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リアクション
――会議室が静まり返り、沈黙が続いた。
「どうぞ」
席を立っていたオレグが、ラズィーヤの前にティーカップを出した。
「ワタシも手伝うよ。葉月の手伝いとしてね!」
葉月のパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)も立ち上がって、オレグが用意をしたスコーンを皆に配っていく。
「気分を一新しましょう。きっと柔軟な考えが生まれます」
「ありがとうございます」
紅茶を受け取って春佳は礼を言い、硬い表情を少しだけ緩めた。
「役員とか堅苦しいのはダメだけど、葉月の手伝いって形で、お茶やお菓子を配ったり、用意したり運んだり、そんな雑用なら出来るよ」
「お願いいたします」
ミーナの言葉に、春佳がそう答えミーナは笑みを葉月に向けた。
葉月はこくりとミーナに頷いてみせる。
「お茶飲み終えたら難しい会議に戻るけど、みんな頑張ってね!」
スコーンを配り終えるとミーナはそう声をかけて、葉月の隣に戻った。
葉月と一緒にいることが幸せで、葉月のために働くことは、ミーナにとって喜びだった。
「これから、先遣隊の志願者を募るわけですけれど」
エレンが隣に座るアトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)に目を向ける。
「推薦状をお持ちのみなさん、あなた方の言動は全てあなた方を推薦してくださった方に帰ります。例え推薦者があずかり知らぬ事であろうとも問題があれば『この人物は問題などをおこさない』という保証をした方の責任にもなるのです。推薦を受けてここにいる以上、あなた方は各推薦者の名を背負っているということを努々お忘れなきよう」
アトラは事前にエレンに教わっていた文章を棒読みで一気に読み上げた。
どもらずに言えたことに、ほっと息をつくも、エレンのサポートとして独自の判断で動くことはまだまだ無理なようだ。
アトラの隣に座っているフィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)も、カップを置いて集まった者達に目を向ける。
「皆は各学園からの推薦状を携えて参加しているわけだ。もしその者に問題があればこちらも推薦者に責任を問わざるえぬ。むろん左様なことが起こるとは思わぬがの」
そっと目をドアの方に向ければ、レンを送り終えたティリアが会議室へと戻ってきたところだった。
「……少なくとも貴公らの身内にそういう人物がいれば、こちらがそれを取り上げる前に貴公ら自身で処理するであろう」
そしてウィルネストを見る。
ウィルネストは不機嫌そうな顔のまま深く頷いた。
「また他の者達がなにか問題を見つけたとしても無用に事を大きくせず、きっと自身らで処理されるはずと見守るであろうよ。皆が賢明な行動をすると妾等は疑わぬがの」
「あまり他校、自校と拘らずにいきたいものだが、なかなか難しいようだな」
紅茶を飲み終え、優子が大きく息をつく。
「どうぞ」
折れたペンの代わりのペンをオレグが差し出す。
「ありがとう」
礼を言って受け取り、書類に軽くペンを走らせた後、優子はラズィーヤに目を向けた。
「それでは、先遣隊メンバーの選考に移らせてもらう」
ラズィーヤの頷きを確認した後、優子が凛とした声を発した。
「既に目を通したと思うが、配布した資料について簡単に説明しよう。こちらは百合園女学院の外には持ち出さないでくれ」
資料の中には大まかな離宮の地図と地図に記された地点についての簡単な情報が書かれている。
宮殿は地図の中央辺りに描かれており、北側には使用人居住区が描かれており『危険地帯、鏖殺寺院兵器残存の可能性高し』と記されている。
宮殿の西側には宝物庫が。東側には王族の私室があったようだ。
離宮の敷地を囲むかのように、端に東西南北に塔が建てられている。
その一つ、西の塔が丸印で囲まれ『マリザ』と名前が記されている。
「騎士の一人、マリザの封印が先日解除され、西の塔に人物や物資の転送が可能になったようだ。まずは先遣隊として25名ほど離宮の敷地内に転送してもらう予定だ。うち5名の者に敷地内を調査してもらう。離宮には魔女や吸血鬼、その他知的生命体が生存している可能性もある。調査はきわめて慎重に行って欲しい。塔に残る者は今後の調査、戦闘に備えて陣を築くこととする」
