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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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●Re-Birthday……(2)

 爆発から、半キロほど離れた地点。
「悪かったな。いきなりで」
「だから話すな、って言ってるじゃない。爆発したらどうする気?」
 飛空艇だ。操縦桿を握るのは垂。助手席では、パイがビーフジャーキーをかじっている。
「いいさ。これで爆発したら運命と思おう。こう見えて、これまで危ない橋は随分渡ってきたからな」
 あの爆発はすべてカムフラージュだった。垂がとっさに選んだ行動であり、監視カメラを持つ蜘蛛怪物を騙す(つまりシータを騙す)ための演技であったが、パイはたちまちこれを理解して応じた。美羽やアルテッツァも頭が切れる。恐らくはこれに気づいたと思うし、気づかなかったとしても、朔が用意した残骸から真実をすぐ察知できたはずだ。蜘蛛型機械は映像を送ったところでお役御免、ゴルガイス・アラバンディットあたりに叩き潰されているに違いない。
「クランジΠはあの時死んだよ……お前はもう『クランジ』じゃない」
「まあ、少しそこから離れてもいいかもね」
「生まれ変わって新しい人として『パティ・ブラウアヒメル』とでも名乗ったらどうだ? ああ、ブラウアヒメルってのはローラ……ローが名乗ってる苗字だ。元々姉妹みたいなもんだったんだし、これから本当の姉妹として生きて行くのも良くないか?」
「あんたしゃべり過ぎよ、怖くないの? 『ブラウアヒメル』……『蒼空』って意味よね……なんて、キーワードとしてかなり危なかったんじゃない? シータって陰険だから、こういう単語を選びそうだわ」
「今、そう言われて危ねぇと気づいた」
 垂はにかっと笑った。
「……あんたの楽観的なとこ、どことなくローに似てる」
 パイは肩をすくめる。ローのことを考えた。ローにはいつか、ちゃんと謝りたい。
「可能ならば形式上だけでもメイド部隊にほしかったけどな……」
「冗談やめて。じゃ、そろそろ」
 島の南端でパイは、飛空艇の縁に足をかけた。
「イオタが乗ってきた船が残ってるはず。それを使ってどこかに行くわ。人のいないところにね」
「もう一度だけ言うが……」
「感謝はしてるけど提案には乗れない。もうこれ以上、自分の身体をいじられるのは真っ平なの。ありがとね」
 いつか手紙でも出すわ、とパイは手を振った。ローにもそうやってコンタクトを取ろう。あとは、隠遁するのも悪くはない。もともと自分は一人だった。また、一人に戻るまでだ。
「さて……」
 波打ち際に降り、黒いボートを見つけたところでパイは立ち止まった。
「あんたもしつこいわね……」
 振り返るとそこに、切の姿があった。
「しつこい男は嫌われるわよ」
「でも、しつこくせんと、パイはワイのこと覚えてもくれないだろ?」
 それは考えてなかったようだ。パイは少し口ごもったが、
「しゃべるのはほどほどにしときなさい。シータの話は本当よ。死にたいの?」
「いいよ。パイの笑顔を見て死ねるんなら」
「本気なの?」
 パイは、思わず訊き返していた。「話すな」と言っていた彼女がである。
「ワイはパイが好きだ! 大好きだ愛してる! だからパイを護る! 殉死しようともだ!」
 切は一瞬息を吸い込んだ。ここから言うことを口にするのは初めてだ。
「ワイの……『俺』の名前は! ユーリウス・シュヴァルツシルト! パイの騎士だ!!!」
「も……もう、やめてよ、あんた! 恥ずかしいのよ!」
 何を思ったか、パイはしゃがんで小石を拾うとポンポンと投げた。
「あっち行け、バカ!」
 また拒絶されるのか、と切は思った。しかし、それでもよかった。ずっとひた隠しにしていた本名を、他ならぬ愛する女性に告げることができたのだ……心は穏やかだった。 
 コツンコツンと小石が頭や肩に当たる。そういえばどうして超音波攻撃をしてこないのだろう――切が思ったそのとき、
 ごつん、
 と、硬くて重いものが切の頭に命中した。地味に痛い。すごく痛い。
「うおっ、きついな……ん?」
 ぶつかったものを手にして切は立ちあがる。無骨な黒い外見、コンパクトだがなんだか野太い。ボタンがいくつか付いていて、黒いアンテナがのばせるようになっている。旧型のトランシーバーのようだ。
「それ、シータにもひた隠しにしてたやつよ……超アナログのやつだから最新鋭の装置には逆にひっかかりにくい……。本当は、何かあったらローに渡すつもりだったんだけど、無駄になっちゃったから、捨てるわ。まあ、持っておきたいなら持っておいてもいいけど」
 ひらりとボートに飛び乗ると、パイはエンジンを探して船を駆動させた。
「……いつか、暇で暇でどうっしようもないときに、なんかの間違いでそこに通信、入れるかもしれない……あたしももう一機、持ってるから」
「じゃ、じゃあ……!」
 切は顔を輝かせた。海の冷たさも厭わず、水際に降りてじゃぶじゃぶと走った。
「じゃあ、落ち着いたら連絡くれ! 絶対に連絡くれ! パイ、デートしような!」
「バカ! 連絡は『するかもしれない』ってだけの話よ! それに……デ、デートなんかしないわよ! 人の多いところで会ったら……それこそ爆弾テロになるじゃない……」
「だったら最初から二人きりが前提というわけだな! 山でも森でもデートはデートだぜぃ!」
「大バカ!」
 ボートが動き始めた。切は平泳ぎになってこれを追う。
「待ってるからな、連絡! 最後に笑顔を見せてくれ、パイーっ!」
「イヤですよーだ!」
 パイは、べーっと舌を出したが、その目は笑っていた。