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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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リアクション


(・ローゼンクロイツ2)


 PASDから通信機材を借り、関谷 未憂(せきや・みゆう)リン・リーファ(りん・りーふぁ)は空京のシャンバラ宮殿地下から天沼矛を駆け抜ける。
 影の人は、天沼矛内部にもいた。
「追ってくる……だけど、攻撃はしてこない?」
 気付いたことがある。
 契約者に向かってくるが、よくて足止めだ。強くもない。
「だけど、これだけいると邪魔だよね」
 直接攻撃はしてこないとはいえ、厄介な存在に変わりはない。
 ギャザリングヘクスで魔力を高めた後、未憂はバニッシュを、リンはファイアストームを放つ。
「光に弱い……それに、あのカードは」
 それが本体だ。
 そのカードを中心に、再び影が集まり人型が形成される。
 すぐにPASDの無線を通じて連絡する。ちょうどこのタイミングで、避難誘導も行われており、この情報はすぐに海京全体に伝わることになった。
「みゆう、さっきから気になってるんだけど」
 リンが魔導弓の矢に雷術を纏わせ、カードを撃ち抜く。そうしながら、未憂にある違和感を伝える。
「あのカード、一切の魔力を感じないんだよね」
「それは気になってたわ。ルーンの類かと思ったけど、そういうわけでもなさそうだし……」
 とはいえ、壊せば影の人は消える。
 戦いながら、下層を目指す。エレベーター自体は停止しているため、非常用の通路を駆ける。
「……外、どうなってるのかな?」
 外の様子が気になり、一度状況を把握しに展望デッキ付近まで行く。
 そこから見えたのは、空中にも展開された影の人、そして落ちていく少女と彼女を受け止め、不時着していく飛空挺の姿だった。
 デッキのガラス窓を破り、外へ出る。
 そのまま空飛ぶ箒にまたがり、一度天沼矛の最上部が見えるように高度を上げていった。
「あの人は?」
 漆黒の男が佇んでいた。
 PASDの情報によれば、その外見特徴は海上要塞にいたというローゼンクロイツなる人物と一致する。
 二人はローゼンクロイツの前に降り立った。
「貴方が、あの影達を放ったのですか」
「はい。ならばどうなさいますか?」
 彼女達が戦いに来たのかを問うてくる。まだその意思はなく、少し話したいうことを彼に伝えた。
「イコンについて、どのようにお考えですか?」
 最初に未憂の口から出たのは、そのような問いだった。
「遥か昔。サロゲート・エイコーンを造った二人は、絆の象徴だと考えていました。しかし、その二人は志半ばで敗れました。イコンを力だと、兵器だとして考えている者達に」
 目を伏せ、ローゼンクロイツが続けた。
「その二人はきっとこう望んだはずです。いつの日か、イコンの持つ力を正しく使う者達が現れることを。しかし……」
 現実は違った。
「一万年前も、五千年前も、いえ……人は歴史の中で力を用い、争い続けてきました。その中には、正しく力を使い調和をもたらさんとした者もいました。ですが、結果として打ち勝った者はいませんでした。
 人は繰り返す生き物です。その螺旋、連鎖に終わりはあるのでしょうか。今もまた戦う者達が、それをもたらすことが出来るのか。私は見定めなければならないのです」
「つまり、どういうことですか?」
「力を正しく使おうという意志を持つ者達がそれを求めるとき、彼女は目覚め、イコンは本当の意味で真の力を取り戻すでしょう。貴女達のような契約者達が、本当にそう望むのであれば」
 そして言う、代理の聖像は神を模倣したものだと。しかし聖像自体は神にはなり得ないのだと。
「貴女は神をどう思いますか?」
「私はたぶん、神様って信じてないんです。信じ願い祈り求める人の心に、神はいる。だからいることを疑ってしまった心の中に神はいない。どちらにせよ、最後に叶えるのは人間です。善いことも、悪いことも。
 ……私にとって神様はいなくても、信じて祈る人にとっての神様はいて欲しいなって思います」
 未憂の言葉に、ローゼンクロイツが口元を緩めた。
「人だけが神を持つ。それは遥か昔からそうでした。神とは一つの概念であり、実体を持たない存在。貴女の言うように、信じる者の中にそれは存在するのでしょう。しかし、絶対的な『神』は存在しません。いや、してはならないのですよ。
 もしそんな『神』ならば、全ての人を救わなければいけない。乗り越えられる者に試練を与える? なぜ絶対なのにそんなことをする必要があるのですか。全知全能であるならば、全てを平等に俯瞰し、誰も苦しまない世界にしてしまえば早いというのに」
 だから具体的な『神』がいてはならないと言う。
「パラミタの神は、そういった意味では神ではありません。ただ突然変異で力を得ただけの化け物であり、偽者です。神としての力といいつつ、それを壊すことにしか使わないエリュシオン帝国など、所詮はその程度に過ぎないのですよ」
「それなら、貴方達はどうして戦うのですか?」
 ローゼンクロイツが寺院勢力として立ち回る理由が見えてこない。
「今の地球勢力は、決して力を正しく使おうとしている者ばかりではありません。ですが、我が総帥は『選ばれし者』です。調和をもたらすのが、『選ばれし者』である総帥なのか、それとも貴女達シャンバラの契約者なのかを、私はこの戦いを通して確かめなければならないのです」
 その黒い瞳の奥には、静かな、それでいて強い意志が宿っている。
 まるでそういった戦いの歴史をその目で見たかのように語るローゼンクロイツの真意は、未憂には検討もつかない。
 しかし、この男がただの敵ではないということだけはどこかで感じていた。
「お話はここまでのようです。新たなお客様がいらっしゃいました」