蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

リアクション公開中!

イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~
イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~ イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~ イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

リアクション

 
「ところで、このアルマイン貰えるのか?」
「やらんわ! 今でさえ勝手に乗って行かれて困っとるというに……」
 アーデルハイトにたしなめられ、ジガンがチッ、と舌打ちする。
「ならドサクサに紛れて強だ――ってえ!」
 なにやらよからぬことを呟きかけたジガンの頭を、ゲンコツが直撃する。
「……冗談にしておけよ? そもそもおまえ一人では満足に動かせぬじゃろうがな」
 アルマインもイコン同様、二人乗り以上で初めてスペック通りの性能を発揮する。一人でも動かせないことはないが、せいぜいスペックの三割程度とされていた、のだが……。
 
「はああアアアッハハハハハアアアッハアハハハアギャッハアアアア!」
 
 どう見ても発狂しているようにしか見えない様子で、ジガンが近接兵装のブレイバーを操縦する。一人にも関わらず、普通以上に操縦をこなせているように見えた。
『ハァ……あのような操縦をすれば、魔力を使い切って廃人と化すぞ……。
 おい、面倒なことになる前にさっさと止めよ』
 アーデルハイトからの通信を受けるケイとカナタが、問題の機体を探し当てる。
「ブレイバーか……いくらこっちが空を飛べるったって、あっちの機動力には敵わないな」
 既に、マギウスがブレイバーに比べ、機動力ではかなり劣ることを(それでも空を飛べる分、他の多くの機動兵器に対してアドバンテージを持っていると言えるが)ケイたちは確認していた。
「とはいえ、こっちの組に近接兵装のアルマインは……」
 編成を思い出すケイ、赤組には二機のブレイバーが配置されていたが、一機は狙撃兵装であり、そしてもう一機の姿が見当たらない。この、近接戦を可能とするヴァリエーションの少なさ(近接兵装以外は結局、遠距離戦)は、一つ問題であるように思われたが、魔法使いの学校が使う機動兵器である以上、射撃戦に秀でるのは仕方ないと言えよう。
「一応、ソードは持っとるがの。試したくなったら付き合ってやるぞ?」
「いや、それは最終手段だろ。……アーデルハイト、マギウスに威嚇、援護射撃用の武器はないのか?」
 アーデルハイトに通信で呼びかけると、アーデルハイトから返答が返ってくる。
『おお、それについてはじゃな、マジックソードとマジックショットを各兵装の共通装備とすることでまとまった。
 また、カノンにはこれまでの仕様である『Cモード』と、炸裂する魔弾を放つ『Sモード』を用意した。
 今、おまえたちの機体にも反映させたはずじゃ。確認してみてくれ』
「どれどれ……おお、確かに選択可能になっとる。これは随時切り替えられるのか?」
『ひとまずのところはな。
 Cモードは威力・射程に優れた魔弾を発射するモード。確実に当てられる時に撃てば、痛手を負わせられるはずじゃ。
 Sモードは炸裂する魔弾を発射するモード。威力・射程は落ちるが、多数の敵の動きを牽制するのに使えるじゃろ。
 何せ色々と調整中でな、おまえたちには苦労をかけるが、頼んだぞ』
 言うだけ言って、アーデルハイトが通信を切る。
「今は、二つのモードを使い分けて挑むしかないな。……後、俺たちだけじゃ相手にならない。
 もう一機か二機、いるといいんだけど……」
 その時、ケイの乗る機体に近付いてくる、真紅の機体があった。
 
