リアクション
○ ○ ○ ○ 根城に戻ったサルヴァトーレは、携帯にメールが届いていることに気付いた。 メル友になった、百合園のとある少女からだ。 軽く口元に笑みを浮かべた後、そのメールの確認は後回しにし、組織へと電話をかける。 「……魔女の胸を撃ち抜きましたが、何者かに連れ去られました。組織側の人物と思われます」 その報告に関し、組織側からは、魔女の死体があがった場合、サルヴァトーレと配下の元達の功績とし組織本部に迎え入れると約束をする。 あがらなかった場合も、その実行力、統率力を認め以前の拠点のマスターに推薦するとのことだ。そのキマクの拠点では盗賊ギルドを兼ねた酒場をオープンする予定とのことだった。 その酒場は組織の拠点ではなく、組織の取引先という扱いになるらしい。 ○ ○ ○ ○ 「やっぱりこの方が可愛いよぉ〜? ぜったいこの方がいいよぉ〜?」 馬車の荷台で、イリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)は世話をしてくれているイル・ブランフォード(いる・ぶらんふぉーど)の頭にリボンを結んでいた。 イルは獣人の男だ。リボンは似合うはずもないが、イリィは可愛い可愛いと絶賛する。 「……そうか……ありがとな」 飴をあげれば、包み紙をリボンにして、チョコレートを上げれば、包み紙をくしゃくしゃにして花だといい、イリィはイルを飾っていた。 無邪気で全く怯えのないその様子に、イルは少し困りながらもずっと優しく接していた。 荷台には2人の他に、悠司と同じ立場にある組織の下っ端が2人護衛についている。 「そーいや、あのガキを研究するとか言ってたっすけど、どんなことするんすかね?」 御者台には高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)と悠司の兄貴分に当たる男がいる。 「なんだ情でも移ったか?」 「……あー、いや、情が移ったとかじゃなくて、何年かすりゃ売り物になったのに殺すのは勿体ないなーなんて」 「すぐに殺しゃしないだろ、貴重なサンプルだ。とはいえ、もう何体か手に入ったら解剖とかしちまうかもな」 「そうっすか……っと、あれが研究所っすかね」 悠司が示す先に、キマクにしては立派な建物がある。高い鉄柵に囲まれたコンクリート製の建物だ。 上空からの侵入を防ぐためか、上部も鉄線で覆われている。 「ああそうだ。報酬が楽しみだな! てめぇの手柄は俺の手柄でもあるからな、悠司」 兄貴分の男が笑みを浮かべたその時だった。 「ヒャッハー!」 「積荷置いていけや!」 突如現れた蛮族風の男達が馬に銃弾を浴びせる。 馬の足が撃たれ、横転して馬車は止まった。 「金目のモンはねぇ! 見てわかんだろ!!」 「ヒャッハー!!」 叫ぶ男を突き落とし、男達が縄で縛り上げていく。 「マジで金目のモンねぇぜ〜!」 荷台の中をさらりとみた男がそう言う。 「そんじゃ、一番偉そうなコイツ連れてって、身代金もらうぜ!」 「ヒャッハー!!」 男達は歓声を上げると、兄貴分の男を引きずって去っていった。 「兄貴ぃぃぃぃぃぃ!!」 悠司は、地面に膝をつきながら、叫び声を上げる。 ……あっと言う間の出来事だった。 きちんと説明は受けていなかったが、誰の仕業かは解っている。 悠司は擦りむいた足を、大して痛くもないのに大げさに引きずって、荷台の方に向う。 「無事か……」 「……大丈夫、だ……」 「あにきぃぃぃぃ? かわいい?」 イルの腕の中で、イリィはきょとんと大きな飴を舐めている。 「とりあえず、届けようぜ」 護衛についていた少年2人がそう言う。 「そうっすね。急ぐっすよ」 悠司がそう答え、イルがイリィを抱き上げ、一行は研究所に向かって走る。 ○ ○ ○ ○ 「兄貴、連れてきやしたぜ!」 「物取りのフリしてな!」 「てめ、大げさすぎんだよ」 舎弟の男達が、ハーフフェアリーを護送していた男を朱 黎明(しゅ・れいめい)の前に投げ捨てる。 「ご苦労様です。後は任せて下さい。今晩の宴会は私の奢りです」 黎明がそう言うと「ヒャッハー」と歓声を上げて、舎弟達はバイクに乗り込み酒場へと向っていった。 縄で縛られ、倒れている男を黎明は引っ張り起こす。黎明の実年齢と同じ年くらいのシャンバラ人の男だ。 「く……っ。何が目的だ」 擦りむき、血を流しながら男が問う。 「貴方の所属する組織について、教えてもらいましょうか」 「組織ぃ? 行き着けの店のことか。ツァンダにあるぜ、いい女が沢山いる」 冷ややかな目で黎明は何も言わず、男を見続ける。 「……なんのことかわからねぇが、わかったとしても、ヤバイ組織なら言った時点で暗殺対象になるから言えねぇだろうが」 そう、小さな声で男は呟く。 黎明は拳銃型光条兵器を取り出して、男の頭に銃口を突き付ける。 男が、息を呑む。 「無理、だ」 男が体をひねって手を見せる。その手に鏖殺寺院の紋章が浮かび上がっていた。 「名前は?」 黎明の問いに、男は「シッター」と答えた。 「では、シッター。貴方を愛している人間はいますか?」 「妻と子がいる。帰って餌をやらねぇと……」 「……」 覚悟を胸に、黎明は引鉄を引いた。 銃声が1つ、響き渡った。 ……パラミタでは珍しくない、音だ。 |
||