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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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霧の森

 
 
 イルミンスールの森は、珍しいくらいの深い霧につつまれていた。
 未だ空中に浮かぶ世界樹からは、その様子がよく見える。
 北西にかけて、普段は緑に萌える森が広範囲に白く霞んでいるのである。
 さすがに広大なイルミンスールの森すべてが霧に埋もれるはずはないが、それでも人にとっては広大な領域だ。
 ミュージアムで遭遇した霧が、ここイルミンスールの森に現れたと聞いて、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)たちゴチメイ隊はやってきたのだが……。
 霧の中に入ったとたん、中型飛空艇を運転していたアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)が気分を害してしまったのだ。今は、車内で軽く横になっている。
「無理もないですわあ。微かですけれどお、霧に混じっているこの匂い……。ホワイトさんにはあ、きついのかもしれませんねえ」
 チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が、丸みを帯びた小振りの鼻をクンクンとさせた。
 甘く香る黒蓮の香り。かつてタシガンの城でさんざんゴチメイたちを苦しめ、つい先日も美術館で騒動を起こした霧と同じ物に間違いない。
「この霧は気にくわない。まったく、さんざ、私たちを玩具にしてくれた霧だからね。シェリルのためにも根絶するよ!」
 ココ・カンパーニュが周囲の霧を見回して言った。
「人の心を具現化することにどれほどの意味があるのでしょうか。しょせん、それは幻でしか過ぎないというのに」
 ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)も、この霧の存在自体についてはかなり懐疑的だ。
「でも、面白い人には面白いんじゃない? それに、幻影といったって、実体があるじゃん。ある意味、幻じゃなくて、コピーだよ」
 マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)としては、相変わらずどっちつかずだ。ただ、単に、すべてが悪いとか、すべてが正しいとかいうのは、そちらの方が安直だと考えているに過ぎないが。
「どっちにしたって、こっちの言うこと聞かないコピーなんか、やっつけちゃうのがいいよ」
 リン・ダージ(りん・だーじ)が、太腿あたりのホルスターを軽くポンポンと叩いて言った。
「無理はしてくれるなよ。毎度毎度、迎えに行くのも楽ではないのでな」
 ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が、しっかりとリン・ダージに釘を刺した。
 そう言い合う間にも、濃くなった霧がゴチメイたちのいる場所へと流れ込んできた。
 すでに霧は誰かの意識を具象化しているらしく、霧の中にたまにチラチラと人影のような物が通りすぎては消えていく。まるで、何かに囲まれているような、何かに監視されているかのような雰囲気で居心地が悪かった。すべての方向から、誰かの視線が注がれているような、そんな感覚だ。
「ああ、うっとうしい!」
 頭にきたココ・カンパーニュが、ドラゴンアーツの拳圧で、軽く周囲の霧を吹き飛ばした。勢いあまって、何本かの大木がざわざわと梢をゆらしてしなった。
「うっぷ。やっと見つけたと思ったら、危なく吹っ飛ばされるところでしたよ」
 霧の調査にきていた月詠 司(つくよみ・つかさ)が、やれやれという感じで霧の中から姿を現した。ゴチメイたちもやってきているという情報を得て、合流しようと捜していたのだが……。
「出たわね。それにしても、どうして、この霧ってこうも悪趣味なのよ!」
 月詠司にむかって、リン・ダージが即座に両手で拳銃をむけた。
「ああ待ってよ。怪しくても、怪しくないから」
 あわてて飛び出してきたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、リン・ダージの前に立って手を広げた。すんでのところで、リン・ダージが銃口を上にむけて自重する。
 危機一髪だったわけだが、まあそれも無理はない。
 霧の中から現れた月詠司は、魔法少女のコスチュームに、銀鎖や水晶のアクセサリーを腕や足首や耳などにジャラジャラとつけた誰得という衣装だったからだ。
「いきなりそんなのが出てきたら、普通撃ってるわよ。第一、今は霧が変なのに化けてるんだから」
