リアクション
卍卍卍 場所は変わって海京。 港の海鮮市場を歩く賑やかな四人組──いや、賑やかなのはその内の二名か。 「アルー、ワシ腹減ったぎゃ! どっかの居酒屋で飯でも食わないぎゃ? あそこが美味そうぎゃ!」 後ろでまとめた髪を跳ねさせながら、あそこあそこと一軒の居酒屋を指差す子供。見た目は子供だが実際は二十歳を越えている。地祇の特徴なのだが、すれ違う人達は『お父さんの真似をしている子供』を見るような、どこか温かな目で見ていった。 その場合、この見た目子供の親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)のお父さんはアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)になってしまうわけだが。 代わりに答えたのはヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)だった。 「真昼間から居酒屋が開いてるわけないでしょ。おばかさんね」 「ばかじゃないぎゃ! なぁ、アルー、ヴェルー何か食うぎゃー。マグロ、マグロ! おごってくれなきゃヴェルを『カマ』って言うぎゃー!」 とたん、ヴェルがキッと目を吊り上げた。 「なんでアンタに『カマ』呼ばわりされなきゃなんないのよ! ちょっとゾディ、こんなとばっちりいやぁよ、アタシ」 ヴェルの言葉遣いは女性的だが、身も心も男性である。 話をふられたアルテッツァは苦笑して夜鷹をなだめた。 「ヨタカ、はしたないですよ、こんなところで大騒ぎなど。……ですが、そうですね、せっかくですからお寿司でもいただきましょうか」 夜鷹はぴょんぴょん飛び跳ねて喜び、とうとう六連 すばる(むづら・すばる)に押さえつけられた。 そうして入り込んだ食堂の並ぶ通り。 どんどん奥へ行く夜鷹をアルテッツァが引きとめた。 「このお店にしましょう」 今の予算では一番高い寿司屋。 もっと奥に行けば行くほど値段が高くなる。 夜鷹は今度は騒がずにアルテッツァに従った。 四人がのれんをくぐった時、後ろを通り過ぎていく男女二人があった。 シャンバラ教導団団長の金 鋭鋒とこの前フマナで龍騎士の一人を倒したという横山ミツエだ。 ミツエがその時に借りたイコンを返しにきて、その後鋭鋒がここの寿司屋に誘ったのだ。 二人はどんどん奥へ行く。 結局鋭鋒が案内したのは、ここでもっとも高級な寿司屋だった。 そしてアルテッツァ達はというと、それぞれが注文した寿司に舌鼓を打ちながら聞こえてくる話に耳を傾けていた。夜鷹だけは鉄火丼に夢中だったが。 「ふぅん、太平洋の棄てられた米軍基地にイコンねぇ。ねぇゾディ、そのイコン……」 妖しく微笑むヴェルにアルテッツァも興味深そうな顔で頷く。 「成功すれば学院の益になりますかね?」 すばるを見やれば、異存はなさそうだ。 と、その空気をぶち壊すように夜鷹のおかわりを求める声があがった。 パラ実四天王が集められているらしい太平洋の孤島まで乗せてくれるというパラ実OBのマグロ漁船に乗り込もうとした時、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の携帯が鳴った。 携帯に出ると聞こえてきたのは連絡を待っていた魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)からで。 『石原校長ですが、裁判中で会えませんでして。そちらは今どこにいます?』 「これから船に乗るところ。そうか、仕方ないな。わざわざすまない」 『いえいえ。お気をつけてくださいね』 通話を切ったトマスは、一息つくと船に乗り込んだ。 子敬には東京に行って石原肥満校長に協力してほしい旨を伝えてもらおうとしたのだが、裁判中に相談できるわけもなく。 無駄足を踏ませてしまったことを申し訳なく感じた。 全員が船に乗り込むと、船は静かに出港した。 船長のパラ実OBが落ち着いたのを見計らい、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は孤島について尋ねた。 「いつの間にか妙なやつらが住み着いてたんだ。けど、基地にさえ近づかなけりゃ何もしてこねぇしな。最近噂のイコンもいるみてぇだし……。だがどうもキナ臭ぇんだ」 「廃棄された軍事基地に勝手に住み着いてる時点でキナ臭ぇだろ」 そりゃそうだ、とOBは笑う。 「四天王を集めだしたってのはいつだ?」 「わりと最近だな。ほら、おめぇらが甲子園で野球やったろ? あの少し後だ」 「……そうか」 計画自体は、新入生歓迎の時の【瞑須暴瑠】をした時からあったのかもしれない。あの時、ガイアはすでに様子が変だったから。 竜司は苛立ちで舌打ちした。 |
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