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リアクション
ママとママと娘の里帰り
東京駅についた秋月 葵(あきづき・あおい)たちは、いきなり黒服の一群に取り囲まれた。
「秋月葵様ですね」
「うん、そうだよ」
平気で答える葵のスカートの裾を、秋月 カレン(あきづき・かれん)は不安げにぎゅっと掴んだ。そのカレンの頭を葵は大丈夫だよと撫でる。
「梓お姉さまが迎えをよこしてくれただけだから」
「迎え……?」
「うん。だから心配いらないよ〜。SPの皆さん、お疲れ様〜」
「ねぎらいありがとうございます。梓様がお待ちかねです。一緒にいらしていただけますね」
ほとんど拉致のように黒服に囲まれて、葵たちは車に乗せられた。
はじめは落ち着きなく周囲を見回していたカレンも、そのうち、車窓から見える景色に夢中になった。パラミタとは違う風景は、カレンの目には何もかも物珍しい。
窓の外を指差しては、これは何、あれは何と尋ねるカレンに、葵とエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は代わる代わる丁寧に説明した。
その合間に、葵は苦笑まじりのため息をつく。
「ほんとにもう、梓お姉さまは心配性だよね。エレンがいるんだから、迎えなんかなくたってちゃんと帰れるのに」
「それだけ葵ちゃんを大切に思っているということですよ」
答えるエレンディアも、葵大事なところは負けていないのだけれど。
やがて、3人を乗せた車は静かに秋月家の私邸の前に停止した。
玄関を開けると、そこにはメイドがずらりと並んでいる。
「お帰りなさいませ。葵お嬢様」
「ただいま〜」
一斉に頭を下げるメイドの間を通り抜け、葵たちはこの帰省を恐らくもっとも楽しみにしている人物……葵の姉である秋月 梓の部屋へと向かった。
「ただいま〜、梓お姉さ……」
「葵! お帰りなさい。元気そうで良かったわ」
「ちょっ……梓お姉さま……息、できない、よ〜」
長身でグラビアモデル並みのプロポーションをした梓にぎゅうぎゅうと抱き締められ、顔に押し付けられる胸で葵は気道を塞がれた。秋月家の姉妹は、梓、茜、葵の3人なのだけれど、葵以外の2人はどちらも背が高いのだ。
息苦しくて葵はばたばたと手を振り回すけれど、感動の再会にひたっている梓は気がつかない。
「梓義姉さま、それでは葵ちゃんが窒息してしまいます」
見かねたエレンディラが注意すると、梓は慌てて葵から手を離した。
「ごめんなさい、つい……葵、大丈夫だった?」
普段は生真面目な梓だけれど、葵を前した時だけはこういうシスコンっぷりを発揮したりもする。
「うん。あらためて、ただいま、梓お姉さま」
葵は笑って身を離すと、一緒に帰ってきた2人を梓に示した。
「梓お姉さまはエレンとは面識あるよね」
「ご無沙汰しております。梓義姉さま」
エレンディラは礼儀正しく頭を下げた。普段から礼儀正しいエレンディラだけれど、今日は葵の実家訪問。緊張もあっていつもよりも丁寧さが増している。
「それからえーと、この子が前に言ってたカレンちゃんだよ〜、可愛いでしょう」
葵は自慢げにカレンを前に押し出した。それまでは葵の後ろに隠れるようにしていたカレンは、ちょっとおどおどしながらも梓に挨拶する。
「ご……ごきげんよう……カレンなの……」
「婚約者だけでなく子供まで作ってくるとは思わなかったけど……葵の言う通り、可愛い子ね。2人ともいらっしゃい。くつろいでいってちょうだいね」
梓はメイドにお茶の用意をさせると、3人をお茶の席に誘った。
「そういえば茜お姉さまは?」
「茜はタイミング悪く、入れ違いでパラミタに行ったわ。あの子も葵に会いたがっていたのにね」
秋月家次女の茜は、エレンディラの兄と結婚している。秋月財団の総帥として日々忙しい梓を手伝い、パラミタと日本を行き来しているのだが、今は葵とすれ違いに、エレンディラの実家のノイマン家に里帰りしているのだと梓は説明した。
「そうなんだ〜、残念」
そう言いながらお茶を飲む葵の姿に、梓は目を細める。
「葵はこっちにいたときより元気になったのね」
「うん。向こうもいろいろあるけど楽しいよ〜」
ね、とにこにこして葵はエレンディラとカレンに同意を求めた。
そんな様子に安心と、ほんのわずかな寂しさを感じながら、梓はエレンディラに向き直る。
「エレンディラさん……これからも葵をお願いしますね」
「はい。葵ちゃんのことは任せてください」
地球での仕事があって葵の近くにいられないのはさぞ心配だろう。パラミタにいる間、少しでも梓に安心してもらおうと、エレンディラはしっかりと梓の言葉を受け止めるのだった。
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