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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「これがバレンタインに彩られた街か……」
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はピンクのハートや赤のハートでデコレーションされた町並みを見て、感慨深げに呟いた。
 今まで剛太郎はこういったイベントに縁がなかった。
「あの頃は下らないと無視していたものだ……」
 相手もいなかったし……。
 と、心の中で思いながら、剛太郎はもう一度、町並みを見る。
 自分が縁が無いときは心のどこかで羨ましいと思っていたが、今はそんな風には思わない。
 なぜなら……。
「どうかしましたか、剛太郎様?」
 コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)の透き通るような声に、剛太郎は少し照れながら振り返る。
「あ、いや。バレンタインと言うのはさすがに二人連れが多いなと思っていただけだ」
 普段は〜であります、と話す剛太郎だが、今日はコーディリアと2人きりなので、普通の口調に戻っていた。
 それは、コーディリアを『剣という武器』として見ているのではないという事を、剛太郎自身まったく気づいていない。
「確かに多くございますね」
 コーディリアは同意し、剛太郎と並んで歩き出した。
 2人はそのままツァンダ商業組合オススメの公園を入り、スキーでの話や、最近和食に凝っているなどの話をして、楽しく歩いた。
「バレンタインというのは、このように2人で外出するものなのでしょうか?」
「そうだと思う。教導団でも多くのカップルが出かけているし……」
「バレンタインの日に出かけるのはカップルなのですか?」
 コーディリアの質問に、パッと剛太郎の顔が赤くなる。
 何気なく言った言葉だが、それだとまるで自分たちもカップルだといっているようだったからだ。
「あ、いや、そのようなつもりでは……」
 剛太郎の顔は赤くなっているが、コーディリアは無表情な方なので、顔からは意思が読み取れない。
 だが、コーディリアは周囲の人たちを見回し、こう言った。
「こういう日は手を繋ぐものなのでしょうか?」
「えっ」
 コーディリアの質問に剛太郎は慌てる。
 不測事態発生だ。
 戦いに身をおいてきた剛太郎であるから、これがテロなどであれば、もっと対応が早くできるだろうが、事が事だけに、恥ずかしさが先に立ち、うまく対処法が思いつかない。
 一方、質問したコーディリアも実は緊張していた。
 剛太郎に誘われた時、「(剛太郎様、まさかデート??)」とドキドキしたのだ。
 バレンタインの準備をしていたコーディリアはツァンダに向かうときから緊張していたのだが、周りのカップルのようにうまくカップルらしいことが出来ずに……。
 なんとか出た言葉は、剣の花嫁だから、世間知らずかのように見せて出た質問。
 ドキドキしながら剛太郎の言葉を待っていると、剛太郎は頷いた。
「日本の言葉に、郷に入っては郷に従えという言葉がある。我々も周囲の状況に従うべきだろう」
 剛太郎はそう結論付け、コーディリアの手を繋いだ。
 コーディリアはうれしくなって、そのままずっと手を繋いで歩いた。
 そんな感じで、1日ツァンダを歩き、教導団に帰ると、剛太郎はコーディリアに『お手製の頭につけるリボン』をあげた。
「いつも感謝している」
 剛太郎はそうお礼を言いながら、コーディリアの髪にリボンをつける。
「私からも……」
 コーディリアはチョコとプレゼントを剛太郎に渡した。
「これは?」
「一つはチョコで、一つは秘密です。後でお一人であけてくださいね」
 小さく微笑を浮かべたコーディリアは、どこかちょっといたずらっぽい表情でもあったのだった。


「涼が買い出しに行くなら付いてく!」
 リリィ・ブレイブ(りりぃ・ぶれいぶ)の言葉に、虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は目を瞬かせた。
「お前がついてくるなんて珍しいな。買い出しって言ったって、単に買い溜めした食材が無くなったから買いに行くだけだぞ?」
「うん、いいよいいよ、行く行く!」
「まぁ、そんなに行きたいなら別にいいが……夜だからな、離れるなよ」
 涼はリリィの様子がどことなくおかしいと思いながら、一緒に買い出しに行った。
 
「よし、これで大体OKだろ。戻るぞ、リリィ」
 スーパーを出た涼がさっさと歩いていく。
「ちょ、ちょっと待って」
 まっすぐ帰ろうとする涼をリリィがあわてて呼び止めた。
「どうした?」
「あたしさ、ちょっと寄りたいとこがあるんだけど」
「どこだ、それは……」
 昼ならともかく、夜にリリィだけ行かせて先に帰っているというわけには行かない。
 涼はあきらめて、付いていってやることにした。

 リリィの行き先は夜の公園だった。
「ここになにがあるんだ?」
「今日は特別にライトアップがされてるんだよ」
「特別?」
「そう。だって今日はバレンタインだもん」
 その言葉に涼はあっと今日が何の日だったか思い至る。
 そして、そんな涼の前にすっとリリィがチョコを差し出した。
「あ……う……は、はいこれ!」
 言葉に詰まりながら、リリィはなんとかチョコを渡した。
「な……お前、これ……!」
 恥ずかしくなりながら、それを抑え、涼がリリィに尋ねる。
「誰かに渡してくれとかじゃないよな?」
「あ、あんた以外に誰にやるっていうのよ!」
 馬鹿……とでも拗ねたそうに、リリィが怒る。
 すると、ちょうど公園の中を動いていたスポットライトが二人に当たり、リリィも涼も恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
「わ、分かった。ひとまず行こう!」
 涼はリリィの手を取り、その場から逃げ出すように走り出した。
「あ……」
 手が触れてリリィは顔を赤くしたが、同時に少し不安にもなった。
(本命チョコって分かったかな……? それに、ありがとうって言ってくれないってことは、もしかして迷惑だったかも……?)
 幸せと不安が混ざった気持ちで、リリィは涼に手を引かれて帰っていった。