「どうですか、ズィーベン? 出力の調整は滞りなく行えていますか?」
「ま、歩く、飛ぶくらいなら問題なくやれてると思うよ。ナナこそ、生身とは勝手が違うんだから、油断してコケたりしないでよ?」
 今回が初搭乗のナナとズィーベンは、まずは歩行と飛行訓練から入っていた。水晶に触れ、自分が歩く、もしくは飛んでいるイメージを膨らませることで、アルマイン・マギウスはその通りに歩き、そして飛ぶ。普段箒で空を飛んでいるナナにとって、それはそう難しいことではなかったようである。
「基礎的な動作は大分慣れたと思います。次は、火器の取り扱いですね。
 ええと、まずはマジックカノンから……」
 カノンのスペックを確認するナナの背中を、ズィーベンが見やりながら心に思う。
(こうしてると、戦いの足音はもうすぐそこまで来てるんだなって気がするよ。
 ……もっとも、ナナはそんな事お構いなしに、自分の好奇心だけで動いてるんだろうけどね)
 そういえば、とズィーベンが呟いて、今自分たちが乗っている機動兵器のことを思う。
(これ、どういう原理で動いてるんだろうね? それに、地球人とパラミタ人が乗らないと力を発揮しないとか……。
 大昔も今と同じだったかな?)
 物思いに耽るズィーベンを、受信を知らせるアラームが現実に呼び起こす。
『お、ナナとズィーベンか。実は……』
 通信をよこしてきたケイとカナタが、なにやら暴れ回っているアルマイン・ブレイバーを止める旨を伝え、協力を申し出る。
「ま、ちょうど火器の扱いに慣れようとしてたとこだし、いいんじゃない?
 カノンには二つのモードがあるってのも、初耳だね。仕様の変更があったのかな?」
『アーデルハイトが言うにはそうらしい。ナナさんはSモードで、相手の牽制をお願いしたい。俺たちはCモードで一撃必殺を狙う』
「分かりました、やってみます」
 通信が切れ、立体映像にはケイの乗る機体と、標的のブレイバーの位置が表示される。
「Sモード……ふんふん、小さな魔弾をばら撒く感じかー。射程は出力である程度調整できそうだね。
 ナナ、出力の調整はボクに任せて、とりあえず狙いをつけて撃ってみて」
「はい」
 普段は近接戦を仕掛けることが多いナナにとって、ショットガンは射撃武器の中では、まだイメージが湧きやすい方かもしれない。効果を得るためには、(射撃武器にとって)至近距離で放たねばならない。『いかにして敵に近づくか』、これを考えねばならないためだ。
(……すれ違い様に撃つことも、可能なのでしょうか?)
 色々と可能性を検討しながら、ナナがカノンを構え、魔弾を発射する。
 
「うおおぉぉぉ!?」
 飛んできた魔弾が、機体のあちこちに食い込み、衝撃をジガンが襲う。
「なにしやがんだあああぁぁぁ!!」
 ジガンが叫び、そしてブレイバーがソードを構え、魔弾が飛んできた方向に存在する機体へ一直線に向かっていく。
 
「ナナ、飛んで! 地上にいたままじゃ不利だ!」
「はい!」
 ふわり、とマギウスが浮かび上がり、足元をブレイバーが通り過ぎる。
「可能な限り後ろに回って、撃って!」
「(壁を蹴るような動きで、下へ……! そこから、カノンの一撃を撃ち込む……!)」
 ナナのイメージに応え、マギウスが下に飛び、ブレイバーの背後からカノンを発射する。
 
「二度、同じ手は食わねぇえええええ!!」
 しかし、ブレイバーは羽を強く発光させ、上空へと回避する。
「しねええええぇぇぇぇ!!」
 恍惚に顔を歪ませ、ジガンが落下するようにマギウスへと迫る。
 
「上取られた、マズイよ!」
 ズィーベンの警告が響き、ナナが回避を試みようとした矢先、上空で爆発と衝撃が生じる。
 
「がああああああああ!!」
 操縦不能に陥ったジガンの機体が、ゆっくりと地面へと落下していく。
 
「クッ……わ、わらわの魔力が……吸われて……ッ!」
「へ、変な声出すなよ! そんな事する必要ないだろ!」
「何となくじゃよ。……ひとまず、任務完了ってとこかの?」
 おどけてみせながら告げるカナタにああ、と頷くケイ。
(……だが、射撃したのは俺だけじゃなかった……)
 攻撃がジガンの機体に当たる直前、強い魔力の奔流を確認したケイは、それが狙撃兵装のアルマインによるものと当たりを付ける――。
 
