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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

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第5章 会議

 離宮からの連絡が途絶えて、数日が過ぎていた。
 まずは百合園生への離宮浮上に関する説明を行い、生徒達へ近隣住民へ避難についての説明に行かせている。
 ラズィーヤはヴァイシャリー家に連なる貴族達への説明などに明け暮れており、百合園女学院に顔を出すことはなくなっていた。
 貴族達は家屋敷を失う可能性に対して全く納得できないらしく、こちらの説明はかなり難航している。
 それだけではなく、大きな事件が発生した関係で、ラズィーヤは外出が出来なくなっている。
 そのため本部ではラズィーヤ抜きで会議が行われることになった。
「あれから一度も繋がっていません」
 連絡係を務めているセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が、会議で通信状況についてそう話す。
「こちら以外でも、通信回復の手段を持っている人物に相談をしたいのですが、情報を提供してもよろしいでしょうか? 信頼は置けるとは思います」
「その方が本部にとって信頼のできる人物であるのなら、是非方法をお伺いし、こちらで検討の上お願いしたいです。まずは、本部に連れてきてください」
 議長を務めている伊藤 春佳(いとう・はるか)がそう答える。
 勝手に連絡をとったのでは、内通者を探っている人物にセラフィーナが怪しまれて、セラフィーナが監視されることになってしまう。特にパートナー通話で情報を得られる立場にある人物は、注視されているとも言える。
 その人物に意見や協力を求めるには、本人が本部へ協力をしてくれるしかないのだ。
 よくはないと思いつつも、セラフィーナはパートナーと連絡がつかないということだけは、既にその組織に加わらず、単独行動をしている人物――レン・オズワルド(れん・おずわるど)に連絡を入れていた。
(ワタシの身に何もないのが元気な証拠なのですが……)
 パートナーの鳳明のことを思い、セラフィーナは表情を沈ませて、深いため息をつくのだった。
「ファビオさんは携帯電話を所持した状態で、電波の届かない場所にいるようです。充電もされているようです」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、ミクル方面の状況報告をする。
 今日の会議には、6騎士の1人、マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)も出席している。
「パラミタで携帯電話が繋がるのはこのヴァイシャリーなど都市だけですので、電波の届かない場所ということは都市にはいないということだけしか判っていないのですが……。あとは、離宮にいる可能性もあるのではないかと考えています」
 ソアは自分の考えを述べていく。
「こちらでお聞きした話から、離宮には知能を持つ敵が潜んでいる可能性が考えられます。もし、現在も活動している鏖殺寺院のメンバーが潜んでいるとすれば、敵の支配しているエリアにファビオさんは連れて行かれているのかもしれません」
「ファビオさんを連れ去った人物が、テレポートの使い手でしたし、その可能性がないとは言えませんね」
 春佳がそう答えて、一つの可能性としてホワイトボードに書き込んでいく。
「……まったく、ファビオとやらはみんなに心配をかけ過ぎだな!」
 ファビオを案ずるソアや、ミクル、そしてヴァイシャリー家に集まっている人々、ここにいる人々の姿に雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は腹立たしさまで感じる。
 無事に見つかったのなら、何としてでも皆の前に連れてこようと心に決める。
「で、その離宮だが、ソフィアは帰ってきてないみたいだけど、他に転送方法はあるのか? 転送術の使い手なら、テレポートが可能だろうけど。現代の鏖殺寺院に離宮について把握している人物がいるのなら、離宮に出入りも出来るんだろうな」
 ベアは腕を組んで考え込む。
「こちらとしても、ソフィア以外に転送術の使い手がいれば良かったんだがなぁ……」
「ソフィアさんほどの転送術の使い手にそう簡単に起こしいただくことは出来ないのですが、未熟ではあっても、その力を行使できる人物なら、既にお招きしています」
「未熟とは心外だな。ま、否定は出来んが」
 春佳の言葉に、そう反応をしたのはエリオットだ。
「彼はイルミンスールでエリザベート校長の下、転送術なども学んでいる術者です。転送を行う為の準備時間が必要ですけれど、整い次第試す予定です」
「そうか、それなら出来るだけ早く行って、情報を交換しないとな!」
 ベアの言葉にソアが頷きながら、ほっと笑みを浮かべる。
「少し安心しました。まだ目星がついていなかったら、どうしたら……と少し思っていました」
 エリオットは少女の純粋な笑みに、心中複雑ながらも「任せておけ」と頷いておく。
「離宮に残っている方々のリストと最新の地図です」
 オレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)が、プリントアウトしたリストと地図を皆に配る。
 最後の通話までで、伝えられていた人員の配置についても地図に記入されている。
「ソフィアさんが今回離宮に向ったタイミングで通信が行えなくなっています。その状態であるのに、戻ってこないことから、ソフィアさんが何か行動を起こしたと思われますわ」
