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冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/全3回)
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第3章 完全に観光する気まんまんのモノ・その2



 東に真面目に語る人あれば、西にある種真面目に語る人在り。
 こちらのボックス席ではゲー・オルコット(げー・おるこっと)とパートナー達が語らってる。
 話題は今一番HOTな話題『駅弁』についてである。
「駅弁は美味いとか不味いとかじゃないんだ。列車に揺られて、そこでしか食えないものを食べる……、そう、シチュエーションってのが大事なんだよ。それから、デザートはやっぱ冷凍ミカンだよな、うん。そこは譲れない」
「つまり……、ものを食べる時は誰にも邪魔されず、自由でなんていうか、救われてなきゃあダメだってこと?」
「……ねぇ、話聞いてた?」
 藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)的には、駅弁の話よりも駅弁そのものに興味がある。
「んで、弁当はどこ?」
「え……、ああ、うん……、それが駅の中探したんだけどなんか売り切れてたんだよなぁ……」
「はぁ? こんなしけた駅の弁当が売り切れるわけないじゃん! もっかい探してこいよ!」
「ええー……」
 その時扉が開いて、小型飛空艇アルバトロスに乗った光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が入ってきた。
 飛空艇には積載量ギリギリまで菓子・弁当・飲み物が搭載されている。
「……ありゃ、貨物車はここじゃなかったか。しまったのぅ」
 引き返そうとする翔一朗だが、弾丸のごとき速度でゲーが止める。
「おおっ! 車内販売! すいませーん、弁当くださーい!」
「はぁ? どこに目ぇ付けとんじゃ! 車内販売がこんなカッコイイ飛空艇使うか!」
「え……、違うのか」
 ゲーはガックリとうなだれた。
 もしかして駅弁なしで出発するはめになるんだろか……、それでは列車旅行の醍醐味が失われてしまう。
「……なんじゃ、あんたら。弁当買い忘れたんか?」
「うう、マジミスった……」
 翔一朗はそっと優しくその頼りない肩を叩いた。
「しょうのない連中じゃ……、どうじゃ、俺の弁当ならたくさんあるけん、一緒に食わんか?」
「なんてこった……、ナラカに仏とはまさにこのことじゃねぇか……、あんた、マジ天使だぜ……!」
 
 
 ◇◇◇


「さぁて、あんたら! 好きな弁当を選ぶんじゃ!」
「んじゃ、それがしは味はともかくお腹にたまるもので。駅弁によくあるよーな妙に量が少ないようなのは、絶対ダメだかんね。腹が減っては戦が出来ぬって言うじゃん、長旅には質より量だよ、やっぱ。あ、デザートは冷凍ミカンで」
 そんな竜乃のために、翔一朗が選び出した弁当は……。
「特盛り牛頭弁当じゃ! 凶暴な雄牛の肉を玉葱と一緒に柔らかく煮込んだ一品なんじゃぁ〜〜!!」
 続いて、ゲーの物静かなパートナー、ドロシー・レッドフード(どろしー・れっどふーど)
「駅弁については、別に脂っこくなくおいしければどうでもいいです。デザートは冷凍ミカンでお願いします」
「まったくミカン好きな連中じゃ」
 不敵に微笑み、そしてどんと弁当を取り出す。
「それ、あんたにはマンドラゴラと十六穀米弁当じゃ! 20代女子に大人気のヘルシーサラダ弁当じゃけん!!」
 そうして弁当を食べ始める一同。
 話題は自然と、今一番HOTな話題その2、『御神楽校長救出大作戦』となった。
「校長の救出は説得や正攻法じゃなく、相手を騙して裏をかくようなさ、外法の上手くいく様な気がすんだよなー」
「下法って言うかさ、『ナラカの沙汰も金次第』と言う言葉もあるくらいだし、やっぱ金じゃん。金の力でスマートに解決するのがベストって感じだよね。って言うか、そんな感じで生き返りそうじゃん、うちの校長なんだし」
 ほとんど悪ふざけに近いゲーと竜乃に対し、ドロシーは割りとシビアな見解だった。
「……私は校長の救出は、過去の神話や物語が示す様に失敗すると予想します」
「は? なんでよ?」
「死んだ人は生き返ったりしないものです」
「おまえ、英霊じゃなかったっけ……?」
 その突っ込みはスルーして、話を続ける。
「それでいいと思うんです、実はナラカも風光明媚で良い所なのかも知れませんし。校長は生きている間は色々な下らないしがらみに囚われて、休む暇もなかったはずです。今はナラカでゆっくり出来て、幸せかもしれませんよ」
「おう、風光明媚大歓迎じゃ!」
 ばくばく弁当にガッつきながら、翔一朗は答えた。
「……ってか、翔一朗はこの救出作戦をどう思うんだ?」
「そんなモンに興味はないけぇ。ただ心の底から遠足を楽しむこと……、それだけが俺の生きがいなんじゃ!!」
 ゲー達三人は感動したように彼を見つめた。
「な、なんて男らしい……!」
「……じゃろ?」
 ナイスガイスマイルを浮かべる翔一朗と緑茶で乾杯。
 彼らの旅は楽しくなりそうだ。
「しかし、長旅になりそうじゃけぇ、これだけじゃ足らんかも。おーい、トリニティ、車内販売とかしとらんのか?」