「……ふぅ。ダリル、今のはどう?」
 墜落するブレイバーを確認して、振り返ったルカルカがダリルに尋ねる。
「関節への負荷がかかり過ぎている。アルマインは銅龍ほど頑丈に出来てない。一度や二度はいいが、繰り返せばいずれ使い物にならなくなるぞ」
 既に歴戦の銅龍――シャンバラ教導団で採用されているイコン――乗りとしての経験を持つダリルは、これまでのルカルカの操縦を分析し、銅龍とアルマインのスペックの違いを把握し、アルマインに適した操縦法をルカルカにアドバイスする。
「うーん、そっかー。無意識に力入れちゃってるのかな。流石にまだ身体に染み込んでない……けど、ここでめげるわけにはいかないわ! 覚えるまで特訓あるのみよ!」
 それがたとえ他校のイコンであっても、操縦に不慣れである、というのは許しがたいようで、ルカルカがもう既に何度続けたか分からない基本動作(ライフルを構え、外すの繰り返し)を繰り返す。
『な、なんか凄いね、ルカルカちゃん』
「私たちは戦いのプロだもの。国を守るために必要とすることをやるまでだわ」
 感慨を覚えた様子のリンネの通信に、ルカルカがさも当然、とした様子で答える。
「……戦争なんてものは、私たち軍人に任せておけばいい。貴方達民間人まで戦場に出なくてはならないような状況は、好ましくない」
 軍人として、国や大切な人を守る為、直接もしくは間接的に数多の命を絶ってきたルカルカの言葉を、リンネはどう受け止めたか――。
 
『……でも、みんなも多分、自分の住んでるところと、自分の所属している学校くらいは、自分たちの力で守りたいんじゃないかな。それくらいの覚悟は、持ちたい』
 
 言った後で、失礼に思ったか、リンネが慌ててごめんね、と通信をよこしてくる。
 
 ある力を持つ集団が、力の劣る集団のために戦う。最初は問題なく推移していく。
 しかし段々と、守られる側の方にも、『自分たちで何とかしよう』という思いが芽生えてくる。
 あるいは、力を持つ側の意識が変貌し、『守ってやっている』という思いを滲ませるようになる(本人達は無意識、あるいは全く意識していなかったとしても、前述の守られる側の意識の変貌によりそう思われることがある)。
 やがて、守る側と守られる側とで、反発が始まる。最悪、そこでの戦争にまで発展する。
 
 これは容易に発生しがちな現象の一つであるが、パラミタでも今まさにこの現象が発生しようとしていた。
 
 シャンバラ教導団は、パラミタ進出当時はおそらく学校の中で抜きん出た軍事力を持っていた。
 故に、小規模な紛争から大規模な戦争まで、力を持つ集団として力の劣る集団のために戦ってきた。
 
 しかし、状況は変わりつつある。それぞれの学校も力をつけ、自衛力に関しては相当のものになってきている。
 すると、自分たちの場所は自分たちで守ろう、という意識が広がっていく。
 
 それを守る側が把握せず、これまでと変わらず力を行使しようとすると、『口出ししないでくれ』と反発される。
 反発とはいかなくとも、『戦うのは私たちに任せておけばいい』という意見と、『自分たちのことは自分たちで何とかしよう』という意見は、すり合わせになかなか苦労する。それは親子関係や恋人関係を見れば、自ずと証明される。
 
 これらを解決する手段の一つは、時間をかけた話し合いと、相手への揺るがない信頼である。
 ……が、そこは人間。それが上手く行けば戦争など起きない。
 
 今この瞬間にも、イルミンスールは内部から、企てを図る者たちによって限り無い危機の中にあるのだ――。
 
 
「ちょっと! 模擬戦って話なのに、みんなあっちこっち勝手に動いたりで、全然戦ってないじゃない!」
『ま、不慣れな動きしてっしな。……レイナ、テメェもそこにいっと落ちっぞ? 背の方にいりゃあいいじゃねぇか』
「いいのよここで。落ちたら落ちたで私の実力不足なだけ。……足は引っ張りたくないしね」
 