誰もが真剣な表情でメモをとっていく。
「重点目標としては、生存者の確認。敵の数と支配地域の確認。建物を含む正確な状態の確認でしょうか」
オレグはパソコンを借りて、手書きの地図と情報をまとめていく。
「離宮に関する伝説や伝承などが残されているようでしたら教えていただきたいのですが」
オレグはラズィーヤとソフィア・フリークスに尋ねる。
「蔵書を確認しましたが、今のところ離宮に関する情報は見つかっていません。引き続き探させますわ」
「記憶があいまいなところがあるのですが、ご質問いただければ何か思い出すかもしれません」
ラズィーヤとソフィアはそう答えた。
「今回のこの依頼は、6首長家のヴァイシャリー家から契約者の皆への依頼だ。ヴァイシャリー家と深い結びつきがある百合園女学院が取り仕切らせてもらっており、事務局長と指揮官の私の指示には従ってもらわなければ困るが、集まったメンバー達の中で百合園生が偉いわけではない。作戦においては教導団やクイーン・ヴァンガードなど、武術の訓練を受けている者達に率いてもらうことも多いと思われる。どうか皆の力を貸して欲しい」
皆に頭を下げた後、優子は蒼空学園生が座る席に目を向ける。
「先遣調査隊のメンバーを決めたいのだが、その前に立候補者の人数を確認しておこうか。手を挙げてくれ」
手を上げたのは27人の若者だった。
「意欲的だな、感謝する。では適正を知りたい。蒼空学園所属者から、志願理由や考察を述べてもらおうか」
身体能力や武術の実力だけでは、精鋭5名に選ばれることはないだろう。
緊張感が漂うなか、最初に挙手して立ち上がったのは、一連の事件において的確な意見と行動で白百合団を助けてきたアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)だった。
アルフレートは臆すことなく語り始める。
「アルフレート・シャリオヴァルトだ。……学園まで手を伸ばしてきていた闇組織、知らず関わってしまった生徒……血の繋がった肉親を告発しなければならなかった者……怪盗として追われながらも何かを伝えようとしていたファビオ……一連の騒動、その一因が離宮にあるというのなら私はそれを解き明かし、根絶したい……これ以上、傷つく者を出さないように……」
決意が込められた強い瞳でそう言う。
「テオディス・ハルムートだ。アルフレートのサポートとして、簡単な魔術や治療行為を行いたいと思う」
パートナーのテオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)も立ち上がる。
「探索については……封印後の生物がどうなっているのかも気になるが、場所としては北の、占拠されていたという居住区を調べてみたい……寺院の手に落ちていたんだろう? 当時離宮を攻めようとしていた寺院の者達、兵器、離宮への侵入方法など、完全に廃墟と化しているのか、今も機能している部分があるのか、直接封印に関係しない場所かもしれないが……一度確認しておきたいと思う」
「そうだな。……とりあえず、北の居住区を確認しておきたい。残党が残っているようなら、後で送り込まれる本隊の編成なども考えなければならないかもしれないから」
アルフレートとテオディスがそう提案し、優子が頷く。
「確かに。だが、そこにこそ知的生命体、兵器が眠っている可能性が高く、もっとも危険な場所といえる。深入りはしないようにしないとな」
頷いて、アルフレートは着席をする。
「……ファビオ……生きているならこの探索のどこかでまた現れるだろうし、もし、本当に死んだのなら……弔い合戦に……」
彼女が小さく口にした言葉に、テオディスは小さな声でアルフレートに語りかける。
「……今の時点では、彼の生死は何とも言えない……ただ、離宮と無関係だとは思えない。離宮を追っていれば、その消息も知れるんじゃないか……? わからないことは、今は置いておこう……目の前の問題に集中、だ」
頭をぽんと叩くと複雑な顔でアルフレートは頷いた。
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