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のぞき部あついぶー!

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のぞき部あついぶー!
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最終章 再び、汚物


 焼きそばの屋台を片付け、女子のぞき部新入部員のギルガメシュが黄色いポリバケツのフタを少しだけ開けた。
「ギル……」
 中には、キンピカッと輝くのぞき部の新入部員、エル・ウィンドが生ゴミに埋もれていた。
「あつい部の連中はいないか?」
「境内から出て行きました」
「……帰ったのか?」
「きっと……私たちがのぞき部員だって気がついてないんです。先輩方が厳しい拷問に耐えてくれましたから」
「先輩……」
 本殿前には、トコロテンで彷徨っていたサフィやエロ蟻地獄で捕まった女子のぞき部員が吊されていた。
 スケスケの巫女装束がところどころ破れていて、通行人が横目でチラチラするたびに……つかさは感じていた!
「はぁはぁ……こんな素敵なことが最後に待っているなんて、ナリュキ様、素晴らしいですわね」
「つかさ……これはそうそうできる経験ではないにゃあ」
 と、参道から理沙が凄い勢いで走ってきた。
 そして、つかさとナリュキに大きな布をかけて身体を隠してしまった。
「ああ! なんという酷い仕打ちをなさるのです……!!」
「つかさとナリュキには、こうしないと罰にならなかったね。ふんっ!」
 そしてまた去っていった。
 つかさの目には、涙がきらり。
「これでもう、誰も私を見てくださらないのですね……」
「つかさ……」
 ギルガメシュは、ポリバケツのフタを閉めた。こっそり鼻に詰めていたちり紙を出すと、ポリバケツを持って歩き出した。
「行きます! ……ぐう。重いっ」
 2人の作戦は、こうだ。
 本殿と本テントの間にはゴミ捨て場があるため、ポリバケツをそこに持って行くのはごく自然なことである。ギルガメシュは屋台で働いていたし、何より女性である。そして、テントの中央にある出入口からポリバケツを入れるのはバレバレだが、こっそり隅っこから押し込んで入れてしまうのは、バレない可能性が高い。入ってしまえばこっちのもの。エルは、フタを少しあけて……のぞく!!!
 問題は、テントの隅に押し込めるかどうかである。それには、支柱と横幕を結んであるテント内側の留め金を女子のぞき部が外すことができたかどうかにかかっていた。
 ギルガメシュは、女子のぞき部員たちの前で、立ち止まった。
「はぁはぁ。やっぱり、重いですね……ふう」
 そこには、リース・アルフィンが黙って立っていた。エロ蟻地獄に堕ちなかった唯一の女の子だ。
 2人は何も言わず、ただ一瞬だけ目を合わせてすれ違っていった。
 リースは、吊されている桐生ひなを見つめた。
「ひなさま……」
「んぱーんぱー」
 リースは、女子のぞき部の新入部員だった。
 エロ蟻地獄の中、ひながわざと敵にみつかり、その隙に横幕の留め金を外すという重要な役割を担っていたのだ。
 そして、見事にその大役をやり遂げた。
「先に、帰ります……」
 ――パンダ隊は必ずどこかで見張っている。だから、何があっても助けに来てはいけない。
 そう釘を刺されていたのだ。
 お姉様と慕うひなが傷だらけになって再びトコロテンになっているというのに、何もできなかった。屋台もなくなったのに境内に長くいれば、疑われてしまう。だから、帰るしかないのだ。
 参道を去っていくリースの目から、大粒の涙がぽろりぽろりとこぼれていた。
 そして、もう1人。どうしても騒ぎを起こしてバイト代をふいにできない姫宮和希も、下を向いて帰っていった……。
 