 ◇◇◇


 弁当の在庫が車内にあったはず。
 トリニティが取りに行こうとすると、ガラガラとけたたましい音を立て車内販売カートがなだれ込んで来た。
 何ごとか言わんとする彼女を、カートを運んだ女顔の少年が手で制す。
「あんたの手を煩わせるまでもねぇ、車内販売は俺に任せてくれ!」
「あなたは……?」
「名乗るほどのもんじゃねぇが、トライブ……、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ」
 ナラカエクスプレスの刺繍入りエプロンを翻し、ババッと格好良くポーズを決めた。
「しかし、お客様にそんなことをさせるわけには……」
「そんなこと気にしなくていい、俺はあんたと仲良くなりたくてやってるだけだから!」
「はぁ」
「俺はあんたと仲良くなりたくてやってるだけだから!!」
 大切なことなので二回言いました。
「俺の興味をそそるのは、トリニティ・ディーバ、あんたさ。ナラカエクスプレスの管理者ってことは、あんたも真っ当な人間じゃねぇんだろ……、あ、人間でも幽霊でも何でも、あんたがチャーミングな子なことは変わらないぜ」
「またまた、お世辞のお上手なお客様でございますね」
「いやマジだって。俺の基本は、興味が惹かれるか惹かれないかだけど……、あんたは中々、面白そうだ」
 ほかほか焼き肉インフェルノ弁当を片手に、トライブはトリニティに迫る。
「……て、わけだから、俺をナラカエクスプレスで雇わない?」
「はぁ」
「別に報酬はいらないし、仕事に文句もつけないし。何でもやるから手伝いさせてくれ!」
 そう言って、弁当コールをしているさっきの連中を指す。
「ほらほら、見ての通り一癖も二癖もある乗客共だ、一人で捌くにゃ骨が折れるぜ。物騒な連中も出てきそうだし、あんたを守る人間も必要だ。管理者のあんたが怪我すると、困る連中が大勢いるんだよ、だから、な、頼むよ」
 トリニティは無言で虚空を見つめた。
 なんだろう……と思ったが、どうやら上司になった自分を想像しているらしい。
「……それも面白そうでございます」
 上司になった自分を気に入ったようだ。
「では、ロックスター販売員、車掌見習い兼ガイド見習い兼車内販売員としてよろしくお願いいたします」
「商談成立だな。じゃ、しばらくの間よろしくな、ボス」
 そして、弁当に飢えた野郎共の元に「らっしゃーせー!」と販売に向かった。
 そこに遅れてやってきたのが、トライブの相棒ジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)である。
「うぐ……、ナラカエクスプレス、ですか。いやだなぁ。ボク、お化けとか苦手なんだけど……」
 奥から出てきた彼女は、何故だか販売員と化した相棒の姿に、なんとなくここであったことを想像した。
「……トライブがごめんなさい、トリニティさん。迷惑かけたら、ボクが懲らしめるから遠慮なく言ってね」
「構いません。労働とは意欲のあるものにこそ与えられてしかるべきですから」
 迷惑してなさそうなので、ジョウはほっと胸を撫で下ろした。
 とは言え、トリニティは無表情過ぎて、そもそも何を考えてるかよくわからないが。
「……ねぇ、トリニティさんはずっとここに一人でいたの?」
 ふと、ジョウは尋ねた。
「もし一人なら、それは凄く寂しいことだよ。人は一人でいちゃダメなんだ。だからもしトリニティさんが一人なら、ボクが友達になる……ううん、友達になりたいんだ。なんだか恥ずかしいこと言ってるね、ごめんなさい」
「いいえ、私のようなものに気を使って頂いてありがとうございます」
「でも、友達になりたいのは本当だよ。きっとトライブも同じ気持ちだと思うんだ」
 彼女の意をくんだのか、トリニティはそっと右手を差し出した。
「そうですか……、ではまずはビジネスパートナーとしてよろしくお願いします」
「……び、ビジネスパートナー?」
 戸惑いながらも、二人はビジネスライクに握手をかわした。