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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

リアクション

 
●校長室
 
「……ふむ、イナテミスから情報が来たぞ。一見した限りでは上々の戦果のようだ」
「はい、私も確認しました。ニーズヘッグへの先制攻撃に成功したようです」
 雅、そして白花から報告を受けた灯が情報をまとめ、それをアーデルハイトが確認する。ニーズヘッグの位置情報を一時的に把握したことにより、ヴォルカニックシャワーの斉射を敢行、ニーズヘッグに一定の損害を与えたというものであった。
「大規模な魔力の移動の原因は、これじゃったか。私の予想を遥かに上回る威力に思えたのう。……これで、私物を提供したカヤノの行いも報われたかの?」
「アーデルハイト殿、それは一体……」
 首を傾げる牙竜にふふ、と微笑み、アーデルハイトがニーズヘッグ防衛線へと意識を振り向ける――。
 
●『ウィール遺跡』と『氷雪の洞穴』の中間地点
 
 『ヴォルカニックシャワー』の斉射が行われる前、アーデルハイトが今回の作戦で主戦場と定めた地点には、ニーズヘッグをイルミンスールに向かわせんとする者たちが顔を揃え、具体的にどのような手段でニーズヘッグの侵攻を阻止するかの話し合いが行われていた。
 
「……ミオ、ごめん。今の作戦、あたいが分かるように3行でまとめてくれない?」
「仕方ありませんね。いいですか? 耳かっぽじってよく聞いて下さい。
 風の精霊達に風の結界を張ってもらう。
 氷結の精霊達に結界内の温度を下げてもらう。
 私たちがそこで戦う。
 カヤノさんこれが終わったら研究所の壁張り替えといて下さい、ズバーンと破られてばっかりなんで」
「分かったわ! あたいに任せておきなさい!」
 赤羽 美央(あかばね・みお)の提案する作戦をようやく理解したらしいカヤノが、ぺたんこの胸を反らして言い放つ。ウィール遺跡と氷雪の洞穴に住むそれぞれの精霊、さらには失った力を回復し、ようやく姿を見せられるようになった『ヴァズデル』と『メイルーン』の力でニーズヘッグを捕捉する結界を形成、活動が鈍った所を結界内に待機した生徒たちが襲撃、消滅に至らずとも抵抗力を失わせる――美央と、美央に助言を施した魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)の提案した作戦の要旨をまとめると、以上のようになる。ちなみに4行になっているのは、サイレントスノーの入れ知恵らしい。
「はわわ、カヤノさんちゃんと理解してますかー?」
「ま、大事な部分は伝わっとるだの。むしろあのくらいの方が扱い易くてよいのではないか?」
「ふふ、そういうことにしておきましょう、お姉様」
 話を聞いていた土方 伊織(ひじかた・いおり)が言葉を挟むのを見つつ、背後ではサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)が納得していた。
「脇から済まないが、一つ、提案させてくれないかね。予想進路通りに進んで来るのであれば、有効な対策ではないかと思ってね」
 その時、この場に集まった生徒たちの中から、源 鉄心(みなもと・てっしん)が進み出て提案を口にする。美央の提案する作戦を講じた防衛線の前方に、縦深性を持たせた防御陣地をいくつか構築し、侵攻してくるニーズヘッグに対しそれらを利用して戦う、というものであった。
「精霊塔の支援がどの程度のものか把握しきれてはいないが、侵攻をいくらかでも遅らせられれば、防衛線に到達する前に精霊塔からの支援を受けることが出来、敵の抵抗力を奪うことが出来るだろう。一点で突破を阻止するよりも、リスクの分散にも一役買うかと」
「ああ、さらに横からで済まないが、精霊塔……ヴォルカニックシャワーの仕様についてはこちらで情報をもらっている。参考にしてくれればいい。防御陣地の構築には俺達も手を貸そう。……ロザリンド、構わないな?」
「はい。提案されました作戦は、私がイナテミスで提案した作戦と酷似していました。協力者が多ければそれだけ、作戦がスムーズに進められるでしょう」
 校長室で情報をまとめる牙竜、イナテミスで同様の任に就いている刀真と事前に調整を行っていた橘 恭司(たちばな・きょうじ)ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が、鉄心の提案に協力を申し出る。
「なんかよく分かんないけど、あんたの言う通りになるんだったらいいんじゃないの? こっちは雪だるま王国の人とで進めとくから、あんたが中心になって準備を進めてちょうだい。あ、無理はしなくていいからね?」
「了解した、では早速準備に取り掛かろう」
 カヤノも鉄心が中心となって作戦を執り行なうのを了解し、一行は他の協力者を募りに散っていく。
「じゃ、あたいたちも準備を始めるわよ! あたいはメイルーン連れて来るから、セリシア、ヴァズデルは任せたわ!」
「はい、任されましたわ。では伊織さん、ヴァズデルと同胞を連れてウィール支城へ向かいますので、そこで合流して詳細を決めましょう」
「うむ、待っておるぞ。よし伊織、我の城へ向かうのだの。ベディも待ちくたびれておるだろうて」
「はわわ、支城はサティナさんの物じゃないですよ、って聞いてないですよー」
 伊織の命を受けて、既に準備を進めているであろうサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)と合流するべく『ウィール支城』へサティナと伊織が向かう。それじゃあたいも、と洞穴へ向かおうとするカヤノを、美央が引き止め口を開く。
「カヤノさん。カヤノさんは今や、氷結の精霊を束ねる精霊長です。統べる者は作戦の代表者として、最後まで全てを見る義務があります。ですから、カヤノさんには私と同じく最後衛から、メイルーンさんや大切な仲間たちを護る戦いをしてほしいのです」
 何でよ、と返そうとしたカヤノは、しかし美央の真剣な眼差しに言葉を止められる。それにカヤノ自身も、メイルーンがまだ氷龍と呼ばれていた頃の戦いで、危ない目に遭っていたことを思い出す。
「……ねえ、ミオ。あたいってそんなにおっきな存在?」
 それでも、カヤノはよく分からない様子で、そう口にする。自分はバカだから、こんな身なりだから、自分があれこれ言わなくても、自分がいなくてもどうにかなるんじゃないか、と。それだったら思い切り前で戦ってた方が、まだ役に立つんじゃないの、と。
「一国の代表が、そのような弱気では国が持ちませんよ。……大丈夫です、カヤノさんは立派に大きな存在です」
「……うん、ありがと、ミオ。あんたも女王、似合ってるわよ」
 そう言って飛んで行くカヤノの背中を、美央が見送る――。
 