 竜形態に変化したニーズヘッグの頭の上に乗って、玲奈が模擬戦の様子を睥睨する。
『……ま、そこまで言うなら止めねぇよ。でもよぉ、そこにいたらオレが攻撃出来ねぇだろ。
 エリュシオンのヤツらだって、口から炎とか氷とか吐きやがんだ。巻き添え食っても知らねぇぞ』
「そう! ニーズヘッグ、火炎弾とか使えないの? 雷龍、氷龍と来たら火龍でしょ」
『聞いてねぇな……。オレは火龍じゃねぇし。
 ま、今のオレは元々の闇と、契約したことによる光、両方合わさったモンみてぇだっつってたな。よく分かんねえけど』
「大丈夫! 私にも全然分からないわ! ……で、何が出来るわけ?」
『……ま、実際にやってみせた方が早いな。下がってろ、マジで巻き添え食うぞ』
 ニーズヘッグの言葉を受けて、玲奈が首の付け根付近まで下がる。玲奈が下がったのを確認して、ニーズヘッグが首を震わせ、口を大きく開け、鈍い光を放ちながら揺らめく弾を放つ。弾は赤組の旗頭がいるはずの地点を飛び越え、奥に着弾して白い爆炎を吹き上げた。
「凄いじゃない!」
『オレを誰だと思ってんだ? 伊達に数万年生きてねぇぞ。
 ……ま、ただ、こうやってオレの方から攻撃すりゃあ、テメェらがしたように当然反撃が待ってんだがな。だから、オレもうっかり攻撃は出来ねぇ。テメェらを巻き込んじまうしな。
 ……だからっつって、攻撃しなきゃ攻撃されねぇかって話でもねぇんだがな。
 ま、結局どうするかってのはテメェら契約者の意見次第かもな。好きにやってくれ、ってんなら好きにやるし。テメェらはオレより頭いいんだろ? 上手くやってくれよな』
 ニーズヘッグがそう声を漏らした直後、模擬戦のこれ以上の続行は不可能と判断したアーデルハイトが、模擬戦の終了を告げた――。
 
 
「……これが、例のデータを纏めたものじゃ。
 最後、ニーズヘッグが放ったものについても、適当じゃがデータを収集しておるぞ」
「おお、助かる。必ずや、生徒の習熟に寄与するじゃろう」
 データを纏め終えたファタが、アーデルハイトに纏めたデータを渡す。
「はぁ……今日は訓練づくめで疲れましたよ……」
「あはは、フィリップとリンネはずっとそうだったもんねー……ってクマさん、サンドイッチ取り過ぎ!
 全然動いてないんだから、そんなに食べると太るよー?」
「ボクはもう諦めてるんだな」
「ほらほら、ケンカはダメだよ〜。まだまだあるから大丈夫だよ!」
「ええ、こんなこともあろうかと、用意させていただきました」
 その横では、花音とリュートが用意した軽食を囲んで、訓練で感じたことを皆で話し合いつつのお疲れさま会が開催されていた。
「それじゃ私たちも行きましょうかニーズヘッグ――」
 訓練場から戻ってきた玲奈が、ニーズヘッグを連れて行こうとしたところで、誰かに首根っこをがし、と掴まれる。
 
「……どこに行くと言うのですか?」
 
 ようやくのことで玲奈の居場所を探り当てたレーヴェの、這い寄るような言葉に、玲奈が背筋を震わせ、油の切れたブリキ人形の如く首を振り向ける。
「……オーケーもちつけ師匠、ちょっと疲れたから休憩に――」
 振り解こうと身体を捻りかけたところで、レーヴェの一撃――禁忌の書の角で、玲奈の後頭部を殴りつける――が炸裂し、きゅう、と玲奈が意識を失う。
「さあ、行きますよ」
 そのまま玲奈が、ズルズルと引き摺られていく――。