リアクション
「動いちゃダメですぅ」 展示室の中で、神代 明日香(かみしろ・あすか)が神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)の帯をぎゅっと引っぱって言った。 ここも展示室のはずなのだが、なんだか着付け教室のようになっている。 すでに振り袖に着替えた神代明日香が、神代夕菜の着付けを手伝っているのだ。 帯をぎゅっと引っぱられた神代夕菜が、豊かな胸を締めつけられて少し息苦しそうにする。それを見て、神代明日香がちょっとしょんぼりとした目をした。 それは、神代明日香の方が、振り袖を着るには適した体形をしているとはっきり言えるわけだが。 「あー、面白いことしてるー。混ぜて、混ぜて♪」 展示室内の様子を見たリン・ダージ(りん・だーじ)が、目を輝かせて中へと入っていった。 「はい、次の人はこっちに来てですぅ」 リン・ダージの胸を見て、神代明日香がぱっと顔を明るくした。 「お友達ですぅ」 ぺったんこシンパシーを感じて、神代明日香がリン・ダージの手をとった。 「なんで、私がいるですぅ。というか、その変な連帯感はなんですぅ!」 その様子を見た、本物の神代明日香が、大きな声で言った。 「あれ? なんで同じのがいるのよ。双子?」 振り返ったリン・ダージが、神代明日香たちを見比べて戸惑った。 「違うもん」 神代明日香が否定する。 「あー、さっきの食堂は食べ損なっちゃったけど、こっちは着付け教室やってるー。絵の展覧会だと思ったけど、いろいろなイベントやってるんだー」 完全に勘違いしたノーン・クリスタリアが、ニコニコとしながらやってきた。その後ろから、リカイン・フェルマータたちもやってくる。 「うむ、これはまた眼福だな」 展示室入り口の通路に立った中原鞆絵(木曾義仲)が、嬉しそうに言った。 「この和の雰囲気がたまらん」 「えー、だってこれって絵じゃないじゃない。イベントよ、イベント」 シルフィスティ・ロスヴァイセが突っ込んだ。 「なんだか無茶苦茶ね。でも、こういうのは落ち着く……はうあ」 パートナーたちの後ろから展示室の中をのぞき込んでいたリカイン・フェルマータが、突然猫車を押す少女に撥ねられた。 「あはははははははは……」 高笑いをあげながら、あっという間に猫車が通路のむこうへと逃げ去っていく。 「交通事故よ!」 信じられないというふうにシルフィスティ・ロスヴァイセが叫んだ。 「ふっ、その程度のことで」 イコンから突き落とされたり、トナカイの橇に轢かれるよりましだと、ジガン・シールダーズが倒れてるリカイン・フェルマータをまたいで展示室の中に入っていった。 「さすがに、さっきのは焦ったが、これなら充分に色っぽいぜ。やっぱり、恥じらいっていうのは大事だよなあ」 襟元に指を差し込んで少し胸元を緩めている神代夕菜を見て、ジガン・シールダーズが言った。 「えっ?」 着付けてもらうために、さばさばとメイド服を半脱ぎしていたリン・ダージが、振り返った。 「下品だ。色っぽすぎ……ないか。うん、許容範囲内だ。みんな仲間だ」 ぺったんこのリン・ダージを見たジガン・シールダーズがなんだか勝手に納得した。 「殺す」 「同意するんだもん」 「あの、あのー、うん、同意……って、さりげに酷いこと言われたんだもん」 あわてて服を着直そうとするリン・ダージと二人の神代明日香が騒いだ。 「主上、危険! 危険!」 ザムド・ヒュッケバインが、焦ってジガン・シールダーズをつつく。今や、三人のぺったんこの敵意は、完全にジガン・シールダーズにむけられていた。 「あの、明日香さん? いったいどうしたのですか?」 なんで神代明日香たちが騒いでいるのか分からない、たっゆんな胸の本物の神代夕菜が首をかしげた。和服の神代夕菜の方は、しきりに胸のあたりを気にしながら姿見を見ている。 「待てー!」 逃げるジガン・シールダーズたちを追って、リン・ダージと神代明日香たちが走っていった。 「やれやれ、落ち着きのない」 『絵は、かわいいのですけれどねえ』 中原鞆絵(木曾義仲)が、壁にある『【2021 お正月】振袖の着付けにて』の絵を見ながら言った。他にも、かわいらしくもちょっと色っぽい絵がたくさん壁にかかっている。和服の神代明日香が外に飛び出していったので、展示室が少し元の姿を取り戻したらしかった。 |
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