 一方、森の中。
 のぞき部パシリの葉月ショウは、コタツに入ってぬくぬくとうたた寝していた。
 向かい側では、やはりリュースがうたた寝していた。コタツの上には、お雑煮やみかんの食べた跡があった。
「む……むん……。あれえ。もしかして、オレ〜、寝ちゃったんですかね〜……」
 リュースはお腹が減って目が覚めた。
「寝てる……」
 目の前のショウは、机に突っ伏してよだれを垂らしてむにゃむにゃ言っていた。
「むにゃむにゃ……ゴミ箱……キンピカ……ゴミ箱……作戦……」
「ははは。寝言言ってますよ〜。しっかし、コタツって一番身近な蟻地獄ですよね〜」
 と、そのときケータイが鳴った。
 着信を見て、それが理沙からとわかった瞬間――
 全てがつながった。そして、コタツから飛び出した。
「も、もしもし理沙? え? ……な、なに言ってんだよ。サボってなんかないよ。……眠そう? 気のせいだろう。それより、重要な情報をゲットしたよ。のぞき部の作戦は、キンピカゴミ箱作戦だっ!!!」
 理沙は、パンダ隊やあつい部と一緒に境内の外から女子のぞき部員の様子を窺っていた。
「キンピカ……? ゴミ箱……?」
 みんなは懸命に考えた。
 ――キンピカと言えば、エル・ウィンド。
 ミレーヌは思い出した。
 ――エルのパートナーギルガメシュが、ゴミ箱を開けるなと言っていた。
 みんなはついさっきの本殿前の光景を思い出した。
 ――ギルガメシュが、ゴミ箱を運んでいた。本殿前を通るとき、リースがいた。リースは、涙を流していた。
 しばしの沈黙のあと、菅野葉月が大声を上げた。
「ああああっ!!! わ、わ、わ、わかりましたっ!!!」
 テントの隅でエロ蟻地獄から逃れていたリースを救ったのは、葉月だった。点と点がつながって、推理の全てをみんなに話した。
「それだ! 葉月すごいっ!」
 理沙がケンリュウガーを見る。
 ケンリュウガーは大きく頷くと、立ち上がって本殿を指差した。
「あつい部並びにパンダ隊の諸君!! これより、のぞき部との最後の聖戦を開始する!!! 己の力をあつく燃やし、そしてこの野添貴神社の神の加護を得て、今こそあの怨敵のぞ――」
 ライザー以外のみんなは、とっくに参道を走っていた。
「部長……がんばりましょう!」
「ファ……ファイファーーーーッ!!!!!」
 ギルガメシュは本殿の東側を通って、テントに向かっていた。
 あつい部とパンダ隊は、本殿の西側を通ってテントに向かった。走りながら、あつい部左大臣のガートルードが指示を出した。最後に思いっ切りファイファーするためにも、未遂で止めたら面白くない。
「のぞきたいなら、のぞかせてやりましょう!!!」
「わわわわー。ど、どういうことですかーっ!?」
 ――のぞかせたら、なんの意味もない。あつい部は何を考えているのだろうか?
 パンダ隊はもう、あつい部のあつい暴走についていけなかった。
 そして、ギルガメシュがようやく本テントに着いた。
 中からは、佐倉留美の声が聞こえた。
「今日は一日お疲れさまでした。神主さんから甘酒いただいたので、みなさんでいただきましょう」
 きっと、またあの「甘酒」だ。
「ありがとう。……ごくごく。……悠。着替えさせてあげるねっ!」
 きっと、朝野未沙だ。
「着替え? でも……変なところ触らないでよ。ぜったいだ……ああっ。ちょっと……未沙!?」
 やはり未沙だった。
「悠くん、よかったねー。着替えさせてもらって♪」
 パートナーの翼は、助けようともせず、その様子を見て楽しんでいるようだ。
 と、今度は小夜子の声が聞こえてきた。
「あなた。少し酔ってるようですわ。落ち着い……あっ。な、なにを……!」
 そして、目で犯していたアルメリアの声もする。
「悠ちゃんも小夜子ちゃんも、こんなところで全裸になって、何してるのかな? あれ? 何か垂れてるよ?」
 テントの中は、またしてもピンク映画になっていた。
 ギルガメシュは、ポリバケツに囁いた。
「エル……いよいよ、のぞき部デビューです。思いっきりのぞいてきてくださいっ!」
「ああ、行ってくるぜ。先輩たちの分も……ちち。しり。ふともも。全部見てくるぜっ……!!!」
 ギルガメシュは、本テントの支柱の脇にポリバケツをズッズッと静かに、少しずつ押し込んでいく。
 リースが横幕との留め金を外しているため、問題なく中に押し込むことができる。
 周囲を警戒しながら、ゆっくりゆっくり押し込んで……ついに、中に入った。
 テントの中からは相変わらずピンクな声が聞こえている。
 偽テントでは、相変わらずのぞき部員がのぞきの神様……の化身である壮太にお祈りしていた。
 エルは、心に決めていることがあった。
 ――ここまでうまくいったなら、それは先輩たちのおかげ。女子のぞき部のおかげ。最後くらいはこそこそせず、パーッと華々しくのぞこう。堂々とのぞこう。そして、潔く散るんだ……!
 エルは、ポリバケツのフタに手をかける。
 そして、巫女さんの着替え、あわよくばその裸、つまり、ちち、しり、ふともも、そんなキンピカッな未来に向けて飛び出したっ!