 副本部長の神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)がそう発言をする。
「その状態だからこそ戻ってこられないとも考えられます。敵が罠を張っていて、ソフィアさんが到着と同時になんらかの一斉攻撃を加えて全員を離宮に封じ込めたとか」
 春佳がそう意見する。
「これまでの言動から、私はソフィアさんは離宮を浮上させ、ヴァイシャリーに打撃を与えることが目的で動いているのではないかと考えています。またそれは最終目的というより別の誰かの活動のための準備に過ぎないと思われます」
 エレンがそう意見し、会場がざわめく。
「打撃って……? ここに来たの初めてだから、詳しいことは分からないのだけど。なんだか私達敵視されてる?」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)に同行して訪れていたマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)が、隣に座るコウに囁きかける。
 封印解除に関しては、マリザ達他の6騎士も概ね賛成をしている。
「ソフィアの言動を怪しんでいた人がいたみたいだな」
 コウはそうとだけ返しておく。
「確かにラズィーヤ様も、ソフィアさんが何かを隠しているようだとお考えでしたが、携帯電話の利用も含め、ソフィアさんが外部と連絡をとった形跡は全くなく、パラミタの未来の為に身を粉にして尽くそうとされていました。疲れ果てた状態で、今回の転送も行ってくれました。その誠実な姿を疑問に思う者など一般の協力者の中にはおりません。彼女だけをそこまで疑ってしまったら他の誰をも信じることが出来ません。それに、百合園の生徒とパートナー契約もされましたし」
 春佳が眉を寄せながら言った。
「百合園生の桐生円さんと契約を結んだのは、私は彼女を人質にするためと考えておりますわ。契約するより前に円さんが……決定的な人質にならないことを、ソフィアさんに伝えてあります。ですので、戸惑わせての時間稼ぎが狙いではないかと思います」
 エレンの言葉に、春佳も集まったメンバー達も難しい表情を見せる。
「現状、通信が繋がらなくなったということと、ソフィアさんが帰ってこないというだけですが、ソフィアさんが裏切り行為を起こした『可能性』についても考えられなくはありません」
 オレグがそう言い、エレンが頷く。
「あらゆる可能性を考慮し、どの想定に対しても速やかに適切な処理が出来るように対処を構築しておかねばなりませんわ」
 エレンの言葉に頷いて、オレグがこう言う。
「万が一、ソフィアさんが鏖殺寺院と繋がっており、裏切り行為を起こしていたとしても、単独で叛を起こす可能性は低いと思われます。黒幕は別にいると考えるのが自然でしょう」
 そして、礼をするとオレグはパソコンの方に向っていく。
 女王の血を引く人間で、ソフィア嬢と接触をしていた人間。離宮の探索隊に参加しているが、地上でも離宮の情報を知りえる人間。
 その辺りの洗い出しをして、怪しい人物のピックアップに努めていく。後ほどラズィーヤのみと相談をする予定だった。
 オレグの言葉をエレンが引き継ぐ。
「その場合、ソフィアさんは敵の情報をもっとも持っている存在であり、こちら側につかせられれば敵の計画をひっくり返すことも出来ますわ。もちろんそうできるのが理想であって絶対それがなされねばならないとするわけではありません。その工作は、桐生円さんが彼女に影響を与えると期待していますわ」
「もしそうならば、逆に桐生さんの方が丸め込まれたり、騙される可能性の方がはるかに高いのではないでしょうか。年齢も一回りくらい違いますし、ソフィアさんの方が巧みに感じられます」
「それも尤もなお言葉ですわ」
 そう言った後、エレンは対処の提示に移る。
「裏切りではない場合をも想定した対処として、女王器とジュリオ・ルリマーレンの保護さえ出来れば、離宮自体は今浮上させる必要はありません。ですので、優先順位をヴァイシャリーの防衛を第一として、離宮は浮上させず一端破棄するとして離宮調査隊の救出、離宮内の女王器回収、ジュリオさんの保護の順位に活動を切り替えることを提案いたしますわ」
「問題の対処をまた未来に回すということね。通信が繋がらなくなっただけだから何ともいえないけれど、状況が悪いようならば、そうすべきですね。ただ、封印が中途半端に解かれている現状だと、内部に知能をもった存在がいた場合、なんらかの行動を起こす危険があります。再封印を施さなければならず、その場合ジュリオさんに代わる人柱が必要になってしまわないかしら?」
 言って、春佳はホワイトボードに、優先順として『調査隊の救出』『ジュリオの保護』『女王器の回収』と書き込んだ。
「そうね。封印をするのならそれなりの力をもった人物が離宮に残ることは必須よ。6騎士が揃わないのなら、6騎士全員分を1人で行うことが出来る人物……いうなれば、離宮の統治者……女王の血を引く人ってところかしら」
 マリザが記憶を手繰り寄せながら、そう言った。
 女王の加護下に存在した離宮。その離宮を封印するには、女王に縁のある存在が必要だ。
 複雑な顔で、春佳はその言葉をボードに書き記していく。
 ヴァイシャリー家の当主やラズィーヤを失うわけにはいかない。
 とするのなら、比較的濃い血を引いているのは……ラズィーヤの兄弟。
 菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、ラズィーヤの実弟であるレイル・ヴァイシャリーの姿を思い出し、不安気に顔を見合わせた。公の場に現れていない彼ならば、いなくなっても混乱は起きないだろう、けれど……。
「女王の血を引く方を離宮に送る際には、私も同行するわ。その方をお護りするのは、騎士であった私の仕事だもの」
 そう、マリザは決意をする。