●ウィール遺跡
 
 セリシアが扉を開いた先、4本の柱に巻きつく蔦を見上げ、セリシアが告げる。
「さあ、行きましょうヴァズデル。あなたを救ってくれた皆さんに降りかかる危機を、私たちの力で払いましょう」
 その言葉に応えるように、蔦が柱から離れ、それはより集まって人の姿を取る。セリシアと共に来た鷹野 栗(たかの・まろん)の望んだように、男性の姿を取り、そして栗の姿を認めたヴァズデルが、今度は栗にも聞こえる言葉を口にする。
「あなたが、私に名を与えてくれた……ありがとう。このような時でなければ、もっとゆっくりあなたと話をしたかったのだが」
「ううん……大丈夫、すぐにでもまた逢いに行くから。その時にいっぱいお話しよう、ヴァズデル」
「ああ、楽しみにしている。……では行こうか、セリシア」
 ヴァズデルの言葉に、セリシアが頷く。無理はしないでね、と告げて、栗が防衛線で待たせている羽入 綾香(はにゅう・あやか)レテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)と再び合流するべくその場を後にする。
(……うん、大丈夫。みんな一緒。だから……きっと大丈夫)
 駆ける栗の上空、枝の上に設けられた吹風の精霊の住居では、美央の作戦を伝えに来たタニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)シウスの姿があった。
「シウス、私は結界の中に行くわ。美央ちゃんの作戦通りに結界が展開された場合、中は風の精霊が不足するはず」
「……そうですか。心配してない、と言えば嘘になりますが……あなたが自ら決めたことに、私が口出しするのは失礼というものです。私はセリシア様と共に、結界の形成に尽力しましょう。タニア、作戦の成功と、あなたの無事を祈っていますよ」
「ええ、必ず戻ってくるわ」
 互いの身体が触れ合い、温もりを感じ合った後、タニアがすっ、と身体を離し、背を向けてシウスの住居を後にする。
「さて……私も準備をしなくてはな」
 周囲に残るタニアの残り香を吸い込み、シウスがセリシアの下へ馳せ参じるべく支度を整える――。
 
「セリシアさん!」「セリシアちゃん!」
 セリシアとヴァズデル、それに多くの吹風の精霊がウィール遺跡を出た所で、セリシアの姿を認めたルーナ・フィリクス(るーな・ふぃりくす)セリア・リンクス(せりあ・りんくす)が駆け寄って来る。一度自宅に寄って準備万端といった様子の二人が、瞳に強い意思を秘めてそれぞれ口を開く。
「セリシアさん、私もセリシアさんと一緒に行きます。私も戦うと、セリシアさんと一緒に歩いて行くと決めましたから……! 私に出来ることなら何でもします、協力させてください!」
「イナテミスを襲撃なんて、絶対に許さないよ! セリアだって魔法は色々覚えたし、できることはするよ!」
 二人の言葉に、セリシアは嬉しく思いながら微笑み、口を開く。
「ルーナさん、セリアさん、ありがとうございます。では、お二人も一緒に行きましょう」
「はい!」「うん!」
 箒に乗ったルーナとセリアは、同行していた男性がヴァズデルが人の姿を取ったものであることに驚いた様子を浮かべつつ、セリシアの後に付いてウィール支城へと向かう――。