「レッツゴー☆☆☆ 巫女さんラヴラヴラーーーーー………………ヴ?」

 生ゴミとともに飛び出すエルを待っていたのは、テントの中で所狭しと乱れに乱れる巫女さんのピンクな姿……
 ではなく、
 あつい部とパンダ隊だった。
 彼らは先回りして巫女さんを後ろに隠し、のぞきから守っていた。
 あつい部たちの後ろで、バスタオルにくるまった未沙やアルメリアはどことなく物足りなそうな顔をしていたが、とにかく守られた。
 あつい部部長のケンリュウガーが、ビシッと指を差して宣告した。
「俺たちは、あつき誇りと魂を持った正義の使者。その名も、あつい部ッ!! 貴様ら卑劣極まりないのぞき部に対し、愛を持って制裁を加え――」
 相変わらず長い前口上の間にも、輝きを失ったエルからはぷーんと生ゴミのニオイが広がり、蠅はぶんぶんと飛んでいた。
 そんなものを、左大臣のガートルードが許すはずはなかった。口上が終わるのを待てるはずが……なかった。
「正義のヒーローケンリュウガーがこの世にある限り! のぞき部どもは――」
「汚物は焼却ですッ! ファイファーーーーーーーーーーッ!!!!!」
 みんなも後に続いた。
「ファイファーッ!!!」
「ふぁいふぁあああ!!!」
「ファイファーですーっ!」
 全てのあつい系スキルを一斉掃射されたエルは、丸焦げになって……
「んぱーんぱーんぱー」
 脳みそがトコロテンになった。
 のぞき部の挑戦はまたも失敗に終わったのだった……。

 ◇  ◇  ◇

 映画はこの後、大和によるあつい部部長のあついインタビューに切り替わったが、やはり長くてあついので観客はあまり聞いてなかった。
 あつい部の広報マン、天才カメラマンのアラーマキーとその助手の晶は、場内にいるはずののぞき部を探した。
「晶。おかしいですわ。今日ここに来ればのぞき部全員に会えると思ってましたのに」
「いませんねえ。上映前はロビーでのぞき計画を立てて盛り上がってましたけど……行ってみますか」
 2人がロビーに行ってみると……
「あそこのビルは壁の素材が悪くて、もぐりこむときに音が出るでござるよ」
「やっぱり屋上からロープでするするっと――」
「いや、それはダメだよぉ。あそこはビル風が強くて危険すぎるからねぇ」
 映画も見ずに盛り上がっていた。
 のぞき部は、のぞきに関しては常に前向き。過去ののぞきより、次ののぞきの方が大切なのだ。
 そして、のぞき番長の和希がトイレに行った隙に、周がみんなを近くに集めた。
「みんな、持ってきた?」
 孤児院の用心棒になって金欠で困ってるという和希のために、巫女さんバイトの賃金や“ザ・巫mensショー”で客からもらった投げ銭をカンパしようというのだ。
 あつい部も真っ青の、あつーい友情と絆は何があっても切れないのだ。そう、何があってもだ。
 そのとき――
 サササササーッ。
 アラーマキーがテーブルに写真を並べ、晶が封筒を1人ずつに渡していく。
 写真はあつい部女子の超ギリギリセクシーショットで、パンチラや胸チラはもちろんのこと、汗で透けた下着のライン、処理し損ねた一本脇毛などのマニアックなものもある。そして、もちろんソアの濡れたスク水姿もある。
 のぞき部員は、生唾ごくり……。
 アラーマキーは淡々と取引方法について説明した。
「写真に番号を振ってありますから、その番号と購入したい枚数を記入して、合計金額を封筒に入れて封をして提出していただけますか。個人情報保護のため、わたくしとの接触を避けておきたい方はメールとウェブマネーでも受け付けております。URLは中のメモに記載されています」
 あつい部広報のアラーマキーは、本当はあつい部ではなかった。
 その立場を利用して、セクシー写真での金儲けを企む1人の女、荒巻さけだった。パートナーが増えて火の車となった家計を支えるためには、これしかなかったのだ。
 そのとき、映画を見て頭を抱えながら通りかかった壮太が、その中の1枚に飛びついた。
「な、なんだこれ? オレじゃねえか!」
 それは、いかにものぞき部の黒幕といった感じで写っている“のぞきの神様”瀬島壮太の写真だ。路々奈が、わざとアクシデントを期待して空京座の前に落としておいたのだ。
 さけはサッと壮太から写真を取り返すと、機械的に説明した。
「こちらは通常価格の10倍のお値段で販売させていただきます。ネガのない貴重な作品ですので、ご了承ください」
「おいおい。こんな映画があるだけでもヤバいってのに……ちくしょう。払えばいいんだろ、払えば」
 財布が空っぽになって帰っていく壮太の背中に、のぞき部は静かに手を合わせていた。
 そして、和希にカンパされる予定だったお金がどうなったのか、それをここで言及するのは野暮というものだろう。
 ただひとつ言えるのは、その夜の荒巻家の食卓がいつもよりちょっと豪華だったということだけだ。
 
 そして映画は最後のインタビューが終わり、エンドロールが流れていた。