「まあまあ、そんなに殺気立っていては、ろくでもない物を撃ってしまいますよ」
 プンスカ怒るリン・ダージを、ペコ・フラワリーが落ち着かせた。
「でもお、なんだかあ、魔法を使う少女としては喧嘩を売られているようなあ気がするのですがあ」
 チャイ・セイロンが、持っていたステッキにちょっと力を込めて言った。
「そんなことはありません。ちょ、ちょっと、こういうときのストッパー役のアルディミアクくんはどこにいるんですか?」
 さすがにちょっと焦って、月詠司がココ・カンパーニュに助けを求めた。
「ちょっと飛空艇の中で寝ている」
 さて、殴ろうかかばおうかと考えあぐねながら、ココ・カンパーニュが答えた。
「寝ている。それはいけません。よければ、看病しましょう。なあに、これでもナーシング持ちの白衣の天使ですので」
 ここが活躍のときと、月詠司が言った。
「ナーシングなら使えるよ」
「ナーシングなら使えますよ」
「ナーシングなら使えるね」
「ナーシングならあ使えますわあ」
「ナーシングなら使えるもん」
「ナーシングなら使えるぞ」
 一斉に、ゴチメイたちから同じ言葉が返ってきた。
「まあまあ、そのへんにしてやってくれんかのう」
 見かねたウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が、助け船を出した。
「確かに、これから霧をなくしに行くのならば、留守番がいた方がいいだろう」
 ジャワ・ディンブラが、ココ・カンパーニュたちを説得して飛空艇の方を指し示した。
「お任せください」
 遙か昔に地上を走っていたというボンネットバスに酷似した飛空艇に、月詠司が入ろうとする。そのドアは大きく開け放たれていた。
「まったく。こんな霧など、星拳で吸い込んでしまえばいいではないか」
「できないって。まったく、星拳が吸い込めるのは魔法とかだけだって何度言ったら……」
 ウォーデン・オーディルーロキの言葉に、ココ・カンパーニュが憤慨したように答えた。以前、仮面にお兄ちゃんもそんなことを言っていたが、酷い誤解である。光条兵器と強く結びついた携帯電話と、純粋なエネルギー結晶の魔法石を別とすれば、星拳は物質を吸収することはできない。吸収できるのは純粋なエネルギーだけである。そして、霧は一応ちゃんとした物質である。
「あのー、誰もいませんが……」
 中を見た月詠司が、怪訝そうにゴチメイたちに訊ねた。
「そんな馬鹿な……。本当だ!」
 急いで中を確かめたココ・カンパーニュがあわてる。
「いったい、いついなくなったの?」
「多分、さっき一時的に霧が濃くなったときじゃないでしょうか。おそらく、この香りで軽い酩酊状態だったでしょうから、何かに連れ去られたという可能性もあります」
 首をかしげるリン・ダージに、ペコ・フラワリーが言った。
「大変だ、すぐに捜さなくちゃ!」
 言うなり、ココ・カンパーニュが飛び出していく。
「ああ、リーダー、あなたまで迷子になっては……。しかたないですね、すぐに追いかけましょう」
 ペコ・フラワリーが一同をうながした。
 霧の中では小回りが利かないジャワ・ディンブラをその場に残して、ゴチメイと月詠司たちはいなくなったアルディミアク・ミトゥナとココ・カンパーニュを捜しに、森の中へと踏み入っていった。
「やれやれ。無事にちゃんと見つけだしてくれればいいのだが」
 ココ・カンパーニュたちを見送ったジャワ・ディンブラが、ちょっと心配そうにつぶやいた。
 そのとき、霧の一部が赤い炎につつまれて消え去った。そのむこうから、秋月 葵(あきづき・あおい)が現れる。
「やっと見つけたんだもん。霧に変なことされなかった?」
 霧の中をゴチメイたちを捜していた秋月葵がジャワ・ディンブラに訊ねた。
「うむ、また誰か来たか。ちょっと遅かったようだな。ホワイトがいなくなったので、みんなで捜しに行ってしまった後だ」
 秋月葵に、ジャワ・ディンブラが答えた。
「それは大変なんだもん。今こそ、魔法少女の出番だよね、行くよ、マカロンちゃん。変身!」
 そう叫ぶなり、秋月葵がゆるスターのマカロンにキスをした。光術で目映い光が輝く。その輝きの中、駆け出す秋月葵の服が光に溶けて輝くレオタードとなった。タンと踏み出す一歩で、足に靴が現れ、ふくらはぎを空色のレッグウオーマーがつつみ込む。大きく振った腕にも、同じ色のアームカバーが現れた。大きく逸らしたぺったんこの胸のところに青いリボンがしゅるんと結ばれ、上半身がダブルの青いブラウスにつつまれる。ポーンと大きく飛び跳ねると、腰の部分を流れる風がそのままスカートとなって翻った。トンと着地すると、靡いた髪の左右を青いリボンが結んでツインテールに纏める。
「颯爽登場、愛と正義の突撃魔法少女、リリカルあおい☆」
 キラッ☆と秋月葵がポーズをとる。
「消えちゃえー!」
 言うなり、秋月葵は行く手に立ちはだかる霧をファイアストームで薙ぎ払った。