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リアクション
第三章 大奥茶会4
茶席のあちこちでは、おべっかとも中傷ともとれるような会話が女官たちの間で繰り返されていた。
将軍貞継はそんな女の戦場から逃れるように、男の警護をつれて庭を歩いている。
「ちょっと羨ましいですけどね、マホロバ将軍とは。一体この大奥は、どれだけの女官がいるのです」
シャンバラ教導団からやって来たという戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、将軍一行と茶会を同席していた。
マホロバは彼が居たところとは違い、随分平和……に見える。
「巷では大奥美女三千人といわれているそうだが、実際は一千人程だろう」と、将軍。
「一千人だと? それでもさすが一国の頂点に立つ男は違うな。そんだけ居たら毎晩とっかえひっかえじゃねえか」
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はこの話題に身を乗り出した。
「誤解しているようだが、将軍でも大奥を好きにはできないぞ。守る掟はたくさんあるし、実際に手付けとするのは御花実という選ばれた娘たちからだ」
「でも、その他の女官や娘も見初めて良いのですよね」
「まあ……だがその場合、嫉妬や権力闘争で他の女官らから虐め抜かれるときく。そうなっても男の将軍にできることなど限られよう」
男たちは凄惨な女の争いを想像して、ぞっとした。
「しかし、もったいねえな。世の中のでかぱい、ちゅうぱい、ちぃぱいの内、三分の一はスルーかよ」
牙竜は気を取り直し、持参したファイルをパラパラとめくっている。
小次郎はそれが教導団女生徒プロファイルだと一目で分かったが、彼の名誉のためにあえて黙った。
「その件で私も気になっていたのですがね。自分の好みが如何にあろうとも、卑下するのは将軍としてどうなのでしょう。相手を否定すれば傷つくでしょう」
「牛鬼のことか?」
将軍は抱き上げた猫を撫でながらいう。
「否定も卑下もしてない。ただ、受け付けないだけだ」
「それがまずいんだって。まあ、ちぃぱい派の俺としては、将軍とは気が合いそうだけど?」
「おいおい、昼間っから男同士で何話してるんだ……オレも混ぜろ」
篠宮 悠(しのみや・ゆう)は、ぼさぼさの髪を掻きながらやってきた。
「実は紹介したい女が居るんだ。タカモト、隠れてないでこっちに来い!」
悠が手招きする先には、美人三姉妹のタカモト・モーリ(たかもと・もーり)、モトハル・キッカワ(もとはる・きっかわ)、タカカゲ・コバヤカワ(たかかげ・こばやかわ)の姿があった。
「……タ、タカモトと申します。お初にお目にかかれて、こ、光栄でございます」
長女のタカモトは真っ赤になってうつむいた。
「貞継様を大奥で拝見して以来、ず、ずっと……お慕い……ああ、駄目です。恥ずかしくて言えません」
両手で顔を覆い、今にも逃げ出しそうだ。
モトハルとタカカゲの「姉様頑張れ!」の声が小さく聞こえる。
仕方なく、悠がタカモトの代わりに告白した。
「将軍に一目惚れしたらしいぞ」
「三人とも献上するのか?」
「ちがっ……んな訳ないだろ。結構欲張りだな」
そう男たちが騒いでるところへ、ひとつ球が転がってきた。
追いかけてきたのはスウェル・アルト(すうぇる・あると)である。
彼女は貞継の前に来ると球を手にとり、一緒に遊ばないかと誘った。
「卵で子供を生むってこのくらいの大きさ?」
無邪気に問うスウェルに貞継は苦笑していた。
「どうだろう、まだ見たことがないからな」
「将軍は子供のころどんなだったの? まだ十五だよね、私と同い年だもの。私の国ではね、十五歳は子供なんだよ」
「十五で子供……」
貞継は普段から自身の童顔で痩身な形姿を気にしているらしく、常々大人のように振舞っていた。
今回もまたそのせいだと周囲は思った。
「子供のころは思い出せないな」
貞継の憮然とした表情に、悠が慌ててフォローを入れる。
「将軍様は別に童顔じゃないと思うぜ。年相応というか。背だって、もっと伸びるだろうし」
「真に十五歳ならな」
将軍は含みのある物言いをし、スウェルと球遊びを始める。
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「やれやれ。愚痴っても仕方ないが、ただの連絡役といういのも暇だな」
豊かな胸を持つ武神 雅(たけがみ・みやび)は将軍の機嫌を損ねたくないと、庭の隅で待機をしていた。
「将軍様の牛鬼嫌いも困ったものだが……ん?」
彼女は怪しい人影を、天狗の姿を目撃した。
警鐘の音が鳴り響く。
「天狗だ! 天狗が出たぞー!!」
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