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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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●WANDERING LUSH(3)

 負傷したシータはバロウズと朝斗より離れ、幽綺子の死体を探すも、すでに幽綺子は博季に抱きかかえられ付近にいないことに気づいて舌打ちした。
 逃れるシータは、目の前に小山内南がいることに気づいた。
「おや……きみか、Σ(シグマ)」
「もう嘘はたくさんです。……シータさん」
 南はまだ恐怖心を抱いているのだろうが、その眼差しはしっかりとシータを見つめている。
 しかも、彼女は一人ではなかった。
「さあ、決着をつけましょう。自分の心にね」
 と、涼介が南に呼びかけ。
「私とおにいちゃんがいるからね、催眠術なんてかけさせないよ。おかしな動きをしたらただじゃおかないよ。こう見えても私は守護騎士なんだから」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)も請け負った。
 クレアは、他の仲間のように不安がってはいない。それは、
(「大丈夫だよ南ちゃんは心が強いもん」)
 と究極的なところで信じているからである。
「で、シグマ……いや、南くん、私に何を言いに来たのかな? 死ねとでも?」
「いいえ」
 南は言った。
「私はあなたを、赦(ゆる)しに来ました」
 さすがにこれは予測していなかったのだろう、シータは言葉を失った。
「シータさん、私はあなたを赦します。洗脳も、その後の命令も赦します。もうあなたを恨んではいません」
「きみのパートナーのことは」
「赦します。もちろん、返してくれるならそれ以上のことはありませんが」
 シュリュズベリィ著『手記』がするすると触手で這って、シータの傍にたどり着いた。
「クククッ……なかなかの指し手じゃな、南とやらも」
「実際やりづらいね……一本取られたというか。よろしい、南くんのパートナーは解放してやろう。彼は」
 このとき、まとまりかけた話を闖入者が粉砕した。
「この状況では会いたくなかったなあ、きみとは」
 シータは、新たに登場したクランジを見た。呆れたような口調で言う。
 ところどころ蒼いアクセントの入った桃色の髪、黒衣、同じく黒い帽子、左腕があるべき場所に長い刃物――。
「シータ。なぜΕ(イプシロン)の居場所を私に教えたのですか?……のだ?」
 語尾を訂正するという奇妙な話し方のある彼女は、大黒美空であった。
「イプシロンの居場所をリークしたのが、シータであることはつきとめている……います」
 帽子の鍔から雨を滴らせながら、美空は冷たい目でシータを見ていた。
 やれやれ、と言いたげな口調でシータは言った。
「そりゃあ、イプシロンを殺してもらうためさ。決まってるだろう? まあこっちとしてはオングロンクス、君に死んでもらってもよかったんだがね」
 反乱軍の主導権をクランジΕ(イプシロン)に奪われたくなくて、Θは美空とイプシロンを戦わせたのだと悪びれもせず明かした。美空とイプシロン、どちらが死んでもシータには利益になる。もちろん、その両者が相打ちになるのが最も望ましい。
「リーダーは一人で良かったんでね」