも衣装に小道具を使用している時点で、減点一点だろうな。他にも減点要素満載だから、点数はゼロかもしれないな」
「何を言っているのです、リアトリスに剣を!」
「お、おう! ほらよ、こいつで止めだ、リアトリス!」
 パルマローザに急かされて、カレンデュラが光り輝く剣を取り出し、演技を続けるリアトリスに投げる。
「フィニッシュはこれで決めるよ!」
 剣を受け取ったリアトリスが、その剣を真横に構え、溜めの姿勢から氷を蹴り上げ、空中で自らを回転させる。同時に剣からは音速を越えた衝撃波が次々と放たれ、ジェルを寸刻みにしていく。最後のジェルが倒れると同時に、着地を決めたリアトリスが剣を掲げ決めポーズのような仕草を取った。……八回転ジャンプが点数にしていくつかは永遠の謎だが、とりあえず八十点としておく。
「ここの敵は、片付いたようですね。カレンデュラ、怪我をした者の手当てをお願いします」
「よし、任せておけ! ついでに好みのオトメンがいたらナンパだ!」
 意気揚々と手当てに乗り出すカレンデュラを、パルマローザが心配そうに見遣る。